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「過労死」の実態把握のための労働調査 なぜ過重労働は改善されないか

 残業時間が長いほどメンタルヘルスの状態が悪化することが、厚生労働省が「自動車運転従事者」「外食産業」を対象に実施した調査で明らかになった。
残業時間をゼロ時間に近づけることが、「年休日数の増加」「メンタルヘルスの状態の良好化」につながる。
 一方で、「人員不足」のため対策を取ることができない事業所も多い。法人役員を対象とした調査では、8割弱は「過労死等防止対策推進法」を「理解していない」「知らない」と言う結果になった。
 労働時間の短縮がなかなか進まない現場の声が浮き彫りになった。

 厚生労働省は、平成28年度「過労死等に関する実態把握のための労働・社会面の調査研究事業」の報告書を公表した。
残業時間が長いほどメンタルヘルスが悪化
 調査は、過労死が多く発生している「自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療等」のうち、「自動車運転従事者」「外食産業」を対象に、企業・労働者の両面から実施。

 「平均的な1週間当たりの残業時間」「年次有給休暇の取得日数」「メンタルヘルスの状況」について調査を実施したところ、残業時間が長いほど年次有給休暇が取りづらく、また、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向が示された。

 「メンタルヘルス」については「GHQ12」を使用し分析を行った。「GHQ」(精神健康調査票)は、神経症者の症状把握、評価および発見に有効なスクリーニング調査が可能な質問紙尺度。今回の調査では、12問からなる簡便な質問表が使用された。

 労働環境が「メンタルヘルスの状況」に及ぼす影響についてみると、「平均的な1週間当たりの残業時間」「残業が最長の週の残業時間」「ハラスメントの有無」「職場環境に対する評価」などが有意に関連していた。

 具体的には、「平均的な1週間当たりの残業時間」では、0時間の場合に比べて10時間以上の場合に、メンタルヘルスの状態が悪化する傾向がみられた。

 また、「残業が最長の週の残業時間」では、0時間の場合に比べて30時間以上の場合に、メンタルヘルスの状態は悪化した。

 労働者の特性や労働者が置かれている労働環境はさまざまだが、そうした要因を考慮してもなお、企業の管理・対応は、残業時間や年次有給休暇の取得日数だけでなく、メンタルヘルスの状態にも関連している可能性が示唆された。
人員不足のため対策できない
 また、把握されている労働時間が「全く正確に把握されていない」場合に比べて、「正確に把握されている」方が、1週間当たりの残業時間が約6時間短縮され、年次有給休暇の取得日数の増加、メンタルヘルスの状態が良くなる傾向が示された。

 運送業への調査は、全国の4,000社を対象に実施された。

 運送業を営む企業に残業時間所定外労働が発生する理由を聞いたところ、バス会社では「仕事の特性上、所定外でないとできない仕事があるため」(47.1%)がもっとも多く、タクシー会社では「所定外でないとできない仕事がある」「予定外の仕事が突発的に発生する」「人員が足りない」(いずれも33.0%)が多かった。トラック会社では「取引先の都合で手待ち時間が発生するため」(52.1%)で過半数を超えていた。

 過重労働を防止するための課題は、タクシーでは「売上げや収益が悪化するおそれがある」(35.5%)、トラックでは「荷主・発注者の理解が不足している」(54.1%)がもっとも多かった。バスでは、「人員不足で対策をとることができない」(26.7%)が多かった。

 ドライバーのストレスや悩みの内容としてもっとも回答が多かったのは、バス運転手では「長時間労働の多さ」(47.7%)で、タクシー運転手では「売上・業績」(48.3%)、トラック運転手では「精神的な緊張・ストレス」(38.8%)だった。
外食産業「人員が足りない」「売上減少を懸念」
 外食産業への調査は、全国の4,000社を対象に実施された。

 外食産業を営む企業に所定外労働が発生する理由を聞いたところ、「人員が足りないため」という回答が多かった。過重労働防止に向けた取り組みへの課題を店舗の種類ごとにみると、「人員不足のため対策を取ることができない」(33.0%)がもっとも多かった。

 ストレスや悩みを抱えている人にその内容を聞いたところ、スーパーバイザーと店長では「売上・実績」と答えた人がそれぞれ44.9%と54.4%でもっとも多かった。店舗従業員では「精神的な緊張・ストレス」(42.1%)がもっとも多かった。
自営業者の悩みは半数が「売上・業績、資金繰り」
 同調査では、全国の自営業者5,000人と法人3,000社における役員6,000人にも調査を実施。

 全国の自営業者では、業務や業務以外のストレスや悩みの有無については、「ある」が62.5%、「ない」が35.7%だった。業務関連のストレスや悩みの内容は、「売上・業績、資金繰り」(53.2%)がもっとも多く、次いで「今後の事業展開」(49.0%)、「仕事での精神的な緊張・ストレス」(29.0%)が続いた。

 業務や業務以外のストレスや悩みについては、「経済的な悩み」(34.0%)でもっとも多く、「自身の病気やけが」(23.8%)、「家族等や家庭内の出来事(育児や介護の負担以外、親族との付き合い)」(22.6%)が続いた。
法人役員の8割弱は「過労死等防止対策推進法」を「理解していない」「知らない」
 役員では過労死の予防に対する課題認識は、「重要である」が39.8%ともっとも多く、次いで「非常に重要である」が38.9%、「あまり重要ではない」が11.0%だった。

 一方で、過重労働の防止に向けた取組みの実施については、「実施している」が37.5%、「実施していない」が58.4%だった。過重労働の防止に向けた具体的な取組みとしては、「休日の振替または代休を付与している」(61.2%)がもっとも多く、次いで「人員配置を見直している」(45.0%)、「年次有給休暇の取得を推進している」(43.6%)が続いた。

 過労死等防止対策推進法について、法人役員で「聞いたことはあるが、内容は理解していない」「聞いたことはなかった、知らなかった」と回答した人は77.8%に上った。また過労死等の防止のための対策に関する大綱についても「理解していない」「知らなかった」が83.5%に達した。

過労死等防止対策に関する調査研究について(厚生労働省)
[Terahata]
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