オピニオン/保健指導あれこれ
より効果的な行動変容の促しを行うために必要なこととは?

No.2 受診率を上げるアイディアとは

医療・保健ジャーナリスト
西内 義雄
 受診者の不満がストレートに出たアンケート
 正直な話、健診受診率を語るうえで、健保と市町村国保を同じ土俵に乗せるのは無理があります。なぜなら、健保には伝家の宝刀『業務命令』があるからです。面倒と思っても、上からの命令には従うしかなく、逆らって得することはありません。一方の市町村国保はあくまで『お願い』であり、そのための時間も手間も「本人が工夫して受診してね」というスタンスです。両者の技のキレ味(強制力)は大きな差があるといっていいでしょう。

 では、どうすればこの差を埋めることができるのか? 市町村国保の受診者側と受診を促す側、双方に受診率向上のためのアイディアを聞いてみました。

 すると、受診者側から出てきた答は、母数は31と少ないながら、以下のように、

・日時や制度の見直し
・もっと上手にPR

 の2つが意見の大半を占めました。

 もう少し細かく説明しますと、『日時や制度の見直し』には

・受診会場・日時を増やす
・受診機関の混雑状況が分かるようにする
・予約不要にする
・いつでもどこでもできるように
・Web予約ができるように

 など、わざわざ時間を割いて行くのだから、もっと楽に受けられるようにしてほしいとの不満が多く含まれていました。これは受診の流れが、

(1)受診会場を確認
(2)空いているか確認の電話
(3)自分のスケジュールとの調整
(4)予約
(5)(仕事を抜け出し)受診
(6)(仕事を抜け出し)結果を聞きに行く(開業医などで受診場合)
(7)問題があればさらに二次健診や保健指導の調整

 となっているためで、負担に思っている人が多いことの表れと思われます。

 『もっと上手にPR』の意見には、

・なぜ受診しなければならないのか、目的など丁寧に説明する
・メディア、ネットなど情報化社会の利点を活用すべき
・病院や薬局、スーパーや公共機関でPR

 など、根本の「なぜ受診すべきなのか」をしっかり説明すると共に、あらゆる媒体を駆使してPRすることを求める声が多く見られました。よくある「広報に掲載」と「受診票の送付」の2本セットだけでは、まったく伝わっていないとの意見が隠れているように思います。

 受診者の不満はよく分かっている。けれど……
 一方、促す側の市町村保健師の答は、数は82で以下のようになりました。

 注目すべきは、第1位『日時や制度の見直し』、第4位『もっと上手にPR』の2項目で、住民側と同様の考えが出てきたことです。国保被保険者の立場としましては「なんだ、こちらの気持ちはよく分かっていたのね」と思ったものの、「分かっているなら、なぜ実行に移さない?」との疑問が生まれました。

 などと書くと、そう簡単な話じゃない! とのお叱りを受けそうですが、あえて心を鬼にして突っ込んでみたくなるのは、私が年に一度の受診票郵送以外のアプローチを受けたことがないからです。

 当然のことながら、自分の住んでいる区(東京23区)の保健師に会ったことも、話したこともありません。仕事で全国各地に何百人もの保健師の知り合いがいるのに、プライベートでは接点がまったくないのです。同世代の国保被保険者に聞いても、答は同じでした。

 あまりの接点のなさに、都市部では成人(生活習慣病対策)に力を入れてないのが原因では? との疑問を講座の仲間たちに投げかけたところ、都内のある自治体職員から
「そうでしょうか、予算は母子などと同じかそれ以上に取っていますよ!」

 との反論がありました。皆さんはこの反論をどう受け止めますか?

 私は「いかにもお役所的」と感じてしまいました。いくらお金をかけていても、対象者に気持ち(意義)が伝わってこないのでは“仏作って魂入れず”と同じだからです。受診勧奨の文言ひとつとっても、あまりに工夫のない事務的な内容が多いのも気になります。

 受診者に対する目線も重要では?
 民間企業なら、どうすればお客さんが来てくれるかを常に考え、場所や日時をお客さんに合わせます。PR方法も、より効果的なものを複数取り入れるます。そして、一度来てくれた人を逃さないよう「次もまた来よう」と思わせる努力をします。そうしなければ生き残れないからです。

 この提言書を共に作ったメンバーのひとりは、
「地元の保健センターでの集団健診を体験した後、人気の高い民間の健診センターを見学したところ、両者の大きな違いを感じた。もっとも違うのは、スタッフの対応である。ひと言で表現すると、受付、案内、検査技師、看護師、保健師、医師のすべてが受診者をお客様と見ているか、無料なんだからというような上から目線で見ているかの違いという印象だ。いくら無料でも、人が人扱いされていないような国保の集団健診は、イメージは決して良いものではない。受付者通しの私語、案内人の無駄な動き、チームワークの悪さなどに受診者は疲れ切って健診を終了する。それに比べ、ここ(民間)では、すべての職員の意識の高さ、徹底したサービス、スムーズな健診の流れ、胃のバリウム検査室の構造など、計算されつくした工夫が感じられ、お金を払ってもこちらの方が良いと思うのは納得できた」

 と語りつつ、「ただし、この違いは、健診者(保健師)側の意識の持ち方や工夫で、変化させることは可能ではないだろうか」と結んでいたことも付け加えておきます。

 さて、今回は保健師の皆さんにとても耳の痛い話だったと思います。反論も山ほどあるでしょうが、No.3での考察もまた共に考えていただければ幸いです。それは、前述の保健師アンケートにある他の要素、第2位『住民と話す機会を増やす』、第3位『関係者との連携強化』、第5位『役所内の意識改革』、第6位『保健師の働き方を改善』についてです。

 受診率向上を含めた、行動変容がうまくいかない原因の根本は、こちらに隠れていると私は思っています。

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