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【新型コロナ】肥満や糖尿病の人が重症化するのを防ぐ治療法の開発へ 感染が引き起こす炎症ショックを抑制
2022年12月05日
群馬大学などは、肥満や糖尿病があると新型コロナが重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。
ウイルスや細菌の感染により全身に炎症が起き、その反応が過剰になると、免疫の暴走とも呼ばれる「サイトカインストーム」が引き起こされる。
研究グループは、このサイトカインストームを抑制し、ウイルスなどの感染が引き起こす全身の炎症のショックを防ぐ分子を発見した。
肥満や糖尿病の人に、この分子を補充することで、新型コロナの重症化や死亡を防げる可能性がある。新たな治療法の開発につながるものとしている。
肥満や糖尿病があると新型コロナはなぜ重症化しやすい?
群馬大学などは、肥満や糖尿病があると感染症で重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。 肥満や糖尿病は、新型コロナを含めた感染症で、重症化リスクの高い基礎疾患として知られている。ウイルスや細菌の感染により、体が対抗し炎症反応が全身に引き起こされる(敗血症)。 研究グループは、免疫を調節しており、細胞が障害を受けたときに放出される分子である「S100A8」が、炎症反応でサイトカインストームを抑制し、ウイルスや細菌などの感染が引き起こす全身の炎症ショックによる死亡を防いでいることを突き止めた。 さらに、肥満や糖尿病の状態では、炎症反応が起きてもS100A8を作り出すことができないため、敗血症のショックにより死亡率が高くなることを明らかにした。 「サイトカイン」は、感染症などが引き金となり、炎症細胞(マクロファージやリンパ球など)や血管内皮細胞などから分泌されるタンパク質。サイトカインは、免疫を調節する生理活性物質で、ウイルスなどに対する生体防御を担っている。 感染の度合いが高くなると、炎症反応が過剰になり、炎症性のサイトカインが大量に血液中に放出される。これが、「サイトカインストーム」と呼ばれるもので、免疫の暴走とも言われている。 研究グループは、肥満や糖尿病のあるマウスを用いた実験で、S100A8を補充することで、敗血症のショックによる死亡を抑制できることも確認。S100A8を治療に応用できる可能性がある。 敗血症の有効な治療法は少なく、とくに肥満や糖尿病の患者では重症化しやすいことが深刻な問題となっている。今回の発見は、新たな治療法の開発につながるものとしている。 研究は、群馬大学生体調節研究所の白川純教授らの研究グループが、筑波大学、横浜市立大学と共同で行ったもので、1型糖尿病の患者および家族による認定NPO法人であるIDDMネットワークの支援などを受けて行われた。研究成果は、「iScience」に掲載された。 「本研究により、肥満や糖尿病の患者で、感染症で重症化を防ぐことができる治療法の開発へつながることが期待されます」と、研究グループでは述べている。
肥満や糖尿病があると免疫を制御するS100A8が産生されにくくなり致死率が上昇する
S100A8を補充すると肥満や糖尿病の状態でも炎症反応による致死率は改善する
S100A8を補充すると肥満や糖尿病の状態でも炎症反応による致死率は改善する
出典:群馬大学、2022年
S100A8の投与で生存率が改善 膵β細胞の炎症にも関与
肥満や糖尿病では、体のなかのさまざまな臓器で慢性的な炎症が生じていることが知られている。こうした炎症などにより細胞が障害を受けたときに、細胞は免疫反応を調節するためにアラーミンやDAMPsと呼ばれる分子群を細胞から放出する。 白川純教授らの研究グループはこれまで、糖尿病状態ではインスリンを作り出す膵臓の膵島にある膵β細胞でも、アラーミンのひとつであるS100A8が産生され、膵島の炎症に関与していることを報告してきた。 S100A8は、炎症反応などの感染症でも重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、肥満や糖尿病の患者でのS100A8と感染症との関係はよく分かっていなかった。 研究グループは今回、エンドトキシンであるリポポリサッカライド(LPS)や大腸菌の腹腔内投与、腸管穿孔モデルである盲腸結紮穿刺(CLP)による炎症反応モデル用いて、炎症反応ショックを起こした状態のマウスにS100A8を投与すると、生存率が有意に改善することを明らかにした。 また、S100A8は炎症反応時に、体内の免疫細胞から産生され、エンドトキシンなどの受容体であるTLR4を介して起こるサイトカインストームを抑える役割を果たしていることを解明した。新型コロナなどの感染症の重症化を防ぐ治療法の開発へ
一方、肥満や糖尿病のあるマウスでは、感染症のない状態では血液中のS100A8が、肥満や糖尿病がない状態よりも高い値を示すことが分かった。こうしたマウスや、免疫細胞でS100A8遺伝子を欠損したマウスでは、炎症反応時にはS100A8を免疫細胞が産生することができず、敗血症のショックによりサイトカインストームが悪化し死亡率が高くなることを明らかにした。 さらに、肥満や糖尿病の状態のマウスにS100A8を補充すると、敗血症のショックでのサイトカインストームを抑制することで、生存率は改善され、治療や重症化予防になることも示された。 「本研究により、肥満や糖尿病が炎症反応で重症化しやすくなる新しいメカニズムが分り、またS100A8を適切に補充することが、炎症反応の治療や重症化の予防に役立つ可能性も示唆されました」と、研究グループでは述べている。 「現在、世界中でまん延しているCOVID-19でも、肥満や糖尿病は重症化しやすい基礎疾患であり、またCOVID-19の病態や重症化にS100A8が関与する可能性も示唆されています。本研究成果は、肥満や糖尿病などの感染症で重症化しやすい基礎疾患を有する患者で、重症化を防ぎ致死率を改善させる治療につながることが期待されます」としている。 なお研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、科学研究費助成事業、および大樹生命厚生財団などの民間助成金に加え、1型糖尿病の患者および家族による認定NPO法人であるIDDMネットワークの支援を受けて行われた。 群⾺⼤学生体調節研究所群⾺⼤学生体調節研究所代謝疾患医科学分野
Protective effects of S100A8 on sepsis mortality: links to sepsis risk in obesity and diabetes (iScience 2022年11月22日)
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