高齢者の健康関連QOLは2つの軌跡に分かれる 名古屋大学らが12年追跡研究、睡眠の質・抑うつ・身体機能などが予測因子
名古屋大学と弘前大学の研究グループは、日本の地域在住高齢者910名を対象に最大12年間追跡した縦断研究を実施し、健康関連QOLの長期的な変化パターンとその予測因子を明らかにした。
解析の結果、健康関連QOLの一部の領域では、同程度のスコアからスタートしても加齢に伴う変化は一様ではなく、「維持される群」と「低下する群」という異なる軌跡をたどることが示された。
また、睡眠の質、足の筋力や体の安定性、抑うつ傾向などが将来のQOL低下と関連する要因として示唆された。これらの多くは質問票や簡便な身体機能評価で把握できるため、地域保健や保健指導における早期リスク評価への応用が期待される。
健康寿命の延伸には「健康関連QOL」の把握が重要
日本では超高齢社会が進展するなか、健康寿命の延伸が重要な政策課題となっている。その中で、単に疾病の有無だけでなく、日常生活における身体的・精神的・社会的な健康状態を包括的に評価する指標として「健康関連QOL」*1への関心が高まっている。
健康関連QOLは、将来の死亡率や心血管疾患発症リスクなどとも関連することが報告されており、高齢者の健康状態を総合的に把握する指標として注目されている。しかし、従来の研究の多くは単一時点での評価にとどまり、長期的な変化パターンやその予測因子については十分に明らかにされていなかった。
本研究では、弘前大学が青森県弘前市岩木地区で継続している大規模地域コホート研究「岩木健康増進プロジェクト健診」のデータを活用し、地域在住高齢者910名の健康関連QOLを最長12年間追跡して解析した。
健康関連QOLの一部領域で「維持群」と「低下群」の2つの軌跡を確認
本研究は、名古屋大学大学院医学系研究科 実社会情報健康医療学の大島涼賀氏(博士前期課程学生)、中杤昌弘准教授、大橋勇紀助教らと、弘前大学の研究グループによる共同研究である。研究成果は2025年12月7日付で国際誌『Scientific Reports』に掲載された。
「岩木健康増進プロジェクト健診」*2のデータから抽出した、日本の地域在住高齢者910名を対象に、健康関連QOLの評価指標として国際的に広く用いられている「SF-36」*3の下位尺度を用い、12年間の変化を潜在クラス混合モデル*4により解析した。
その結果、SF-36の「日常役割機能(身体):Role Physical(RP)」および「日常役割機能(精神):Role Emotional(RE)」の2領域において、同程度のスコアからスタートしても、その後の経過は一様ではなく、「比較的安定して推移する群」と「加齢とともに低下する群」という2つの軌跡に分かれることが確認された。
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出典:プレスリリース「高齢者の"生活の質"変化パターンとその予測因子を同定」(名古屋大学・弘前大学、2026年1月9日)
PSQIによる「睡眠の質」評価が、身体・精神両面のQOL低下予測に寄与
健康関連QOLの低下リスクを予測する上で、身体・精神の両面で共通して有意な関連を示したのが「睡眠の質」である。本研究では、睡眠状態の客観的・主観的評価に、国際的な標準指標である「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」*5を用いている。
解析の結果、RPの低下群では、身体の安定性や足の筋力の低下が関連していた。一方、REの低下群では、抑うつ傾向などの心理的要因が関与していた。
さらに、睡眠に関する複数の指標もQOL低下と関連していた。入眠困難、睡眠の深さ、日中の眠気、睡眠薬の使用など、睡眠の質に関わる指標がRPおよびREの低下群と関連する一方で、就寝時刻や起床時刻などの睡眠スケジュールには、維持群と低下群の間で明確な差は認められなかった。
これらの結果は、高齢者の健康関連QOLの将来的な低下を予測する上で、睡眠の質や身体機能、心理的状態といった複数の要因を総合的に評価する重要性を示唆している。
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出典:プレスリリース「高齢者の"生活の質"変化パターンとその予測因子を同定」(名古屋大学・弘前大学、2026年1月9日)
地域保健ではQOL低下の「早期リスク評価」と予防的支援が重要
本研究は、同程度の健康関連QOLスコアを示していても、長期的には異なる経過をたどる可能性があることを示した。これは、単一時点の評価のみでは将来的な健康状態の変化を十分に捉えられない可能性を示唆している。
今回関連が示された睡眠の質、足の筋力や身体の安定性、抑うつ傾向などの要因は、質問票や簡便な身体機能評価で把握可能であり、地域保健活動や保健指導の場でも比較的導入しやすい。
例えば、保健指導の現場では以下のような取り組みが考えられる。
- 転倒予防や筋力維持を目的とした身体活動プログラム
- 抑うつ傾向の早期把握と相談支援
- 睡眠衛生の改善を目的とした生活習慣指導
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、高齢者では長時間睡眠と死亡リスクとの関連が報告されていることから、睡眠時間だけでなく睡眠の質や休養感にも着目することが重要とされている。
研究グループは、「非侵襲の検査や質問票で測定できるため、身体的負担が少なく、高齢者の将来の健康関連QOLの予測や健康寿命延伸に向けた安全な政策介入につながる」と述べている。
今後の地域保健活動においても、健康寿命延伸に向けた早期介入につながることが期待される。
*1 健康関連QOL:一般的なQOLが仕事や趣味の充実度などを広範に指す中で、特に健康状態が原因で日常生活に及ぼす影響を捉える指標。
*2 岩木健康増進プロジェクト健診:弘前大学を中心に青森県弘前市岩木地区で2005年から継続している、身体計測、血液検査、体力測定、生活習慣、睡眠、メンタルヘルスなどを総合的に評価する大規模地域健康調査。
*3 SF-36:身体機能、日常役割機能(身体)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常役割機能(精神)、心の健康の8領域から構成される、世界的に使用されている健康関連QOLを測る質問票。
*4 潜在クラス混合モデル:多数のデータから類似した変化パターンを示すグループを抽出する統計手法。
*5 PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票):過去1カ月間の睡眠の質を評価する自記式質問票。「睡眠の質」「入眠潜時」「睡眠時間」「習慣的睡眠効率」「睡眠障害」「睡眠薬の使用」「日中の困難感」の7つのコンポーネントで構成され、合計スコアが高いほど睡眠障害が疑われる。
参 考
高齢者の"生活の質"変化パターンとその予測因子を同定 12年分のビッグデータ解析、健康寿命延伸へ重要な知見|名古屋大学(2026年 1月9日)
Longitudinal trajectories of health-related quality of life and their predictors among community-dwelling older adults|Scientific Reports(2025年12月7日)
健康づくりのための睡眠ガイド2023|厚生労働省
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