ニュース
慢性腎臓病(CKD)により体内時計が乱れる 中枢や末梢臓器の時計の乱れが腎機能をさらに悪化
2020年01月29日
慢性腎臓病(CKD)により体内時計の乱れが起き、結果として腎機能をさらに悪化させることを、早稲田大学や横浜市立大学などの研究チームが発見した。
生活習慣を整えることで体内時計の乱れを防ぐことが、腎臓病悪化の予防につながる可能性がある。
生活習慣を整えることで体内時計の乱れを防ぐことが、腎臓病悪化の予防につながる可能性がある。
体内時計の乱れが睡眠・覚醒パターンや血圧、腎機能の昼夜差をさらに乱す
早稲田大学や横浜市立大学などの研究グループは、慢性腎臓病(CKD)モデルマウスを用い、CKDにより中枢や末梢臓器の体内時計の乱れが起き、それにより睡眠・覚醒パターンや血圧、腎機能の昼夜差が失われ、結果として腎機能をさらに悪化させることを発見した。
腎臓病患者は、夜間の中途覚醒、睡眠の質低下、睡眠時間の減少、昼間の過度な眠気といった睡眠障害がしばしばみられ、体内時計(概日時計)の乱れが指摘されている。体内時計つまり時計遺伝子は、腎臓でも24時間の時を刻んでおり、血液からの老廃物の濾過、尿の生成、血圧調節などを制御している。
一方で、CKDと時計遺伝子の関連、さらには睡眠障害との関連については明らかになっていない。そこで、そこで研究グループは、アデニン誘発性のCKDモデルマウスを用いて、体内時計の変化や睡眠障害について解析を行った。
研究は、早稲田大学理工学術院の田原優准教授および本橋弘章氏、横浜市立大学医学部の涌井広道講師、University of California Los AngelesのChristopher S. Colwell教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」に掲載された。
体内時計の乱れがnon-dipper型を引き起こす
その結果、CKDモデルマウスでは、活動量の低下、睡眠の断片化(中途覚醒の増加)、飲水行動・尿の増加がみられた。中枢時計では、時計遺伝子Period2(ピリオド2)の発現の日内リズムが減弱していたことから、これらの睡眠・行動の変化は中枢時計の減弱によるものと考えられた。さらに、腎臓の時計遺伝子、時計制御下の遺伝子発現の日内リズムも減弱していた。
中枢時計は、脳内の視床下部にある視交叉上核と呼ばれる神経核にある。中枢時計はすべての臓器にある"末梢時計"の時刻調節を行う司令塔だ。
CKD患者では高血圧が起こるが、CKDモデルマウスでも高血圧、かつ低心拍数を示すとともに、睡眠時に血圧が低下しないnon-dipper型の変動を示した。
健常人では血圧は活動期に高く、夜間は10~20%低下する日内変動を示すのに対し、non-dipper型は夜間に血圧が低下しない(0~10%)。non-dipper型の高血圧では、心血管イベントのリスクが高く、CKDの患者ではnon-dipper型の割合がとくに多いという報告がある。
この結果は、non-dipper型高血圧を再現しているとともに、今回の研究でみられた体内時計の乱れがnon-dipper型、つまり、日内リズムの消失を引き起こしている可能性を示唆している。
体内時計の乱れが腎機能の悪化という負の連鎖につながる
次に、時計遺伝子のひとつであるClock(クロック)の変異マウスを用いて、同様にアデニン誘発性のCKDモデルマウスを作製し、体内時計の乱れが腎臓病の発症、進行に影響を与えるのかについて検討した。
その結果、通常のマウス(WT)で作成したCKDモデルマウスに比べ、Clock変異CKDモデルマウスでは腎機能マーカーの悪化(尿中クレアチニン値低下、血清尿素窒素上昇など)、炎症・線維化マーカーの悪化がより顕著だった。
とくに、Clock変異CKDモデルマウスで、細胞外基質の分解酵素であるMMP-2/9(ゼラチナーゼ)の活性が高く、アデニン代謝物の腎臓内蓄積が多いことが悪化の原因と考えられた。
以上のことから、中枢時計や末梢臓器の時計の乱れが起きることで、睡眠・覚醒パターンや血圧、腎機能の昼夜差が失われ、さらに乱れた体内時計は腎機能の悪化を促進するという負の連鎖が起きていることが示された。
研究グループは、「体内時計の乱れが腎臓病悪化の一因であるという今回の研究結果から、ふだんの生活習慣を規則正しく整え、体内時計の健康維持を目指すことが、腎臓病悪化の予防につながる可能性がある。実際に、夜間勤務、シフトワークなどで生活習慣、体内時計が乱れている人は、腎機能が低下しているという疫学調査結果もある」と、指摘している。
The circadian clock is disrupted in mice with adenine-induced tubulointerstitial nephropathy(Kidney International 2020年1月13日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2023年08月09日
-
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より - 2023年08月08日
- 若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
- 2023年07月28日
- 2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
- 2023年07月24日
- 標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
- 2023年07月11日
- 自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
- 2023年06月20日
- 肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
- 2023年06月12日
- 自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
- 2023年06月05日
- 要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
- 2023年05月19日
- 令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
- 2023年05月18日
-
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-