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心臓からおこる脳梗塞をご存知ですか? 脳卒中予防への提言を発表

 不整脈のひとつである「心房細動」により引き起こされる脳卒中が増えている。発症すると、寝たきりなど重い後遺症を残すことがあるので注意が必要だ。脳卒中を防ぐために、心房細動の検査を定期的に受け、必要に合わせて適切な治療を受けることが求められる。

 元気に過ごしていた人が、脳卒中である日突然亡くなってしまう、あるいは半身まひになってしまう――こんな話を身近で耳にしたことはないだろうか。

 その原因は「不整脈のひとつである心房細動による脳卒中が増えている」からだ。この病気が怖いのは、本人が気づかないうちに病気が進んでいく点だ。脳梗塞から要介護状態に陥らないために、「まさか私が」から、「あすはわが身」へと発想の転換をした方が良さそうだ。

 日本脳卒中協会などが展開する「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」(TASK-AF)は、「脳卒中予防への提言―心原性脳塞栓症の制圧を目指して―」の第2版を発表した。
心房細動の危険因子は、加齢、高血圧、糖尿病、メタボなど
 脳梗塞には、動脈硬化によって起こるものと、心臓の病気が原因で起こるものがある。心臓の病気が原因で起こる脳梗塞を「心原性脳塞栓症」といい、その多くは「心房細動」という不整脈の一種によって起こる。

 心房細動が起きると、心臓が細かく震えて脈が乱れ、心臓の中の血液がよどんで血栓ができやすくなる。血栓が脳に流れていくと、脳の血管に詰まって脳梗塞を引き起こす。心房細動による脳梗塞には「自覚症状がないことも多く見逃されやすい」という特徴がある。

 心房細動を起こす危険因子は、加齢のほか、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、喫煙などだ。これらに関わる生活習慣を改善するとともに、不整脈があると言われたら、それが心房細動であるかをよく確認しておくことが大切だ。

 また、心房細動による脳梗塞は、動脈硬化による脳梗塞に比べて血栓が大きいことが多いなどの理由から、より太い血管に詰まりやすく、脳が広範囲に障害されてしまう。死亡率が高くなり、寝たきりなど重い後遺症を残すことも多くなる。
心電図検査を行うことで早期発見の可能性が高まる
 厚生労働省の研究班によると、脳卒中の有病者数は約280万人で、年間約30万人が新たに発症すると推計されている。

 脳梗塞の中でも、心原性脳塞栓症は近年増加している。脳卒中の4分の3は脳梗塞であり、その3分の1は心原性脳塞栓症だ。つまり脳卒中の2割以上は心原性といえる。

 心原性脳塞栓症をいったん発症すると重症化する可能性が高く、しかも再発率も高い。もっとも効果的な対策は予防することだ。

 また、心原性脳塞栓症の主な原因である心房細動の治療として、適切な抗凝固療法を行うと、約6割の脳梗塞を予防できることが分かっている。

 心房細動は、心電図検査を行うことで早期発見の可能性が高まる。しかし、心房細動患者が多い後期高齢者を対象とした後期高齢者医療制度の検診には、心電図検査が義務付けられていない。

 そこで、日本脳卒中協会などが展開する「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」(TASK-AF)は、(1)60歳以上の6割に心房細動のスクリーニング(脈のチェックまたは心電図)を実施すること、(2)心房細動と診断され、抗凝固薬が必要な全ての患者に適切な抗凝固療法を実施・継続すること──を目標として掲げている。

 この目標を達成することで、心房細動による脳卒中の新規発症件数を半減でき、さらには要介護の状態になるのを減らすことができるとしている。
抗凝固薬で適切に治療すれば脳梗塞を予防できる
 心房細動による脳梗塞を防ぐためには、心臓に血栓ができるのを予防する「抗凝固薬」という薬が用いられる。

 抗凝固薬には「ワルファリン」のほか、「ダビガトラン」、「リバーロキサバン」、「アピキサバン」といった新しい薬がある。

 ワルファリンは効果的な薬だが、血液検査を受けて用量を調整したり、納豆など一部の食品やほかの薬が作用に影響するなどの使いにくい点があった。新しい抗凝固薬はワルファリンに比べ、利便性や安全性が高まっている。

 同プロジェクトによると、国内外の心房細動に関する研究で、医療機関への受診後も、抗凝固療法が必要な患者の約半数にしか抗凝固薬が投与されていないことが示された。

 健康診断などで心房細動があると指摘された人は、「自分が将来に脳梗塞を発症するリスクがあるか」を医師とよく相談しよう。

「心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト」実行委員会の提言

I. 心房細動の早期発見
(1)健診や保健指導を活用する
健診や保健指導の機会を活用し、脈拍触診(検脈)や心電図検査を推進します。
(2)日常診療で見つける
高齢者の外来受診時のたびにあらゆる診療科で脈拍触診を行い、異常があれば心電図検査を実施することで、心房細動を効率的に見つけることができます。
(3)日常生活で見つける
心房細動を早く見つけるためには日々自分の脈をチェックする習慣をつけることも大事です。そのためには「何が問題なのか」、「どうすればいいか」を理解してもらうための保健指導や市民啓発も欠かせません。

II. 脳卒中予防のための適切な治療の推進
(1)保健と医療の連携で診る
健診での心房細動の発見から医療への橋渡し、そしてその後のフォローアップを適切に行うためには「保健と医療の連携」が欠かせません。
(2)「医師の連携」で診る
かかりつけ医と循環器専門医が連携して心房細動治療を進めることで、治療内容もより適切になり、診療の負担も軽くなります。
(3)抗凝固療法を「医・薬連携」で見守る
脳卒中予防に欠かせないのは、抗凝固薬を毎日飲み続けることです。患者が治療方針を理解して、きちんと治療を続けるためには、医師と薬剤師が連携して教育・指導することが肝要です。

III. 切れ目のない地域連携で乗り越える制度間の課題
被保険者が退職して企業健保や協会けんぽ、共済組合などから国民健康保険に切り替わるとき、国民健康保険から後期高齢者保険に切り替わるときは、健診・レセプトデータの所有者、保健活動の担い手も替わる節目です。地域連携は、課題解決のためのキーワードです。

心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト(TASK-AF)
提言書「脳卒中予防への提言―心原性脳塞栓症の制圧を目指して―(第2版)」
[Terahata]
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