オピニオン/保健指導あれこれ
乳がんとともに生きる人を理解する

No.2 乳がん診断後 不安との向き合いかたと情報収集

帝京大学医学部附属病院 帝京がんセンター 認定遺伝カウンセラー
青木 美保

 乳がんの診断告知のときどうすればいいのでしょうか?

(1)診断は信頼できる誰かと一緒に聞きに行きましょう

 乳がんと診断されれば、誰もが大きなショックを受けたり、不安が生じたり、気持ちに大きな混乱とストレスが生じます。診断を聞く際は、ひとりではなく、信頼できる家族や友人など誰かと一緒に行きましょう。

 医師はそのことをよく知っているので、おそらく家族と聞きに来るようにアドバイスしてくれるでしょう。

(2)まずは十分な告知を受ける

 乳がんと分かったあと、あなたの意思を尊重した医療を受けるには、まずは医師から、自身のがんの進行度や予想される病状も含めた十分な説明(告知)を受けることが必要です。

   自分の病状を正確にわかれば、病気や治療選択肢を知り、今後どのような生活を送りたいのか、どんな情報が必要なのか、などを考えることができるようになります。それには、自らの病気を知り、今後の生き方や治療を選択するという覚悟が伴います。自らの希望を伝えることにより、医師にお任せするだけの一方通行ではない医療を受けることができるようになるのです。

 乳がんという事実を知ることは辛いことですが、親しい家族や周囲の支えがあれば、きっと乗り越えられます。

 また、医療者に必要なのは、本人の意思を尊重し、患者さんにまっすぐ向き合う態度であり、うわべだけの優しさではありません。

(3)あせらず治療を検討する

 乳がんが見つかったからと、あせって治療を決める必要はありません。乳がんは比較的ゆっくり進行しますので、気持ちを落ち着かせ、医師と十分相談しながら、自分にとって最善かつ納得できる治療を選ぶことが大切です。

 乳がんでは、早い決断だけが最善ではないのです。

 がんの不安に向き合うにはどうすればいいのでしょうか?

(1)がんの不安とストレス

 乳がんと診断されると、限られた時間の中で決断すべきさまざまな問題が押し寄せてきます。

 未経験の病気や将来に対する漠然とした不安、人生のコントロールを失った感覚、どんな病気かわからない、どの医療機関で治療するか、どの医師のもとで治療を受けるか、治療は体にどんな影響があるのか、治療の副作用はどうなのか、治療後のがんの見通しはどうなのか、家族や仕事・学業・友人関係への影響など、さまざまなことに不安、心の混乱、ストレスを感じるでしょう。

(2)不安にどう対処すればいいか

 ひとりで悩んでいても不安の解消は難しいでしょう。ひとりで悩まず、信用できる家族や友人、乳がんのサバイバー(患者会や知り合いなど)、医療者などと率直に話してみましょう。今あなたの人生に何が起きていて、何を恐れているのか、どう感じているのか、この経験とどう折り合っていくのか。話をすること、そこから解決の糸口が見つかり、気持ちが落ち着くかもしれません。

 不安の原因が整理されれば、改善できることもあります。例えば、不安が病気や治療に関する知識不足からきていれば、病気や治療について知り、将来の見通しや影響が分かれば、安心できるでしょう。

 自分の考えをたどり、日記などを書くことは、気持ちを整理するのに有効です。また、運動や深呼吸も効果的です。屋外で太陽の光を浴びること、ガーデニングや運動など屋外でできることも、気持ちを明るく保つために有効です。ただし治療法によっては、紫外線により皮膚にしみができやすくなることもありますので、紫外線対策をしましょう。

 どの対処法がいいかは人それぞれです。これまで辛い出来事をどうやって乗り越えてきたのか考えてみましょう。

(3)人生を見直すタイミングです

 乳がんという経験は、自分の価値観を再評価し、人生の優先事項を見直し、自分とは何者なのか、自分は人生で何を成し遂げたいのかをゆっくり考える時期なのです。そのためにもひとりで過ごす時間を大事にしましょう。

 また、人と分かち合う親密さや温かい一瞬がより価値を帯びて見えてくるでしょう。

 以前よりも死を身近に感じるかもしれません。日常生活の中で、人と分かち合う心温まる瞬間をたくさん感じられるようにすることは、気持ちを落ち着かせてくれるでしょう。

(4)答えのない質問にとらわれない

 何が乳がんの原因だったのか知りたがる患者さんもいます。現在でも、これには明確な答えはありません。また、リスクをコントロールすることなど誰にもできないのです。原因を追究することにエネルギーを使うことは、何の役にも立ちません。今は過去を振り返るときではなく、前に進むことです。

(5)長引く不安は医師に相談を

 強い不安があっても、多くの人は2~3週くらいでだんだん前向きになってきます。しかし、1か月以上強い不安が長引くときは、日常生活や健康に影響を及ぼすこともあります。治療の副作用によって不安を生じることもあります。長引く場合は、主治医に相談してみましょう。

 前向きに正しい情報を探そう
 

(1)知識は生きる力になります

 病気と闘い、自分自身の人生をコントロールし、人生を自らの手に取り戻す効果的な方法。それは、乳がんという病気や治療法に関して優れた知識を持つことです。乳がんの治療方法はひとりひとり異なりますので、優れた情報とは、正確かつ最新で、かつ自分の状況に合ったものです。知識は力になります。

 知識や情報は、将来の決断を下す手助けになり、自分や家族に役立つ多くの情報を得ることに役立ち、結果的に自分の希望に合った医療を受けることができるようになるでしょう。

(2)情報はどこから入手したらよいのでしょう

 書籍や専門雑誌、インターネット、医療関係者が主催している勉強会などから、自分の状況に合った情報を集めましょう。情報を集めたあとで、自分に必要な情報を絞り込んでいきましょう。豊富な情報を集められれば、それだけ判断材料が豊かになります。

 インターネットで情報を探す際は、公的機関や団体など信頼できるウェブサイトを活用しましょう。インターネットには、根拠のない治療法や時代遅れな情報も多くあります。鵜呑みにしないで、主治医にもよく相談しましょう。

 各都道府県のがん診療連携拠点病院の相談支援センターでは、その施設で治療を受けていなくても、治療先や患者会を探す、治療や生活の相談、などがんに関わることなら何でも相談に応じてくれます。

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