オピニオン/保健指導あれこれ
「生と死を考える」 保健指導実践者に向けてデーケン先生からのメッセージ

No.3 東日本大震災を受けた地域で対応にあたる保健師へのメッセージ

上智大学名誉教授
アルフォンス ・デーケン

 東日本大震災を受けた地域で対応にあたる保健師へのメッセージとして、私が小学生だった第二次世界大戦の最中に受けた多くの喪失と、死別といった極端な体験にもかかわらず役立った3つのポイントをメッセージとしてお伝えします。

 一つ目は、苦しい体験を、ただ苦しいと感じるだけでなく、自分の想像力を開発するきっかけとして考えてほしいことです。これは、歴史上でみても、文学や芸術、音楽が新たに生まれたきかっけに「死」が関わるものが多くあります。

 例えば、西欧の偉大な思想家であるアウグスティヌスは、19歳の時、親友の突然死により深刻なショックを受ける体験をしました。しかし彼はその体験からインスピレーションを得て、生と死について深く考えるようになり、偉大な思想家になったのではないかとされています。

 二つ目は、未来に向かって大きな希望や期待、あるいはユーモアを見つけるような取り組みをしてほしいことです。苦しい体験をした人の多くは、今までの人生や生き方に対し、疑問を感じるようになります。特に、あきらめの感情(全部ダメ、無意味)を持つ人がいます。こういった人に対しては、目線を未来に向けてもらうように接することが大切です。

 三つ目は、苦しい体験を通して、自分たちの中にあるスピリチュアリティーを開発するきっかけにしてほしいことです。もともとは世界保健機関(WHO)でも定義されているように、人間の健康にはスピリチュアルな健康も大切であるとされています。また、末期患者にスピリチュアルなペインがあることも強調されています。

 緩和医療とターミナルケアの大切な課題は、末期患者のスピリチュアルな痛みを緩和することです。末期患者のスピリチュアルニーズに応じる努力はホスピス的なケアの重大なテーマです。ホスピスと病院スタッフによる大きな挑戦は、自分のスピリチュアリティーを開発しながら末期患者のスピリチュアルニーズを理解し、それに応じるスピリチュアルケアを提供することにあると思います。

 スピリチュアリティーとは、人間の生きる意味や目的を探求する能力のことです。具体的には、価値の確認、価値観の見直しと再評価、ライフレビューセラピーによって自分の生涯を客観視する、自らを許す、他人との和解、自らの存在を超えた大きなものとの関わり、などを求める能力です。人生の終わりまで人間として成長し、創造的に生きる能力のことも含まれます。日本には、スピリチュアリティーを宗教と同じ意味で使うことがありますが、これは区別して考えた方がいいものです。

 人間である限り誰でもスピリチュアリティーの側面を持っています。誰でも自分は何のために生きるか、生きがい・人生の意味を知りたいと考えます。このスピリチュアリティーの能力を、開発する人もいれば、しない人もいます。これはユーモア感覚や愛する能力に似ています。誰もがユーモア感覚を持っていますが、生真面目に過ごす人も少なくありません。また、愛の能力を発揮しないで、高齢になるとますます我がままになる人もいます。スピリチュアリティーをはじめ、人間だれもが持つ能力を開発することは大切です。

 スピリチュアリティーは、人生の最後の段階で大きなエネルギーにもなります。死に直面している人にとって、生きる意味や目的を自己の内面の中で探究するなど、精神的なエネルギーにつながります。自分のスピリチュアリティーを開発する人は、様々な場面を経て人間として成長することができます。震災を受けた地域で対応にあたる保健師自身が、苦しい体験より自分の中にあるスピリチュアリティーを開発し、対応する人たちに接することで、周りの人たちが自らのスピリチュアリティーの発見することへつながると考えます。

【インタビューを終えて(1)】

 今年7月にアルフォンスデーケン先生による「最後の時をどう生きるか―よき死と出会う―」という講演会に参加したことが、オピニオンに先生のメッセージを掲載するきっかけになりました。

 40年前看護学生の時、私は特別講座としてデーケン先生の「死生学」の授業をうけました。「死」という言葉がタブーとされていた時代に『「死への準備教育」はそのままよりよく生きるための「生への準備教育」にほかなりません』というお話は、その後の公衆衛生活動を行ううえで大切な考え方になっています。

 最近の保健指導の現場では、急速な高齢化、自殺者の増加、そして東日本大震災等への対応が求められ、「死」が直接の課題になっています。公衆衛生活動に「死生学」が必要と考えていた私は講演終了後デーケン先生のお話しを保健指導の実践者にお伝えしたいとお願いしていました。先生は死の準備教育は予防医学ということや、震災の被災者であり、地域の保健指導の実践者である保健師への支援も大切とおっしゃってくださり、快諾いただきました。

 デーケン先生、ユーモアにあふれた素敵な時間をありがとうございました。またアシスタントの木村敦子様、インタビューに慣れていない私どものテーマの絞り込みや場の設定までお世話になり、本当にありがとうございました。

インタビュアー 菅澤

【インタビューを終えて(2)】

 今回のインタビューを通じ「死生学」というものに初めて触れました。「死の教育」「悲嘆のプロセス」など、今回出てきた概念や考え方は、今後の人生の中で必ず遭遇し、役に立つ時が来ることと感じました。特に、母親の役割が大きい「子どもへの死の教育」については、これからの子育ての中できちんと実践できる環境を整えようと思います。

編集担当 若山

「地域保健」に関するニュース

2017年11月22日
女性の6割は「乳がんを発症しても働く」 パートナーは「治療優先」希望
2017年11月22日
「健康づくり運動ポイント制度」で健康長寿を促進 和歌山県
2017年11月22日
フレイルの高齢者、自立喪失リスクが約2.4倍に上昇 健康長寿医療センター
2017年11月21日
糖尿病の食事療法を継続するためのポイント 食を楽しみながら成功
2017年11月20日
スマホアプリを用いることで血糖コントロールが有意に改善
2017年11月15日
おいしくてためになる!! 血糖コントロール食レシピ、Q&A「糖をはかる日クッキングセミナー」(2)
2017年11月15日
血糖コントロールは、"胃腸力"がカギ「糖をはかる日クッキングセミナー」(1)
2017年11月15日
アルコールを飲み過ぎないために 知っておきたい5つの対処法
2017年11月15日
世界糖尿病デー 糖尿病人口は4億人を突破 30年後には7億人に
2017年11月15日
ウォーキングなどの有酸素性運動が動脈硬化を3分の1以下に抑える

最新ニュース

2017年11月22日
女性の6割は「乳がんを発症しても働く」 パートナーは「治療優先」希望
2017年11月22日
「健康づくり運動ポイント制度」で健康長寿を促進 和歌山県
2017年11月22日
「新型たばこ」に対し呼吸器学会が見解「健康に悪影響が出る可能性」
2017年11月22日
フレイルの高齢者、自立喪失リスクが約2.4倍に上昇 健康長寿医療センター
2017年11月21日
糖尿病の食事療法を継続するためのポイント 食を楽しみながら成功
2017年11月20日
スマホアプリを用いることで血糖コントロールが有意に改善
2017年11月20日
くるみの食欲抑制効果メカニズム解明 嗜好も健康的に変化
2017年11月17日
【連載更新】中小企業の健康経営モデルづくりを目指して(株式会社ヘルス&ライフサポート)
2017年11月17日
【健やか21】高校生の食生活自立を応援「巣立ちのレシピ集&セミナー」
2017年11月15日
おいしくてためになる!! 血糖コントロール食レシピ、Q&A「糖をはかる日クッキングセミナー」(2)
2017年11月15日
血糖コントロールは、"胃腸力"がカギ「糖をはかる日クッキングセミナー」(1)
2017年11月15日
アルコールを飲み過ぎないために 知っておきたい5つの対処法
2017年11月15日
世界糖尿病デー 糖尿病人口は4億人を突破 30年後には7億人に
2017年11月15日
ウォーキングなどの有酸素性運動が動脈硬化を3分の1以下に抑える
2017年11月15日
歳を重ねると「大人むし歯」が増加 49%に「根元むし歯」
2017年11月15日
45歳以上「高齢妊娠」で母体合併症のリスクが上昇 35万人超を調査
2017年11月14日
統括的な役割を担う保健師は5割以上の自治体に配置ー厚労省調査
2017年11月10日
成人男性にも風しんワクチン接種を呼びかけ~国立感染症研究所
2017年11月10日
児童虐待を社会全体で解決―11月は児童虐待防止推進月間
2017年11月09日
【健やか21】「働きながら不妊治療を受ける従業員へご理解を」リーフレット
2017年11月08日
「第3期がん対策推進基本計画」目標受診率を50%に ゲノム医療も推進
2017年11月08日
11月14日は「世界糖尿病デー」 2017年のテーマは「女性と糖尿病」
2017年11月08日
インフルエンザの流行に備える 自分でできるインフルエンザ予防法
2017年11月08日
血液検査で「9割」のがんを判別 膵臓、大腸、前立腺、乳、子宮体がん
2017年11月08日
認知症の社会的処方箋 認知症にやさしい社会づくりを通じて早期発見・診断
2017年11月08日
【新シリーズ】「"血糖トレンド"をどう活用するか」を公開 糖尿病リソースガイド
2017年11月06日
※定員残り僅か※ 第3回産業保健PC 参加者募集中~テーマ「産業保健師ならではのメンタルヘルス事業の進め方」
2017年11月02日
【健やか21】(思春期アンケート)子どもが死にたいと思う悩みについて
2017年11月01日
高齢者に手厚い社会保障 「全世代型」の社会保障へ転換を 厚労白書
2017年11月01日
朝食を食べないと動脈硬化のリスクが2倍に上昇 朝食は大切な食事
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
  • 週1回配信(毎週木曜日)
  • 登録者数 6,587 人(2017年11月現在)
登録者の内訳(職種)
  • 保健師 44%
  • 看護師 20%
  • 管理栄養士・栄養士 22%
  • その他 14%
登録はこちら ▶
ページのトップへ戻る トップページへ ▶