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健診におけるHbA1c酵素法、グリコアルブミン測定の有用性

原題:
健診におけるHbA1c酵素法、グリコアルブミン測定の有用性
〜異常ヘモグロビン例への対応を含めて〜

複数の測定法とグリコアルブミンの併用により鑑別が可能

 私自身、健診や人間ドックで異常ヘモグロビン症と診断するのに難渋した経験がある。その後の試行錯誤により現在、疑わしい場合には以下の手段で鑑別診断を行っている。即ち、HPLC法とそれ以外の測定法によるHbA1c、グリコアルブミン(GA)、以上の3つを同時に測定し、各々を比較するという方法である[表3]。

表3 HbA1cの異常値が疑われた時の対応
  • HPLC法によるHbA1c
  • 免疫法(酵素法)によるHbA1c
  • グリコアルブミン(GA) → 上記の三者を同時に測定し、各々の比較を行う
異常ヘモグロビン症のHPLC法と
免疫法・酵素法によるHbA1cは必ず値が異なる
〔古賀正史, 他. 糖尿病 56: 841-848, 2013〕

 GAはHbA1cとの相関が高く、回帰式[GA÷4+2.2=HbA1c]にてHbA1cに換算できる。その換算値をHPLC法、および免疫法または酵素法のいずれかによるHbA1c値と比較し、それぞれの乖離の程度を比較して判定する。

GAに比し2つのHbA1cがともに低値:GA換算値に比較しHbA1cが2つとも同程度に低値である場合、その原因はほぼ溶血と判断してよい。

HPLC法のみ低値:GA換算値と免疫法または酵素法によるHbA1c値が一致し、HPLC法のみが乖離(多くは低値)の場合、異常ヘモグロビン症と判断してほぼ間違いない。

 実際にはアルブミン代謝の亢進または低下の影響でGAが乖離することもあり、CGM(continuous glucose monitoring;持続血糖測定)で求めた平均血糖値との比較から判断することもある。

異常ヘモグロビン症のタイプにより乖離のパターンが異なる

 ところで、異常ヘモグロビン症にはさまざまなタイプがあり、タイプによって乖離の程度が異なることに触れておく。

 表4に示すように、HPLCの溶出パターンで異常を分類すると、ヘモグロビンβ鎖のヘテロ変異による'C1β'というタイプが最も多く、HPLC法のみ偽低値となる。しかし、同じくβ鎖のヘテロ変異でも'C2'というタイプではHbA1cとピークが重なるため、HPLC法で偽高値となる。

表4 異常ヘモグロビン症のタイプと測定法別にみたHbA1cへの影響

分類1.HPLC上の溶出パターンによる分類

タイプ HPLC法 免疫法 酵素法 Af法 IFCC法 報告例
C0 no reports
C1α Hb J-Meerut
C1β majority
C2 Hb Prato
〔Miyazaki A, Koga M, et al: Ann Clin Biochem 49: 441-444, 2012〕

分類2.他の性質による分類

タイプ HPLC法 免疫法 酵素法 Af法 IFCC法 報告例
不安定ヘモグロビン ↓↓* Hb Peterborough
糖化亢進 ↓* Hb Himeji
糖化低下 ↓* Hb Niigata
抗原性亢進 ↓* HbC, Hb Agenogi, Hb Himeji
抗原性低下 ↓* no reports
ボロン酸結合亢進 ↓* no reports
ボロン酸結合低下 ↓* Hb Himeji
*:C1βでみられる影響、Af法:アフィニティ法
〔古賀 正史 先生提供〕

 その他、不安定ヘモグロビンであればHPLC法以外の測定法でも偽低値となり、HPLC法では著明低値となる。ヘモグロビンの糖化が亢進するタイプではHPLC法以外で偽高値、低下するタイプでは全ての測定法で偽低値を示す。HbA1cの抗原性が亢進/低下するタイプでは、免疫法で偽高値/偽低値を示す。

 次に具体的な症例を紹介する。

兵庫県で発見されたHb Himejiと、アフリカ系人種に多いHbCやHbS

 Hb Himejiは兵庫県で第1例目が見つかった異常ヘモグロビン症で、糖化が亢進するだけでなく抗原性も亢進し、ボロン酸との結合が低下することから、測定法により値が異なる。我々はこの患者の家族のHbA1cを各種測定法で測定した[図2]。HPLC法、免疫法、酵素法、アフィニティ法等によるHbA1cはGA換算値といずれも乖離し、酵素法のみがIFCC法と一致していた。

図2 Hb Himeji (β140Ala→Aspの変異)

GAとHbA1cの回帰直線を実線で、95%信頼区間を点線で示した。

〔Nishihara E, Koga M, et al. Clin Chim Acta 412: 1689-1692, 2011より改変〕

 続いてHbCは、HPLC法で偽低値、免疫法で偽高値を呈するタイプだ。アフリカに多い異常ヘモグロビン症である。我々はアフリカ系アメリカ人のHbC症例のHbA1cを酵素法でのみ正確に測定できることを報告した 1)。HbCの他にアフリカ系人種に多い異常ヘモグロビン症としては、マラリア耐性獲得に有利なHbS(鎌状赤血球症)もよく知られている。

HbA1c酵素法の特徴:臨床的信頼性と健診に導入するメリット

 ここでHbA1c酵素法の特徴に触れる。

信頼性:酵素法による測定値はIFCC法や高分離HPLC法(KO500法)と極めて高い相関があり、信頼性が確保されている。また、異常ヘモグロビン症の影響が少ないことは前述のとおりである。

測定スピード:HPLC法に比べて測定所要時間が少なく、大量の検体を短時間での処理が可能である。

利便性:免疫法との差異としては、セル汚染が少なく、キャリブレーションの頻度が少なくて済むというメリットが挙げられる。

 このような特徴によるものと思うが、測定法別のシェアの推移をみるとHPLC法と免疫法が酵素法に徐々に置き換わっていることが見てとれる[図3]。実際、最近では酵素法を導入する大学病院も増えている。

図3 HbA1c測定法別シェア推移

(社)日本臨床衛生検査技師会
臨床検査精度管理調査参加施設数
n=3,215(2016年)

 座長の福武先生が所属されている東京医大も酵素法を採用され、一般診療にはHPLC法、健診・人間ドックには酵素法と使い分けているとお伺いしている。所在地が新宿という場所柄、外国人患者が多く異常ヘモグロビン症の頻度も高率であることから、両者の併用は非常に有用ではないかと思う。

次は...
GAはHbA1cより鋭敏であり、かつ血糖変動(食後高血糖)を把握できる

[保健指導リソースガイド編集部]
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