Vol.4 スマホを使った日々の疲労チェック
過労死防止における疲労と回復
過労死の防止には、過度な負荷を回避するだけでなく日々の疲労を適切に回復させることが重要です。労働者に疲労の自覚を促すことは、疲労回復の機会を充実させるメリットがあります。過労死等防止調査研究センターでは日々の疲労を計測し記録できる ウェブアプリ を無料提供し、疲労のセルフチェックを支援しています[1]。
疲労自体は必ずしも有害とは言い切れません。疲労感は、エネルギー需要の調整などを通して健康を保つ、生理的な自己調節システムの一部と考えられています[2]。つまり、疲労を正しく自覚できれば睡眠などの回復行動につながり、慢性疲労による健康リスク[3]の低減が期待できます。
一方で疲労そのものが疲労感を乱したり、ストレス、緊張、意欲や報酬が疲労感を上書きしたりすること[4-6]が知られています。疲れているときほど自分で自分の疲労を正確に評価し適切な行動につなげるのは難しいので、何らかの支援が求められます。
疲労の「測定」方法
実務・研究でも疲労の客観的な測定へのニーズは高く、様々な方法が提案されてきました。これまでに、脳波などの電気生理学的な手法[7]に加えて体液に含まれるホルモンを見る生化学的な手法[8]、そして今回ご紹介する行動指標が代表的な指標として活用されています。
ただし、疲労に対する完全な指標は未だ存在せず、いずれの手法にも利点と課題があります。行動指標に関しては、計測が比較的簡単であるというメリットがあります。
行動指標で疲労を評価するときは、ボタン早押しゲームのような課題の反応時間や正確性を通して認知・運動パフォーマンスを計測し、疲労度の指標とします。最近では高性能なスマホが普及したことで専用の装置がなくても正確な計測が可能となり、多様な環境、多数の人を対象にした計測が簡単にできるようになりました。
スマホを使った個人そして組織の疲労チェック

そこで当センターでは、スマホからブラウザを使ってアクセスするだけで行動指標や主観指標(アンケート)を使用した疲労計測を実施でき[9]、その結果を後から振り返ることで日々の変化を自覚できるウェブアプリ「疲労checker簡易版」 を無料提供しています[1]。
このアプリは、覚醒度検査、実行機能検査、過労徴候しらべ、スライダーを使った疲労記録機能を備えています。特に重要なのは、日々の計測結果を端末内に保存しグラフで振り返ることができることです。スライダーは自覚された疲労(主観的疲労)を記録しますが、覚醒度検査や実行機能検査の値と推移を比較することで自覚できていなかった疲労の蓄積や回復を見ることができます。
詳しくは こちらのページ もご覧ください。
また、アプリで計測した結果はCSVとして書き出すことが可能です。このエクスポート機能を利用すると、組織での疲労計測も比較的簡易に実施することができます。
本アプリは業務・研究利用も可能ですので、ぜひご活用ください。
参考文献
[1] 一般公開用疲労測定アプリ 「疲労checker簡易版」 [Internet]. 過労死等防止調査研究センター(RECORDs). 2025 [cited 2026 May 8]. Available from: https://records.johas.go.jp/article/231.
[2] Marino FE. If only I were paramecium too! A case for the complex, intelligent system of anticipatory regulation in fatigue. Fatigue: Biomedicine, Health & Behavior. 2014;2:185-201. doi: 10.1080/21641846.2014.957038.
[3] Tanaka M, Tajima S, Mizuno K, Ishii A, Konishi Y, Miike T, Watanabe Y. Frontier studies on fatigue, autonomic nerve dysfunction, and sleep-rhythm disorder. The Journal of Physiological Sciences. 2015;65:483-498. doi: 10.1007/s12576-015-0399-y.
[4] Raggatt PTF, Morrissey SA. A Field Study of Stress and Fatigue in Long-Distance Bus Drivers. Behavioral Medicine. 1997;23:122-129. doi: 10.1080/08964289709596368. Cited in PMID: 9397284.
[5] Bigica M, Jiang C, D'Onofrio I, Liu Z, Song C. 123 Detrimental effects of acute sleep deprivation on perceptual metacognition. Sleep. 2021;44:A50. doi: 10.1093/sleep/zsab072.122.
[6] Beeler JA, Frazier CRM, Zhuang X. Putting desire on a budget: dopamine and energy expenditure, reconciling reward and resources. Front Integr Neurosci [Internet]. 2012 [cited 2026 May 8];6. doi: 10.3389/fnint.2012.00049.
[7] Zhao C, Zhao M, Liu J, Zheng C. Electroencephalogram and electrocardiograph assessment of mental fatigue in a driving simulator. Accident Analysis & Prevention. 2012;45:83-90. doi: 10.1016/j.aap.2011.11.019.
[8] Izawa S, Sugaya N, Ogawa N, Shirotsuki K, Nomura S. A validation study on fingernail cortisol: correlations with one-month cortisol levels estimated by hair and saliva samples. Stress. 2021;24:734-741. doi: 10.1080/10253890.2021.1895113. Cited in PMID: 33792492.
[9] Nishimura Y, Ikeda H, Matsumoto S, Izawa S, Liu X, Tamaoki A, Kubo T. Enhanced repeated measurement of psychological tasks and form questions via a web-based mobile app. EOH-P. 2025;7:Article ID: 2025-0019. doi: 10.1539/eohp.2025-0019.
私たちRECORDs(過労死等防止調査研究センター)は、ポータルサイト「健康な働き方に向けて」で、研究成果の紹介、国内外の最新研究動向、産業保健の現場で活用できるツール、制度に関する情報など、幅広いコンテンツを発信しています。毎年3月にはシンポジウムを開催していますので、ぜひ、ご参加ください。
令和8年度 労働安全衛生総合研究所 一般公開
「働く人の健康に関する研究施設公開(登戸地区) ー大人のまなび時間ー」
【日 時】
令和8年7月9日(木)
・午前:第一部(オンライン講演会/定員200名程) 10:00~12:00
・午後:第二部(オンサイト施設公開/定員80名程) 13:00~16:30
【参加申し込み】
6月上旬開始予定
【詳しくはこちら】
令和8年度一般公開のお知らせ(登戸地区) | 労働安全衛生総合研究所
関連リンク
保健指導リソースガイド・オピニオン「労働者の疲労リスク管理・効果的な休み方―過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の成果と職域での取り入れ方」(著・久保智英)
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