ニュース

2型糖尿病患者の重症低血糖発作が心血管病のリスク上昇と関連 メタアナリシス研究

国立国際医療研究センター糖尿病研究部
 2型糖尿病患者における「重症低血糖」は心血管病リスクと関連することが、国立国際医療研究センター糖尿病研究部(後藤温上級研究員、野田光彦部長)が行った、6研究・90万人以上を対象とした研究で明らかになった。重症低血糖を予防しながら血糖コントロールを行うことが、心血管病発症予防のために重要であることが示された。研究は、英医学誌「ブリティッシュ メディカル ジャーナル(BMJ)」に7月30日(英国標準時間)に発表された。

 網膜症、腎症、神経障害(細小血管症)や、心筋梗塞、脳卒中(大血管症)などの「合併症」は、生命予後や生活の質(QOL)を脅かす要因となる。血糖をしっかり下げれば、こうした合併症を予防できる。しかし、血糖値をただ下げれば良いというわけではなく、低血糖を避けながら、無理なく血糖を低下させる計画的な血糖コントロールが重要と考えられている。

 2型糖尿病における心血管合併症の抑制を目指した大規模介入試験である「ACCORD試験」が米国やカナダで行われた。標準治療群(HbA1c平均値 7.5%)に比べ、強化治療群(HbA1c平均値 6.4%)で総死亡が約22%増加するという結果が2008年に発表され、世界的に注目された。それまで、血糖値を低くコントロールすれば糖尿病合併症を抑えられると考えられていたので、逆に死亡が増えてしまったのは想定外だった。

 ACCORD試験の強化治療群に参加した糖尿病患者では、HbA1c目標値が6.0%未満と低く設定されており、その後の研究で、厳格な血糖管理により「重症低血糖」が高い頻度で起こっていたことが分かった。低血糖は糖尿病治療でしばしばみられる合併症であり、良好な血糖コントロールを実現する上で大きな障害になる。ACCORD試験では、重症低血糖が心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを誘因したために総死亡が増加した可能性があった。

重症低血糖発作による心血管病リスクをメタアナリシスで解明
 国立国際医療研究センター糖尿病研究部の研究チームは、合計90万3,510人の患者を対象とした6件の研究を、メタアナリシスとバイアス分析で検討した。メタアナリシスとは、いくつかのランダム化比較試験の結果を統合し、より高い見地から分析する研究手法。多くの研究報告を統合して解析することで、より質の高い情報を引き出すことができる。

 重症低血糖の心血管病リスクに及ぼす影響をランダム化比較試験で検証することは不可能なので、研究チームは、観察研究におけるバイアスの程度を定量的に評価するバイアス分析を行うことで、重症低血糖が心血管病の危険因子となるかどうかを調べた。

 その結果、重症低血糖と心血管病リスクの上昇とは関連しており、低血糖を起こすことなく、厳格なコントロールを達成することが、死亡率を減らし、心血管イベントを抑制する上で重要であることが示唆された。

 主な結果は次の通り――

  1. 重症低血糖は0.6~5.8%の頻度で発生していた。
  2. メタアナリシスの結果、重症低血糖の心血管病リスクは2.05倍(95% 信頼区間 1.74-2.42)であることが明らかになった。全6件の研究において、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連していた。
  3. バイアス分析では、併存する重篤疾患が重症低血糖と心血管病リスクの双方にきわめて強く関連していない限り、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連することが示された。

 後藤温上級研究員は今後の展望として、「重症低血糖の予防策を明らかにし、重症低血糖を起こさず血糖管理を行うことにより、2型糖尿病患者における心血管病発症が抑制されるようになることが期待される」と述べている。

(独)国立国際医療研究センター 糖尿病研究部

【発表雑誌】
雑誌名:BMJ
論文名:Severe Hypoglycaemia and Cardiovascular Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis with Bias Analysis
掲載日:7月30日(英国標準時間)に掲載
著者:後藤 温、Onyebuchi A. Arah、後藤 麻貴、寺内 康夫、野田 光彦
責任著者:野田 光彦
http://dx.doi.org/10.1136/bmj.f4533

[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2023年08月09日
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より
2023年08月08日
若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
2023年07月28日
2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
2023年07月24日
標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
2023年07月11日
自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
2023年06月20日
肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
2023年06月12日
自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
2023年06月05日
要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
2023年05月19日
令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
2023年05月18日
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶