オピニオン/保健指導あれこれ
がん治療と仕事の「両立支援」を考える~産業保健師の乳がん経験~

No.12 手術、抗がん剤治療、乳房再建に向けての準備

パナソニック健康保険組合 保健師
横山 淳子

入院や抗がん剤治療の副作用に備える

 一番心配だった脱毛への準備も整い、生活面では、これからの入院や抗がん剤治療に向けて体力をつけるために、帰宅してから軽くジョギングをしたり、バランスよく食べる、よく寝るといった基本的な体力づくりを行いました。

 いよいよ入院の日を迎え、私は一大事のように家族に付き添ってもらいましたが、ひとりでスーツケース片手にさっそうと手続きをされている方もいらっしゃいました。

 病院では主治医、担当看護師が迎えてくれ細やかな工夫のされた説明を受けました。手術自体は主治医の腕を信じていましたので心配はありませんでしたが、いつもは目に入らなかった「皆さん、さようなら」といったような本の題名が目に留まり、「手術の後、ちゃんと目が覚めるのかな。」と不安な気持ちがよぎり、自分の運にやや自信が持てなくなりました。

 さあ、ドキドキもクライマックス、いよいよ手術室に移動という時に家族や友人から力強い励ましのメールをもらいました。おかげで術後の元気な自分を想像でき、不安な気持ちを払拭することができました。

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 無事、手術を終えるとしばらくは意識がもうろうとし、ナースコールを主治医に握らせてもらい眠り続けました。

 担当看護師から事前に、「術後は、麻酔で気分が悪くなったり傷の痛みがあるので我慢しないように。」と念を押されていたこともあり、我慢せず早めにナースコールを押すようにしました。おかげで楽に乗り越えられたと思います。

食事について

 術後の食事は、最初はとても冷たく薄味のものが出ました。口の中が気管挿管で傷ついているので痛みの軽減や術後の炎症をおさえることからも、改めて工夫されていると感じました。排液が少なくなり温かい食事が出たときは本当に嬉しく思いました。

 食事内容は野菜、豆腐中心で主菜は魚か鶏肉、朝、昼は必ず果物が付きました。3食、同じ量といった内容は、日頃の食事を見直す良い機会になりました。特に野菜や果物が意外と摂れていなかったことに驚きました。

 この時の食事内容は、2回目の日帰り乳房再建手術の際にも役に立ち、野菜や果物の摂取の仕方は今の生活に役立っています。

体を動かすこと難しさ

 術後は、傷口が痛みベッドから起き上がるのが大変でした。この時は本当に電動ベッドのありがたさを感じました。また椅子やソファを使うと可動域が少なく済み幾分か楽に動けましたので昼間はなるべく椅子に座って過ごしました。

 寝起きもそうですが、じっとしていると次の動作に移る時に痛くなるので、なるべくちょこちょこ動くようにしました。

 いつもは簡単に行えるような“物を取る”、“ドアノブを開ける”などの動作は、術側の手で行うにはかなり負荷がかかりました。ちなみに病室やトイレなどはスライド式のドアなので、だいぶ痛みが軽減されましたが、脇をしめて身体の軸に腕を近づけて手を固定することで痛みをやわらげるようにしました。

 気を抜いて普通に手を伸ばして物を取ったり、ドアを開けようとして何度か痛い思いをしました。ペットボトルの蓋を開けるのも困難でした。また皮膚が収縮しようとする働きがあるので痛みや拘縮があり、2週間くらいは回数を減らしながらも痛み止めを飲みました。

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 首から肩、腕が固まらないように少しずつ体を動かすように言われ、病院からもらった冊子をもとにリハビリの体操をしたり朝のテレビ体操をするようにしました。

 手術翌日からの洗顔、着替えといった身支度や陶器の食器での食事は、なかなか辛いものがありましたが今思えば良いリハビリになっていたと思います。

 ちなみにハンドソープのポンプが楽に押せるようになるまでに約1週間かかりました。動作は遅く通常の1.5倍くらいかかり、術後10日でようやく寝返りが楽にできるようになりました。

 自宅で子供から「ママ、肩の位置が違ってるよ。」と指摘され、術側をかばって首や肩の位置がずれ、健常側があがっていることに気付きました。

 また痛みのせいで胸が張れず猫背になりがちでした。循環が悪くなるのか足の冷えがひどくカイロを貼り過ごすようにしました。

エキスパンダーが入るということ

 乳房切除の覚悟をしていたせいか不思議と傷口を見ても悲しくはありませんでした。エキスパンダーが入っていることで胸は無くともふくらみがあることが、思った以上に心理的負担を少なくしたのかもしれません。

 外見が変わらないことで今までと変わらない生活が送れるという希望があったから受け入れられたのかもしれません。

 現在は合併症でインプラント挿入が見送られているようですが生きる希望という意味で乳房再建は非常に意味のあるものだったと個人的には思っています。これから先は定期的な検査や早期対応でうまく付き合っていければと思っています。

<関連リンク>

訪問ボランティア

 病院では乳がん治療を受けた訪問ボランティアとの面談を受けることができました。術後2日目には、再発なく16年経つという方が来てくださいました。とても上品でイキイキとされた素敵な方でした。気軽にお話を聴いてみようと思っていたのですが、お会いした途端、それまで抑えていた気持ちが高ぶり思わず涙が出てしまいました。

 こうやって元気に過ごしている方がいらっしゃるとわかり勇気づけられ、乗り越えてこられたことへの尊敬の気持ち、私もあやかりたいという気持ち等々、胸がいっぱいになりました。

 発症された時期のお子さんの年齢が私の子供の年齢と同じくらいだったこともあり、親近感がわき、子育てやその時の心境、乗り越えるために行ったことなどをうかがいました。

 「心がけたことは良く歩くこと、野菜を多くとること、スイーツを我慢すること。とにかく目の前のことを大事に毎日過ごしていたら16年経っていた。」と話されていました。

 これから始まる抗がん剤治療の心配をしてくれ、余裕をもって通院することや治療中は体をいたわること、よく寝ること、色々と欲張ってやらずゆったりするようにとアドバイスをくださいました。

 そして「治療ができるのは幸せなこと。乳がんは内臓ではないのでこころもからだも元気でいられてありがたい。」と言われ、私も素直に治療ができるのは幸せなことだと思えました。

退院後

 病院の献身的なケアを受け、規則正しい生活が身に付きすっかり居心地が良くなっていましたが、担当看護師からも「お金がかかるしこんなところにいるより旅行に行ったり素敵なホテルに泊まったりした方がいいですよ。」と送り出され5日後には退院となりました。

 体力も回復し自信もあったのですが、太陽の光を浴び歩きだすとふらふらで思った以上に体力が落ちていました。自宅に戻ってからは次のステップである抗がん剤治療に向けて、体力づくりのために規則正しい生活を心がけました。

 朝の体操、昼間は1万歩をめざし遊歩道を歩いたり、友人宅に出かけて行ったりと用事を見つけては外に出るようにしました。

 食事は、野菜不足気味だったことや抗がん剤で白血球が下がることも予想され、友人から高橋弘先生のハーバード大学式「野菜スープ(ファイトケミカルスープ)」を教えてもらい、いつもの御飯に加えるようにしました。睡眠時間も意識し7時間半を目標にしました。

 昼間は手のリハビリをかねて友人や職場の皆にプレゼントしようとアクセサリーを作りました。デザインを考えたりパーツを選びに出かけたりと、痛みも忘れて集中できました。切除した胸に入ったエキスパンダーに生理食塩水を入れるたびに、痛みで睡眠がうまく取れず体調の揺れもありました。

 術後3週間で職場に戻り、2週間後に控えた抗がん剤治療に向けて仕事との両立をどうしていくか、上司、職場のスタッフと相談しました。今思えば、検査で年休を使うことも多かったので、術後はもう少し早く出社して次の抗がん剤治療のために年休をためておけばよかったと思いました。  

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●術後
 ・痛みは我慢せず、早めにナースコールを押す

●食事
 ・入院食で日頃の食事を見直す 
 ・術後すぐは冷たい食事。野菜、豆腐中心、主菜は魚か鶏肉、朝、昼に果物。3食、同じ量

●体を動かす
 ・起き上がる大変さ、いすやソファが楽
 ・傷口の痛みの軽減のために脇をしめ、身体の軸に腕を近づけて手を固定し動作する
 ・リハビリを行い、皮膚の収縮を抑える
 ・日常の動作が良いリハビリになる。
 ・つい痛みをかばい左右の肩の位置がずれる。猫背になりがち、足の冷え

●エキスパンダーが入るということ
 ・乳房再建で今までと変わらない生活が送れるという希望が支えとなる

●術後再発なく16年経つ訪問ボランティアのことば
 ・毎日を大事にすること
 ・抗がん剤治療中は体をいたわること、よく寝ること、いろいろやらないこと
 ・治療ができるのは幸せなこと

●退院後
 ・病院で身に付けた規則正しい生活を維持する
 ・食事 野菜スープを追加
 ・運動 1日1万歩
 ・睡眠 7時間半を目指す
 ・早く出社して年休をためておけば良かった

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