オピニオン/保健指導あれこれ
公衆衛生看護に必要なマネジメント

No.3 行動計画の設定

保健師、産業カウンセラー、MBA、博士(医学)
栗岡 住子
 1.はじめに

 前回は、SWOT分析により現状の課題から効果的な保健事業を検討する方法を紹介しました。今回は保健事業を実行に移す行動計画を立てる際に役立つバランス・スコアカードをご紹介します。

 2.バランス・スコアカードとは
 バランス・スコアカード(BSC)は、中長期的な計画を4つの視点(財務、顧客、社内のビジネス・プロセス、人材育成)に分けて、具体的な行動に落とし込んでいく考え方です。

【4つの視点】
 1)財務の視点:収益を上げるための株主(顧客)に対する行動
 2)顧客の視点:顧客(従業員)の満足度を高めるための行動
 3)社内のビジネス・プロセスの視点:目標達成のための業務改善行動
 4)人材育成(学習・成長)の視点:目標達成のために必要な具体的な人材
   育成行動

 財務の視点といわれてもわかりにくいと思いますが、公衆衛生看護職にとっては「人(従業員)」が大事な財産と考えて、従業員が健康で高業績を出せるように支援する行動と考えてもらったらよいと思います。

 3.計画の具体化
 4つの視点で計画をイメージすると、「こうなったらいいな?」という理想的な到達点を思い描けることができると思います。そのなかで実現可能なものを図のように「目標」「業績評価指標」「目標値」「実績値」「実施項目」として表にすると、計画が整理できます。

【5つの項目】
 1)目標:4つの視点に対応すべき目標のポイントをリストアップ
 2)業績評価指標:目標を評価するための具体的な指標
 3)目標値:業績評価指標による達成可能な目標値
 4)実績値:業績評価指標による現状の実績値
 5)実施項目:実績値を目標値に近づけるための具体的な実施項目

 その際に、前回ご紹介したSWOT分析によってリストアップされた課題や、クロス分析によって検討された戦略オプションが活用できます。また、複数の関係者で企画・運営する場合は、関係者と一緒に整理すると、情報交換や意思統一ができます。

 4.おわりに
 3回にわたって、ビジネスツールの一部を紹介しましたが、他にも環境分析のためのPEST分析や3C分析、戦略を考えるPPMやマーケティング・ミックスなど、多くのツールがあります。しかし、実際に保健活動に使う際には、解釈を変えたり(例えば「財務」を「人財」と解釈を変える)、活用方法に工夫が必要です。ビジネスツールを使うメリットは、新しいツールを活用できるだけでなく、それをとおして、今までの仕事を、俯瞰的にまたは別の視点から眺めることができることだと思います。

 最後に、看護職のシゴトも経営も、「個人にできるシゴトには限界がある」からこそ「組織」が必要になります。様々な組織や人をうまくネットワーク化して、看護職としての「私」も、そして支援する「人々」も幸せにできるようなシゴトをするために、皆さんの専門知識に経営学的視点というスパイスを加えて、元気よく幸せなキャリアを歩んでもらえることを心より祈っています。

<参考文献>
1)荒井耕・正木義博.バランスト・スコアカード.日本医療企画.2010
2)伊藤和憲.BSCによる戦略の策定と実行―事例で見るインタンジブルズのマネジメ ントと統合報告への管理会計の貢献―.同文舘出版.2014
3)櫻井通晴.バランスト・スコアカード(改訂版).同文舘出版.2008
4)ポール・R・ニーヴン他/吉川 武男他訳.行政・非営利組織のバランス・スコアカード.生産性出版.2006

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