オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.2 保健師活動に必要な放射線に関する基礎知識とは

保健師の活動と放射線 研究班
 1. 私たちは放射線に関して知らないことを知る
菊地 透
前自治医科大学、原子力安全研究協会研究参与
経歴:
1949年に東京で生まれ、放射線防護に係って45年間が過ぎた。この間に東京大学原子力総合センター、自治医科大学医学部RIセンターに勤務。現在は、公益財団法人原子力安全研究協会研究参与、医療放射線防護連絡協議会総務理事を担当。また、福島原発災害に関連して、福島県及び隣県で多数講演し、「いまからできる放射線対策ハンドブック」(2012)を女子栄養大学の香川靖雄先生と出版。
 放射線は五感に感じないので、解りにくくて難しいと言われます。

 そもそも放射線に関する教育を私たち医療関係者は、学校教育と一部の医療専門職(診療放射線技師)教育を除いて、卒前・卒後教育において殆ど実施されていない状況があります。

 私たちの放射線に関する認識は、先般の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発災害に関するテレビ・新聞等のメディアからの情報です。

 先般の原発災害では突然茶の間に、放射性ヨウ素や放射性セシウム等の放射性物質が生活環境の場に出現し、聴きなれないベクレル、シーベルト、内部被ばく、食品等の放射能汚染、除染や放射線影響など放射線に関する基礎知識の乏しい私たちは、多くの混乱と不安な生活を過しました。

 最近の社会的な関心事に火山防災があります。危険事象に対して、寺田寅彦(明治・大正時代の物理学者)の名言に「正しく恐れる」と「天災は忘れた頃にやって来る」があります。

 前者の名言は、軽井沢に滞在した際に浅間山の小爆発を2回体験し、1回目の爆発の方が2回目よりも大きな爆発規模であったが、2回目の小爆発の方を東京の新聞では大きな爆発記事として掲載されていました。この出来事に関して「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」と紹介した随筆からの引用です。

 福島原発災害から4年経過した今、福島県及び隣県の人々は、放射線・放射性物質に対して怖い・危険と思っている方が大半です。

 そして、怖がり過ぎる方よりも怖がらな過ぎない振りをして正しく知ることを避け、表面的には放射線に関する話題を避けて放射線不安に蓋をして日々の生活を過しています。保健師活動において一見平穏に見えても住民の方は放射線を怖い・危険と思って生活されていることを知ることが大切です。

 2. 放射線は知ることから始まります

(1)以外と知らない身の回りの放射線

 私たちの地球は、大気層が宇宙放射線を1/100に減少する放射線から守られた惑星で、年間約0.4mSv(ミリ・シーベルト)の被ばくを宇宙放射線から受けています。

 また、地球誕生時代から存在するウラン、トリウムや放射性カリウム等が、大地、空気、食べ物等に含まれており年間約2mSvで、合計すると年間平均2.4mSvの放射線を受けながら生活しております。なお、地球上では年間1~10mSvの放射線を絶えず受けながら私たちは太古の昔から生活しています。

 そして、地球上の自然放射性物質は、飲食物を通じて私たちの体に取り込まれており、成人60kgの方は7000ベクレル程度を絶えず保有しています。

(2)放射線の人への影響と防護

 放射線利用が始まった19世紀末から放射線影響に関する研究と放射線防護の対策が始まりました。20世紀後半からは我が国の広島と長崎の原爆被害調査により、放射線の疫学調査も行われ、より詳細な放射線影響の研究と原子力施設や放射線施設の増加に伴い、放射線防護システムが発展・整備されてきました。

 これまでの放射線影響の研究調査では、比較的高い数千mSvを一度に受けた人は確実な健康影響が発症します。そして、比較的低い数百mSv以下の被ばくは、影響が起きる方と起きない方がおります。この発生率と被ばく量の関係は、原爆災害調査から人での遺伝的は確認されていませんが、動物実験では起きています。

 人の放射線誘発がんに関しては、白血病は約200mSv程度、全がんでは100mSv程度までは、一般の人のがん発生率を有意に増加する傾向は確認されていません。それよりも日常生活でのがん誘発因子である喫煙や食事、飲酒、運動不足等の生活習慣の方が遥かに大きながん増加の原因であり、ストレスや免疫低下を防ぐ生活指導が大切です。

 また、子供への影響に関しては、1000mSvを一度に受けた場合に子供は成人よりも2倍以上の危険性がありますが、数百mSv以下では子供と大人の年齢差は確認されていません。

 なお、放射性ヨウ素の甲状腺に対する影響と線量の関係では5歳未満の場合は甲状腺の線量が50mGy、10歳~20歳未満は100mGy、20歳~40歳未満で1000mGyを超える場合に確認されています。

 3. おわりに
 福島原発災害から4年経過して、私たちは放射線に関する基礎知識の無いままに図に示すとおり、多くの曖昧な放射線情報がメディア等から氾濫し、恐怖・不信・被ばく・汚染などから放射線は危険と認識されるようになりました。

 このような曖昧情報に依存するのでなく放射線に対して正しく理解することが、今後の原子力災害の復旧・復興に不可欠であり、正しく学び、知って、考えて、自ら冷静に評価・判断する活動が社会・メディア情報から発信されることが重要です。

 そのために保健師らが中心に住民と共に放射線防護活動を継続することから、住民の原子力災害に伴う健康影響から守る大きな役割と期待されます。

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