オピニオン/保健指導あれこれ
健康運動看護師とは -看護職だからできる健康運動の実践指導-

No.2 子どもの運動器検診における健康運動看護師(健康スポーツナース)の役割

宮崎大学医学部看護学科 地域・精神看護学講座教授
鶴田 来美
 児童・生徒の健康上の問題として、運動不足に伴う肥満傾向や生活習慣病と運動過多に伴う四肢および脊柱などのスポーツ傷害があります。

 現代の子どもは、運動をよくする子どもと、ほとんどしない子どもとの二極化が指摘されており、文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」の結果では、児童・生徒の体力・運動能力は、昭和60年ごろから現在まで低下傾向が続いています。

 いつしか「子どもの体力低下」は定着した用語として用いられ、体力低下だけでなく、雑巾が絞れない、靴のひもを結べない、スキップができないなど、自分の身体を操作する能力の低下も指摘されるようになりました。

 このような状況下、「運動器の10年・日本協会」(旧;「運動器の10年」日本委員会)は、平成17年度から「学校における運動器検診体制の整備・充実モデル事業(以後モデル事業)」を開始しました。

 この事業は、児童・生徒における運動器の形態異常・機能不全を早期に発見し、健全な運動器の発育・発達に結びつけることを目的に、北海道、京都府、島根県など10地域で行われています。

 宮崎県は、平成19年度から宮崎大学医学部整形外科が中心となって、整形外科医師だけでなく、理学療法士や健康運動看護師(附属病院では宮大健康スポーツナースを病院内で認定)が一次検診に参加し、宮崎県内の小中学校の児童・生徒を対象に運動器の検診を実施しています。



 過去7年間に実施した小学生17,547名、中学生17,707名の運動器疾患推定罹患率は8.3~15.7%で1)、異常がみられた項目は脊柱変形・下肢変形が多く、その他に「しゃがめない」「バンザイができない」など、筋・骨格系の成長期にある子どもたちの「運動器」が十分に機能していないことが分かってきました。

 また、児童・生徒の中にはケガが完全に治らないままスポーツを継続する、治療後も痛みや違和感を抱いている子どもがいることも分かりました。

 子どもの運動器は未発達であるため、過度の運動や不適切な方法により「スポーツ障害」を引き起こす可能性があります。スポーツ傷害が悪化すると、運動を続けることが難しくなり、変形性関節症や脊椎症を発症し、成人になっても疼痛が残存することでロコモティブシンドロームへ移行する可能性があります2)。学校での検診は、時間的な制限がありますが、宮崎県では健康運動看護師等の活用により効率よく検診が行えています3)



 学校における健康診断の目的・役割は4)、家庭における健康観察を踏まえ、(1)学校生活を送るに当たり支障があるかどうかについて疾病をスクリーニングする、(2)学校における健康課題を明らかにして健康教育に役立てる、の2点であり、このことについて学校関係者や保護者の間で、共通の認識を持つことが重要です。

 全国のモデル事業では、各地域で運動器の形態異常・機能不全の実態を明らかにしていますが、運動器検診に対する学校医、学校関係者や保護者の認識も未だ不十分であり、健康教育の実施も今後の重要な課題です。

 厚生労働省は「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」の実現に向け、健康日本21(第2次)では、生活習慣の改善及び社会環境の整備に取り組んでいます。

 メタボリックシンドロームやロコモティブシンドロームは成人や高齢者だけの問題ではなく、子どもの頃から積極的に身体を動かし、健全な運動器の発育・発達とスポーツ傷害を予防することへの対応が必要です。

 前回、日本健康運動看護学会では、人間の運動を理解する上で、
(1)人は運動以外では発達し得ない生体機能がある
(2)人は運動でしか負わない生体リスクがある
 を基本概念とし、看護の専門性は、運動を健康レベルの向上に活かす手段としてその方法論、安全に適用する方法論を確立していくことにあることをお示ししました。

 子どもの発育・発達に大きく関与しているのは保護者であり、保護者に運動器検診の必要性を認識してもらうことは、予防だけでなく事後措置においても重要です。

 健康運動看護師は、学校保健と地域保健の境目のない"生涯にわたる健康づくり"対策において、家庭や地域、学校、医療施設など様々な場で健康教育や保健指導の役割を担うことができます。

 平成24年11月文部科学省「今後の健康診断の在り方等に関する検討会」は、運動器検診に法的強制力がなく、時間的制約、学校医が運動器検診に不慣れな点等から、側弯症の検診以外なされていないことを指摘するとともに、検診結果に基づいた健康教育の必要性を示しました。

 このことを受け、学校保健安全法施行規則の一部が改正され、平成28年度から「四肢の状態」としていた項目が「四肢の形態及び発育状態並びに運動器の機能の状態の注意する」と改められ、これにより学校において運動器の検診が実施されることとなります。

 健康日本21(第2次)では、「ロコモティブシンドローム」について平成34年度までに認知率80%を目標値としました。学校における運動器の検診が、子どもから高齢者に至るまで全ての国民が運動器の健康の重要性を認識するきっかけのひとつとなること、そして、子どもに身体を動かすことの楽しさと喜びを伝える場となるよう、看護師が健康運動看護師として活躍することを期待しています。

<文献>
1)山口奈美、帖佐悦男:学校運動器検診 宮崎県の取り組み、運動器リハビリテーション、26(2)、193、2015.
2)帖佐悦男:ロコモ対策 学童期からの取り組み、Jpn J Rehabil Med、51(2)。113-119、2014.
3)藤浦まなみ、鶴田来美、河原勝博他:健康スポーツナースを導入した宮崎方式学校運動器検診の有用性、日本臨床スポーツ医学会誌、22(4)、S118、2014.
4)文部科学省ホームページ:今後の健康診断の在り方等に関する検討会(平成25年12月)

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