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肥満パラドックス論争に終止符 標準体重の人がもっとも健康的

 糖尿病の人が太りすぎや肥満であると、死亡率が上昇することが、1万人以上を16年間追跡して調査した研究で明らかになった。研究は、医学誌「ニューイングランド ジャーナル オブ メディスン」に発表された。

 太っている人は、高血圧や2型糖尿病、腎臓病など、さまざまな病気にかかりやすい。脂肪の蓄積は、インスリンの効き方が悪くなるインスリン抵抗性を引き起こし、血糖コントロールの悪化につながる。そのため、過体重や肥満の人は、減量をするようアドバイスされることが多い。

 しかし、実際に統計をとってみると、標準体重の人よりも過体重や肥満と判定された人の方が長生きする傾向がある。この矛盾は「肥満パラドックス」と呼ばれ、多くの医師や医療スタッフを悩ましてきた。

 ところが、2型糖尿病を発症した時点で過体重や肥満である場合は、明らかに死亡率が上昇するという大規模研究の結果が発表された。「肥満の人は体重を減らすことが適切であることが、あらためて確かめられました。健康的な体重を維持することが大切です」と、研究者は強調している。

肥満は体にとって危険信号
 「太りすぎや肥満であることにはメリットはありません。肥満は体にとって危険信号のようなもので、健康を損ないやすい状態なのです」と、研究を主導したハーバード公衆衛生大学院のディアドリ トビアス氏は話す。

 糖尿病の発症メカニズムについては、まだ解明されていない部分が多い。多くの患者では、10年くらいをかけ徐々に血糖値が上昇していくとみられている。しかし、糖尿病は自覚症状が乏しい病気なので、検査を受けていないといつの時点で糖尿病を発症したのかを特定できない場合が多い。

 今回の研究は、合計1万1,000人以上の医療者が参加し、平均16年間追跡して調査が続けられたことが特徴。参加者は定期健診を欠かさず受けていたので、糖尿病の発症時期を正確に記録できた。

 研究チームは米国で行われた2件の大規模研究のデータを解析した。1976年に開始された「看護師の健康に関する研究」(Nurses' Health Study)と、1986年に開始された「医療従事者追跡研究」(Health Professionals Follow-up Study)は、それぞれ8,970人と2,457人が参加して行われた。

 その結果、糖尿病と診断された時点で過体重や肥満と判定された人は、標準体重の人に比べ死亡率が上昇し、肥満の人ほどこの傾向が高まることが明らかになった。死亡率がもっとも低いのは、体格指数(BMI)が22.5~24.9の標準体重の人だった。

 死亡率は、体格指数(BMI)が22.5~24.9の人に比べ、25.0~27.4の人では1.12倍に、27.5~29.9の人では1.09倍に、30.0~34.9の人では1.24倍に、35.0以上の人では1.33倍にそれぞれ上昇した。

肥満者は体重の5%を減らすだけで効果的
 注意しなければならないのは、喫煙習慣のある人では、肥満でなくとも健康を害するおそれがあることだ。たばこを吸う人は痩せいている傾向がある。しかし、喫煙習慣があると、標準体重であったとしても、たばこを吸わない人に比べ明らかに死亡率は高くなっていた。

 「たばこを吸う人は、糖尿病や心臓病の有無に関わらず、肥満に合併した病気の発症が増え死亡率が上昇します。たばこを吸う人は、いますぐ禁煙するべきです」と、トビアス氏は述べている。

 過体重や肥満の人は、減量して標準体重まで落とすことが勧められるという。ただし、体重を大きく減らさなければならないわけではなく、肥満の人は体重の5%を減らすだけでも、肥満にともなう糖尿病合併症、腰痛や関節痛など、さまざまな病気を予防・改善しやすくなる。

 「肥満パラドックスに関しては、これまでも多くの議論が交わされてきました。今回の研究結果によって、そうした議論は葬り去られると願いたいです」と、トビアス氏は述べている。

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No evidence of survival advantage for type 2 diabetes patients who are overweight or obese(ハーバード公衆衛生大学院 2014年1月15日)
Body-Mass Index and Mortality among Adults with Incident Type 2 Diabetes(ニューイングランド ジャーナル オブ メディスン 2014年1月16日)

[Terahata]
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