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子宮頸がん :「HPVワクチン」の積極的勧奨を70%まで回復すれば80%の女性の命を救える
2020年02月26日
子宮頸がんを予防するためのHPVワクチンの接種の「積極的勧奨の中止」により、子宮頸がんの罹患者数と死亡数は増加している。
北海道大学などの研究グループは、「積極的勧奨を再開」した場合に、どけだけの女性の命を救えるかを推定した。
積極的勧奨の再開などにより、子宮頸がんによる死亡の80%を救えるという。
北海道大学などの研究グループは、「積極的勧奨を再開」した場合に、どけだけの女性の命を救えるかを推定した。
積極的勧奨の再開などにより、子宮頸がんによる死亡の80%を救えるという。
積極的勧奨を再開すれば多くの女性の命を救える
日本で、子宮頸がんの予防を目的としたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の定期接種を積極的に勧めること(積極的勧奨)が中止されたのは2013年。
接種の開始後に痛みや痙攣など多様な症状を訴える声が相次ぎ、2ヵ月後にワクチン接種に関する積極的勧奨が中止された。
およそ6年半が経過したが、勧奨は再開されていない。積極的勧奨の中止により、止前には70%程度あった接種率は、2013~2019年には1%未満まで減少している。
HPVワクチン接種の積極的勧奨の中止後、ワクチンと症状は無関係とする数多くの研究成果が出ている。
北海道大学などの研究グループは、日本でのHPVワクチンの「積極的勧奨の中止」による影響を定量化し、ワクチンの「積極的勧奨を再開」した場合に、子宮頸がんへの罹患をどれだけ防げて、失われた命をどれだけ救えるかを予測するため、具体的な数字を推定した。
研究は、北海道大学大学院医学研究院のSharon Hanley特任講師、Cancer CouncilNew South WalesのKaren Canfell教授らの研究グループによるもの。研究の詳細は医学誌「Lancet Public Health」のオンライン版に掲載された。
積極的勧奨中止により1万人超の女性が死亡
研究グループは、現状の「積極的勧奨の中止」によって、HPVワクチンの接種率が70%に維持された場合と比較して、1994~2007年の間に生まれた女性では、一生涯のうちに2万4,600~2万7,300人が子宮頸がんを超過罹患し、5,000~5,700人が超過死亡すると予測している。
また、これからの50年間で、合わせて5万5,800~6万3,700人が罹患し、9,300~10,800人が死亡すると推定している。
積極的勧奨が中止される前にすでにHPVワクチンを接種した女性では、接種によって1万5,400~1万7,300人の罹患と、3,100~3,400人の死亡を防止できることが判明した。
「積極的勧奨の中止」の長期化で積極的勧奨が再開されずに、接種率が現在と同じ1%未満であれば、現在12歳の女性だけでも、一生涯のうちに3,400人~3,800人が子宮頸がんとなり、700人~800人が死亡するという。
HPVワクチン接種を再開すれば80%の命を救える
海外では、9つの型のHPVの感染を予防し、90%以上の子宮頸がんを予防するとされている9価ワクチンが、すでに接種されはじめている。しかし、この9価ワクチンは日本ではまだ承認されていない。
もしも、ただちに積極的勧奨が開始され、9価ワクチンが承認され、12~20歳の女性の接種率を今年中(2020年)に50%~70%に回復できた場合、子宮頸がんの超過的死亡数の80%の命を救うことができるとみられている。
しかし、HPVワクチンの接種率が70%に回復したとしても、2095年までに検診率も上昇しない限り、日本ではWHOが目指している子宮頸がんの公衆衛生問題としての根絶(10万人当たり4人以下)を達成することは不可能だと、研究グループは推定している。
積極的勧奨の中止が及ぼした影響を調査
研究グループは、HPVワクチンの「積極的勧奨の中止」の影響について、以下の3点を定量化することを目的に研究を行った。
(1)日本における2019年までのHPVワクチンの積極的勧奨の中止が及ぼした影響として、接種した場合に子宮頸がんへの罹患を防ぐことができたと予想できる患者数と、接種しなかったことで失われた命についての具体的な数量値。
(2)HPVワクチン接種の勧奨中止が継続され、低接種率が持続した場合における、子宮頸がんの超過的な患者数及び超過死亡数。
(3)接種率の回復による推定する子宮頸がんの罹患数や死亡数の変化。
1994年~2007年生まれの女性に対する積極的勧奨中止の影響や、上記以降の出生コホートを含む50年間(2020年~2069年)の影響を分析した。
研究では、英国、オーストラリア、ニュージーランド、中国などで子宮頸がん検診とHPVワクチンに関する政策を決定するときに利用する「Policy1 Cervix Model」と呼ばれる数理モデルを用いた。
さらに、平均余命、細胞診陽性におけるHPVの感染率、浸潤がんにおけるHPVの型別の感染率、子宮頸がん検診率、がん情報サービスにもとづく子宮頸がんの罹患率と死亡率、ステージ別の子宮頸がん生存率などの国内データを適用して解析した。
未接種の女性のキャッチアップも行えば80%の命を救える
積極的勧奨を再開し、12歳時点の女性の接種率が70%に回復した場合、1994~2007年生まれの女性の一生涯への影響は以下のようになる。
(1)2020~2025年の間に緩やかに接種率が回復した場合:超過罹患数は2万3,000~2万5,500人、超過死亡数は4,800~5,400人。
(2)2020年に速やかに回復した場合:超過罹患数は2万2,000~2万4,400人、超過死亡数は4,400~5,100人。
(3)2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳にキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った場合:超過的な罹患数は9,800~1万1,100人、超過死亡数は2,000~2,300人。
(4)2020年に速やかに接種率が回復し、かつ13~20歳のキャッチアップ(未接種であった対象者の50%に接種)を行った上で、日本でまだ未承認である9価ワクチンを2020年から使用した場合:超過罹患数は4,300~7,000人、超過死亡数は900~1,600人。
これまでワクチン未接種であった女性を含むキャッチアップ接種率にも力を入れると、「積極的勧奨の中止」による超過罹患数・死亡数の60%~80%の死亡を防ぐことが可能となることが明らかになった。
これからの50年間で、ワクチン接種環境が急速に回復し、13~20歳の女性の50%が接種を受けることができれば、80%(4万6,500~5万3,000人)以上の患者の超過罹患と、75~80%(7,100~8,600人)の超過死亡を防ぐことができると推測される。
子宮頸がんのワクチン接種と検診は必要
「ただちに積極的勧奨が再開され、かつ9価ワクチンの承認により、12歳から20歳の女性の接種率を今年中(2020年)に50%~70%に回復できた場合、子宮頸がんの超過的死亡数の80%の命を救うことができます。積極的勧奨の再開が期待されます」と、研究グループは述べている。
ワクチンの接種率だけではなく、検診の受診率も上昇しないと、今世紀中の子宮頸がんの根絶は難しい。
日本産科婦人科学会は、科学的見地に立って、「子宮頸がんの予防戦略においてHPVワクチンと検診の両者はともに必須」として、これまでにHPVワクチン接種の積極的勧奨の再開を国に対して強く求める声明を発表している。
「多くの若い働き盛りの女性や子育て世代の女性が、子宮頸がんに罹患し、妊娠ができなくなったり命を失っている我が国の現状は、非常に深刻な問題として捉えられるべきです」と、同学会は強調している。
北海道大学大学院医学研究院Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study(Lancet Public Health 2020年2月10日)
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