オピニオン/保健指導あれこれ
コロナ禍二年目 私たちは何をしていこうか

No.1 収束が見えなかったコロナ禍一年目

H Sプランニング/代表
亀ヶ谷 律子

 取引先の人事健康担当の部長と毎週情報交換をしている。年明け早々の彼からこんな発言があった。「2020年は大変な一年だったが、これほど社員が健康に関心を持ち、自分たちを頼りにしてくれたことはなかった。こんなに問い合わせが多かったのも初めてで、わが部署が一気に社員からの日の目を浴びることになった一年だった。新型コロナは心配事だが、これをきっかけに人事からのお知らせに皆さん耳を傾けてくれるようになった。健康部門担当者の日々の奮闘も見える化でき、悪いことばかりではなかった」。

 その夜、日本看護協会の『協会ニュース』が届いた。トップページの会長からの年頭所感は、「すべての看護職に敬意 新型コロナは、看護の力を社会が再認識する機会に」であった。以下、一文を引用させていただく。「新型コロナウイルス感染症の拡大は、図らずも看護の力・価値を看護職自身が、また、社会が再認識する機会になりました。」(協会ニュースvol.637、発行:2021年1月15日)

 偶然ではあったがこの二つのことが重なり、改めてコロナ禍の一年を振り返る機会となった。確かに取引先の担当者からは、健康診断やストレスチェック、職場巡視などの法令順守に関することに加え、マスクの着用や種類、施設内の消毒方法などこれまではなかった相談を受ける機会が増えた。最近は、空気環境測定器の相談、コロナ禍でのメンタルヘルス対応や腰痛対策の他社事例などへの関心も寄せられた。

 しかし一方、緊急事態宣言によるさまざまな自粛要請が延長され、新型コロナの動向に日々不安を抱きながらも、当初の手洗い・消毒、マスクの着用がマンネリ化してきているようにもみえる。

 こうした中、コロナ禍二年目の今年、私たち保健師はどのように新型コロナを含む感染症対策に携わっていくのが良いだろうか。また、組織の中での本来業務に今後どのようにかかわっていく必要があるのか、いくつかのテーマを挙げて考えていきたい。

収束が見えなかったコロナ禍一年目の私たちの活動

 ある福祉施設では、訪問するたびにドアノブの光沢が増し、床も綺麗に磨かれていることが見て取れるようになった。トイレのドア横には消毒液とともに、「入る前に“シュッ”、出てからも“シュッ”」。イラスト入りのポスターも貼ってあった。テレワークが進んでいる都内の企業では、数少ない出勤者が離れて着席し、打ち合わせのたびに会議室のテーブルやドアを消毒液で拭いていた。遅ればせながら、慌ててBCP(業務継続計画)を作成し、勤務に関する社内規定の見直しを図った企業もあった。
 いずれもが、感染者を出さない、拡大させないための必死の対応であった。

 この間、何名かの保健師に、組織の中で何をしてきたのかを聞く機会があった。初期には新型コロナ関連の正確な最新情報の提供や、手洗い・マスク着用などの予防啓発のための教育が挙げられただけでなく、消毒液やマスクを調達した人、ドアノブをアルコール消毒して回った人もいた。「なんでも屋」だったと振り返った人もいた。

実態に即した対策を柔軟に進めることにより保健師の活動をゆるぎないものに

 企業では法令順守が最優先のため、健康診断の受診勧奨と事後措置・職場巡視・安全衛生委員会の開催などは、言うまでもなく可能な限りこれまでどおり進める必要がある。緊急事態宣言直後はこれらの通常業務が一時ストップしたが、間もなく、新型コロナ対策に併せ誰もが新しい環境の中で手探りの業務を再開した。

 一連の保健師への聞き取りの中で、消毒液やマスクの調達をした人、ドアノブをアルコール消毒して回った人、それぞれがこうしたことを買ってでたのには理由があった。それは保健師が本来必要と考える次のステップに向けての助走期間だったのだ。では保健師が本来必要と考えることはどんなことか。その一つには間違いなく社員への教育があるはずだ。

 予防の専門家である保健師には、社員教育の大切さがわかっている。しかし、今回の新型コロナウイルスの発生直後から保健師が社員教育を実施できた組織はどの程度あっただろうか。新型コロナ対策といっても、マスク配布などの現物支給、発熱などの相談対応、会社独自の体温測定や体調報告の義務付け、施設等の消毒予防のための社員教育、などさまざまある。また、自社や関連会社で感染者の発生した場合とそうでない場合とでは明らかに施策のスタンスが異なる。

 日頃から総務・人事・労務等の担当者との綿密な関係がある組織や、衛生に関する一切を保健師任せ(丸投げ状態)の組織では、感染予防策や正しいマスクの装着、手洗い方法等について社員に早々に伝えることができ、保健師が必要と考えることと組織から望まれることが一致していた。
 しかし、そこに至っていない場合は、組織の一員である以上、まずは組織の方針に従い、組織が保健師に求めることを率先して真摯かつ迅速に取り組むステップがあって、はじめて保健師として実施したいことを認めてもらえたのではなかったか。

 また、企業はどこまで企業の立場として社や社員の安全と健康を守るのか。これは企業の安全配慮義務にもかかわることであるが、こうしたことを検討する場に参画できる保健師もいるだろう。企業の緊急対応や感染症対策を進めるにあたり、自身の立場を考慮しながら、必要な情報提供や社員対応、効果的な予防策の提案などが必要となるだろう。保健師は企業と社員が安全に働けるための支援策を率先して企画提案できることもあろう。その場合、社に感染者が出た場合は別とすれば、まず行うべきことは、対応より対策が優先となる。
 企業が企業の責任としてどこまで対策しようとしているのかをよく観察、確認し、組織の上司や仲間と協調しながら、立場をわきまえ役割を遂行する必要がある。(次回につづく)

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