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急性心腎症候群の管理 ~虚血ストレスマーカー L-FABPの可能性~

L-FABPによる急性心腎症候群の早期診断と予後予測の可能性

 このように、我々は既にバイオマーカーを手にしているのだが適切な使い方を必ずしも把握できておらず、目の前の患者に十分適応できずにいた。しかし冒頭に述べた、2016年に策定された5学会共同の「AKI診断ガイドライン」においてL-FABPが早期診断マーカーとして推奨され、臨床での位置付けが明確になった(表2)。

表2
CQ 5-1 AKIのバイオマーカーとして尿中バイオマーカーを用いるべきか?
推 奨

尿中NGAL、L-FABPはAKIの早期診断に有用な可能性があり測定することを提案する。尿中シスタチンCの有用性は限定的で明確な推奨はできない。

尿中NGAL、尿中L-FABP:推奨の強さ エビデンスの強さ
尿中シスタチンC:推奨の強さなし エビデンスの強さ
エビデンスの総括
 尿中NGAL、L-FABPとも、複数のシステマティックレビュー/メタ解析においてAKIの早期診断マーカーとしての有用性が示唆されている。ただし、従来の血清クレアチニン上昇による診断に基づいたAKIへの介入と、尿中バイオマーカーによる診断に基づいたAKIへの介入を比較した研究がないため、新規尿バイオマーカーによる診断が真に有用か否かは、今後の検討課題である。
 シスタチンCに対する評価は1編のシステマティックレビュー/メタ解析に限られており、AKIの早期診断マーカーとしての有用性は限定的であった。
〔AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 東京医学社, 2016〕

 早期診断だけでなく予後予測におけるL-FABPの有用性も我々は報告している。小規模な検討ながら、急性心不全患者連続20例をL-FABP4ng/mLをカットオフ値とし二分したところ、L-FABP陽性群では4例がAKIを発症した一方で、L-FABP陰性群のAKI発症は1例にとどまった。しかもその1例は血清クレアチニンがちょうど0.3mg/dL上昇しただけで尿量減少もなく短期間で回復した一時的腎機能低下症例だった(図5)。

図5 急性心不全患者のL-FABPによる予後予測

〔J Cardiol Jpn Ed 8(Suppl 1):441,2013〕
図5 急性心不全患者のL-FABPによる予後予測

 またさらに、最近L-FABPをpoint of careで測定できる迅速診断キットも登場した。その有用性はこれから検証が必要な段階ではあるが、少なくともこれまで迅速に測定できるマーカーがなかったことから考えると、急性心腎症候群のマネジメントに一つの大きな光を与えてくれると思う。

 血清クレアチニンや尿量でなくL-FABPを指標として介入することで、たとえover triageになったとしても、AKIをかなりの率で防ぐことができるようになるのではないかと期待している。

参考文献

1) Clin J Am Soc Nephrol 9:1912-1921,2014
2) PLoS ONE 9:e105596,2014
3) Eur Heart J 34:835-843,2013
4) J Card fail 17:742-747,2011
5) J Am Coll Cardiol 53:789-596,2009
6) Med Mol Moephol 48:92-103,2015
7) J Am Coll Cardiol 51:300-306,2008
8) Jpn Circ Soc 76:S-353,2013
9) Congest Heart Fail 15:256-264,2009
10) Intensive Care Med 42:147-163,2016
11) Kidney int 2(Suppl 2):1-138,2012
12) J Cardiovasc Pharmacol 65:282-288,2015

初 出

第81回 日本循環器学会学術集会
ランチョンセミナー 58 第12会場(金沢都ホテル 飛翔の間)

演題:急性心腎症候群の管理~虚血ストレスマーカー L-FABPの可能性~

座長:古家 大祐 氏(金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科学教授)

演者:佐藤 直樹 氏(日本医科大学武蔵小杉病院循環器内科教授/
集中治療室室長)

共催:シミックホールディングス株式会社、積水メディカル株式会社

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