オピニオン/保健指導あれこれ
社員・企業を感染症から守る仕組みづくり

No.3 いまから始める「感染症の時代」に強い体制と仕組みづくり

株式会社健康企業 代表・医師
亀田 高志

 2月17日から医療従事者を対象とした新型コロナワクチンの接種がスタートしました。それが順調に進むのか、いわゆる変異型の流行で難航することはあるのか、といった不確定要因もありますが、来春2022年以降には最終的に終息していくことを、個人的には見通しています。
 そして産業保健専門職としては、終息を迎えて以降の、いわゆる“アフターコロナの産業保健活動”も視野に入れていくことが必要であろうと思います。

1. 産業保健専門職として提案したい体制づくり

 われわれを悩ます新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、新型コロナ)ですが、“新しいコロナウイルスの流行”は、2002年から2003年にかけて中国・香港等で流行したSARS、2012年から中近東に始まり韓国でも流行したMERSに続き、21世紀に入ってすでに三度目です。
 その間、2009年から2010年には新型インフルエンザ(パンデミックH1N1 2009)の流行もわれわれは経験しました。つまり、将来的にも新しい感染症が数年間隔で流行する可能性があることに留意していくべきでしょう。

 そこで考えたいのが、日頃の産業保健活動の元となる、いわゆる労働衛生の5管理における「総括管理」、つまり対策の体制を整備することです。産業保健専門職として、図表1に示したような責任者・担当者を含む体制と、おのおのの役割を想定できます。

 機会があれば、衛生委員会や新型コロナ対策に関する会議体等でその考え方を紹介し、おのおのの役割が果たされているかを確認しておくことで、将来的に感染症が流行したケースでも、各自が発揮すべき“機能”を提案できるのではないでしょうか。お互いに目的と目標を同じくし、情報を伝え続ける「連携」の重要性も強調することができます。

2. 実際的な仕組みづくりのポイントは?

 筆者はこれまでベンチャー企業の経営等を通じて、海外を含む多数の事業場に感染症等への危機管理対策の導入と運営をコンサルティングしてきました。この際に意識してきたのが、専門的な関与がなくとも一定のレベルで準備ができ、被害を最小限に抑える仕組みを自律的に構築し、運用できるよう、関係者をリードすることでした。

 体制の整備では「肩書ではなく、機能と捉えて役割分担する」よう助言し、同じ会社内であれば拠点間の連携は国を跨いでも可能であると、繰り返し説明してきました。簡便なマニュアルとして手順を文書化することで共有を促し、その評価基準を示し、自律的な対応を支援します。

 文書化の際には、実際的な仕組みづくりが鍵となります。たとえば、感染症の流行が発生したら、特定の地域にどれくらいの日数・週数で到達するかや、その国全体に流行するか、といった想定を話し合うよう推奨してきました。これを「シナリオ」と呼び、会議体でドラマの脚本を考えるように、経時的に発生しうる被害を想定する演習を指導してきました。

 現在の日本の状況に関していえば、職場内で新型コロナのクラスターが発生した場合に、それがどのように生じるか、また、従業員やその家族への健康影響以外に、事業の継続へどのような影響を及ぼすのかを考えてもらうわけです。

 その被害の想定を元にして、次の段階では影響を最小化できる手順を考え、わかりやすく文書化し、必要な準備を行ってもらうことで、効果的な仕組みづくりを進めていきます。

 最終段階では仕組みの評価も行います。形式的な火災訓練のようにならないよう、別途作ったシナリオを提示し、その時点の仕組みや対応の流れが妥当であるのかを、再び会議体で評価します。つまり「机上訓練」を行うのです。そうすることで当初のシナリオに不足がないか、対応策に不十分な点がないか、を明確にしていくのです。

3. 継続的な改善を目指すP-D-C-Aサイクル

 実際の仕組みづくりの際のポイントが、産業保健活動でも大切な計画-実行-評価-再計画のいわゆる「P-D-C-Aサイクル」です。産業保健に関連する分野では、厚生労働省によって、労働安全衛生マネジメントシステムの導入やリスクアセスメントの運用が推奨されています。
 コロナ禍の影響も懸念され、メンタルヘルス対策はますます重要になってくると思いますが、その「P-D-C-Aサイクル」は「心の健康づくり計画」と呼称されています。

 生産管理、品質管理や環境問題にかかわるマネジメントシステムは、外部認証規格としてそれぞれISO9000シリーズやISO14000シリーズで有名になっており、労働安全衛生・健康管理分野でもISO45001の規格も出されています。
 こうした知見を参考に、感染症に関する危機への対応策を「P-D-C-Aサイクル」で運営していくよう、産業保健専門職として提案していくことも可能です(図表2)。

 その際に計画(Plan)の段階では、上述のシナリオを検討することを含めたり、評価(Check)では机上訓練を行ったりするよう、助言することもできるでしょう。

4. 終わりに

 グローバル化の副作用ともいうべき、各地域における風土病の拡散や、気候変動による影響により、亜熱帯地域等の感染症の輸入や流行の懸念が消えません。来春以降にうまく新型コロナの終息を迎えることができたとしても、その教訓を今後の感染症対策でも活かしていくことが重要です。

 連載の中でご紹介した現実的な課題と産業保健専門職として取り得る対応策を、皆さまの日頃の実務にお役立ていただけたら幸いです。

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