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【健保連調査】業態別データから読み解く被保険者の健康課題 生活習慣・メタボ・メンタルヘルスの業態差

 健康保険組合連合会(健保連)は2025年11月、「業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査【令和5年度】」を公表した。本調査は、約309万人の特定健診データと約1,621万人のレセプトデータを解析し、業態ごとの健康リスクを可視化したものである。
 結果からは、建設・運輸業における肥満リスク、宿泊・飲食サービス業および情報通信業におけるメンタルヘルス不調など、業態特性と健康課題の関連が示された。本稿では調査結果のポイントを整理し、産業保健スタッフや保健指導担当者が留意すべき「業態別アプローチ」の視点を探る。

不動産業で飲酒量、製造・運輸業で喫煙率が高い傾向

 今回の調査は、特定健診データは309万1,978人(453組合)、レセプトデータは1,621万403人(1,310組合)を対象に行った。

 生活習慣に関する調査では、飲酒習慣において業態間の顕著な差が浮き彫りになった。
 「飲酒日の1日当たりの飲酒量が3合以上」の割合は、全体で5.1%であった。業態別では、不動産業・物品賃貸業が7.9%と最も高く、労働者派遣業が7.6%、木製品・家具等製造業が7.1%と続いた。一方、医療・福祉は2.7%で最も低く、業態によって約3倍の開きがみられた。

 喫煙習慣は、全体では25.9%が「たばこを習慣的に吸っている」と回答した。業態別にみると、紙製品製造業(32.5%)、木製品・家具等製造業(32.3%)、印刷・同関連業(32.3%)、運輸業(31.5%)が高い割合を示している。低い割合を示しているのは、医療・福祉(15.3%)、金融業・保険業(16.7%)、教育・学習支援業(17.3%)であった。
 男女別の喫煙率は、男性31.5%、女性12.8%であった。 男性で喫煙率が高かった業態は、紙製品製造業、飲食料品以外の小売業、印刷関連業など。一方、女性では宿泊業・飲食サービス業が24.5%と全体平均の約2倍に達し、次いで飲食料品小売業、紙製品製造業と続いた。

 これらは単なる個人の嗜好や性格の問題ではなく、仕事の性質や勤務体制、職場環境と深く結びついている可能性が高い。飲酒・喫煙はメタボや生活習慣病のリスクを高める要因であり、業態ごとの傾向を踏まえた対策が必要だ。

肥満リスクは「派遣・建設・運輸」に集中 メタボ該当・予備群は全体の約3割に

 40~74歳の特定健診データから算出された肥満該当者の割合は、43.1%と、被保険者の4割以上に及ぶ。業態別で最も高かったのは労働者派遣業(54.2%)で、次いで建設業(51.7%)、運輸業(47.5%)が高い割合を示した。
 一方、低い割合を示しているのは、医療・福祉(31.1%)、繊維製品製造業(33.1%)、教育・学習支援業(34.3%)で、最も高い労働者派遣業と比べるとおよそ20ポイント以上の差がみられた。

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出典:「業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査」P.29(健康保険組合連合会、2025年11月11日)

 肥満と関連するメタボリックシンドローム該当者をみると、その割合は全体で17.2%。さらに予備群は14.1%となっており、該当者と予備群を合わせると約3割がメタボ該当者・予備群に該当し、特定保健指導の対象となり得る集団が一定規模存在することが確認された。

 特にメタボ該当者・予備群の割合が高かったのは、建設業で40.3%(該当者23.5%、予備群16.8%) 、次いで労働者派遣業が40.0%(該当者23.2%、予備群16.8%)、運輸業が36.8%(該当者21.1%、予備群15.7%)と全体平均を大きく上回っていた。
 これらの業態は、シフト勤務や現場作業による不規則な食生活、あるいは(派遣業のような)契約形態の違いにより、健康管理機会を確保しにくい状況が一因となっている可能性がある。

 対照的に、最もリスクが低かったのは、医療・福祉の18.2%(該当者10.0%、予備群8.2%)。最も高い建設業と比較すると、こちらも20ポイント以上の差があり、業態間で健康リテラシーや意識、生活環境に大きな隔たりがあることが示された。

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出典:「業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査」P.47(健康保険組合連合会、2025年11月11日)

メンタル不調の二大リスク業態は「宿泊・飲食」と「情報通信」

 レセプトデータに基づくメンタルヘルス不調による医療受診状況について、「気分(感情)障害」と「ストレス関連障害」という2つの主要な精神疾患群の受診者割合をみてみると次のような結果がみられた。
 なお、ここで示されている割合は、診断の有無ではなく、レセプト上で当該疾患名により医療機関を受診した被保険者の割合である。

業態別にみたメンタルヘルス不調の受診状況

 気分(感情)障害(躁うつ病を含む)の年間平均受診者割合は、全体で2.5%であった。最も割合が高かったのは、宿泊業・飲食サービス業の3.5%、次いで情報通信業の3.4%であった。
 これらの業態は、不規則な勤務体系に加え、人手不足による高負荷、対人業務による感情労働(エモーショナル・ワーク)の負担などが背景にあると推測される。

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出典:「業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査」P.59(健康保険組合連合会、2025年11月11日)

ストレス関連障害:同じく宿泊・情報通信業が上位

 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(不安障害や適応障害など)の受診者割合も全体の2.3% に対し、同様に宿泊業・飲食サービス業が3.3%と最多で、情報通信業も3.0%と高い値を示した。
 この結果は、宿泊業・飲食サービス業と情報通信業では、業務に伴うストレスが精神疾患として顕在化しやすいことを示している。これらの業態に特化したメンタルヘルス対策の強化が優先的に検討すべき課題といえる。

「業態別健康リスク」を見据える産業保健の時代へ

 今回の調査結果は、従来の「個人の生活習慣改善」を中心とした保健指導だけでは、十分な効果が得られにくい業態が存在することを示している。
 特に、建設業や運輸業、労働者派遣業では肥満・メタボのリスクが高く、宿泊・飲食サービス業や情報通信業ではメンタルヘルス不調が顕在化しやすいなど、健康課題の現れ方は業態ごとに異なる。

 そのため産業保健スタッフは、健診結果やレセプトデータを個人単位で捉えるだけでなく、「業態特性」や「働き方」を踏まえたリスクアセスメントが求められる。
 今後は、業態別データを活用した集団分析と、個別支援をどう組み合わせるかが、産業保健活動の質を左右する重要なポイントとなるだろう。

参 考

業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査|健康保険組合連合会(2025年11月11日)
統計データ(健診・医療費統計)|健康保険組合連合会

[保健指導リソースガイド編集部]