ニュース
「子宮頸がん」の新たな治療法を開発 iPS細胞から"若返りキラーT細胞"を作製 がん細胞の増殖を抑える
2020年07月14日

順天堂大学などの研究グループは、子宮頸がんの新たな治療法を開発する研究が成功したと発表した。
iPS細胞から子宮頸がんの増殖を抑える免疫キラーT細胞を作製するのに成功した。従来の方法より安全で効果的な子宮頸がんの治療法になる可能性がある。
iPS細胞から子宮頸がんの増殖を抑える免疫キラーT細胞を作製するのに成功した。従来の方法より安全で効果的な子宮頸がんの治療法になる可能性がある。
子宮頸がんは"マザーキラー" 子育て世代の女性が多く罹患
子宮頸がんの多くは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染が原因で発症する。HPVワクチンはHPV感染予防には有効だが、子宮頸がんを発症した場合には効果がない。また現在、日本では女性のワクチン接種率は1%以下まで低下している。
そのため、20~30代の子育て世代の女性の罹患率が上昇している。子宮頸がんは、"マザーキラー"とも呼ばれ深刻な問題となっており、再発して進行すると化学療法や放射線療法が効きにくく、新たな治療法の開発が望まれている。
そこで研究グループは、多くの細胞に分化できるiPS(人工多能性幹)細胞から、子宮頸がんが増殖するのを抑制する効果のある、HPV抗原特異的キラーT細胞を作製する研究に取り組んだ。
関連情報
iPS細胞を使い若返りキラーT細胞を作製
キラーT細胞は、免疫細胞であるTリンパ球の中でも、ウイルス抗原や腫瘍抗原を認識し、異常細胞を攻撃するリンパ球。患者のキラーT細胞を体外で増幅し、再び患者の体内に戻す免疫T細胞療法は、がんの新しい効果的な治療法として注目されている。
そして、新たに作製したiPS細胞由来のキラーT細胞が、子宮頸がんの増殖を生体内で強力に抑制し、生存期間を延長させる効果があることをマウスを使って確認した。
子宮頸がんを抑制する効果のある"若返りキラーT細胞"は、iPS細胞から何度でも十分に作り出すことができる。難治性の子宮頸がんに対する免疫細胞を用いた新たな治療法の実現に向けて大きく前進した。
研究は、順天堂大学大学院医学研究科血液内科学の安藤美樹准教授、安藤純先任准教授、小松則夫教授、産婦人科学講座の増田彩子助教、寺尾泰久教授、ときわバイオ取締役(産業技術総合研究所・名誉リサーチャー)の中西真人氏、東京大学医科学研究所幹細胞治療部門の中内啓光特任教授らが共同で行ったもの。研究成果は、米国遺伝子細胞治療学会誌「Molecular Therapy」に掲載された。
若返りキラーT細胞が子宮頸がん細胞を攻撃 効果は強力で持続的
研究グループは2013年に、末梢血由来のiPS細胞から、機能的に若返ったキラーT細胞を作製することに成功しており、がんの新たな免疫T細胞療法の開発を目指して研究を続けてきた。
今回の研究ではまず、子宮頸がん患者の末梢血よりHPV特異的キラーT細胞の作製を試みたが、抗がん剤や放射線、ステロイドのために、T細胞が減少しており、作製できなかった。そこで、健常人ドナーの末梢血より作製を試みたところ、HPV特異的キラーT細胞をわずかに作製することができた。
次に、HPV抗原特異的キラーT細胞からiPS細胞の作製を試みた。従来の方法では、ウイルス成分のSV40 T抗原という転写因子が、細胞を修飾するために広く利用されているが、遺伝子を傷つけてしまうおそれがあるため、今回はこの抗原を使用しないで別の2つの初期化遺伝子を使用した。
その結果、健常人ドナーの末梢血を使用して、HPV特異的キラーT細胞からiPS細胞を作製することに成功した。iPS細胞からT細胞へ分化誘導して、若返りキラーT細胞を作製した。この新たに作ったHPV抗原特異的キラーT細胞は、子宮頸がん細胞に対して持続的で強力な傷害活性を示した。
さらに、このキラーT細胞の効果がマウスの体内でどれぐらい持続するかを調べたところ、増殖力が強く、子宮頸がんの抑制する効果が3週間続くことを確かめた。

出典:順天堂大学、2020年
若返りキラーT細胞による治療の実用化を目指す
今回の研究により、iPS細胞から、子宮頸がんに効果のある若返りキラーT細胞を安全で無限に作製できることが明らかになった。これにより、子宮頸がんに対する免疫細胞療法を実現し、"マザーキラー"と呼ばれる子宮頸がんの新たな治療法となる可能性が示された。
今後の課題として、若返りキラーT細胞を用いた治療では、ヒトの免疫に関わる重要な分子であるHLA遺伝子を一致させ、免疫拒絶が起きないようにする必要がある。HLA遺伝子をゲノム編集することで、免疫拒絶が起きないようにできると考えられている。
研究グループは今後、若返りキラーT細胞による治療を実現するために、研究を加速するとしている。
順天堂大学大学院医学研究科血液内科学Sustainable tumor suppressive effect of iPSC-derived rejuvenated T cells targeting cervical cancers(Molecular Therapy 2020年7月8日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2021 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2021年01月28日
- 【オピニオン新連載】行動科学に基づいた保健指導スキルアップ~対象者の行動変容を促すには?~
- 2021年01月26日
- 【新型コロナ】接触確認アプリ「COCOA」がコロナ禍の心理的ストレスを減らす? 企業従業員の心の健康をどう守るか
- 2021年01月26日
- スマホの運動アプリで1日の歩数を2000歩増やせる 新型コロナをきっかけに、運動への関心は世界中で拡大
- 2021年01月26日
- 「脂肪肝」が手遅れになる前にスマホで早期発見 病気と認識してきちんと対策 「脂肪肝プロジェクト」を始動
- 2021年01月26日
- 人工知能(AI)を活用して大腸がんを高精度に発見 医師とAIが一体となり、がん検査の見逃しをなくす
- 2021年01月25日
- 「内臓脂肪」と「腸内細菌」の関係を解明 肥満の人で足りない菌とは? 腸内細菌のバランスが肥満やメタボに影響
- 2021年01月25日
- コレステロール高値で高尿酸血症のリスクが上昇 メタボリックシンドロームと高尿酸血症の関連に新たな知見
- 2021年01月19日
- 【新型コロナ】「自然」の豊かな環境でストレスを解消 心の元気を保つために「行動の活性化」を
- 2021年01月18日
- 「和食」が健康にもたらすメリットは多い 5割が「健康に良い」、8割以上は「和食が好き」
- 2021年01月18日
- 冬の「ヒートショック」を防ぐ6つの対策 急激な温度変化は体にとって負担 血圧変動や脱水に注意
最新ニュース
- 2021年03月05日
- 【健やか21】「女性の健康週間」特設Webコンテンツの公開について(厚生労働省)
- 2021年03月04日
- 「新常態の働き方を考える」へるすあっぷ21 3月号
- 2021年03月02日
- 【新型コロナ】ワクチン接種の利益とリスクを正しく理解し判断を 感染症学会「有効性は高く、副反応は一過性」
- 2021年03月02日
- なぜ体重は正常なのに「代謝異常」に? 体脂肪の「質」が肥満・メタボや糖尿病に影響 順天堂大学
- 2021年03月02日
- 女性が多量飲酒をすると乳がんリスクが1.7倍に上昇 女性ホルモンが影響か 日本人女性16万人対象の大規模調査
~保健指導・健康事業用 教材~
-
アイテム数は3,000以上! 保健指導マーケットは、健診・保健指導に役立つ教材・備品などを取り揃えたオンラインストアです。 保健指導マーケットへ