オピニオン

No.5 「修羅場」を組織の学びに変える
―ケースメソッドがもたらす「多角的な視点」と「現場の改善」

保健師のスキルアップをめざす会

 会の活動は、17年に及びます。その中で、そもそもクレームが起こった原因の一部は業務内容や組織の対応に要因があることも多く、業務改善や組織改善を伴わなければクレームを予防することができないと気づいたのです。
 そして、私たちが導入したのがケースメソッドです。

想定外の出来事の解決には組織を分析する力が役立つ

 クレームは、いつどのような形で起こるか予測のつかない出来事であり、対応を振り返っても、同じような状況は再現されないことがほとんどです。そのため、あらゆる予想外のケースにも落ち着いて対応できるよう訓練をしておくことが必要です。
 また、クレームが発生する原因は、個人の専門的な能力向上だけでは解決できないことが多く、組織が持つ問題を分析し組織的な対応が必要となります。では、どうしたら組織の問題に気づくことができるでしょうか。

クレーム対応に有用なケースメソッド

 ケースメソッドでは、架空の事例を通じて「安全な環境下での修羅場体験」をシミュレーションします。さらに、グループやクラスメンバーの力を借りて不確実な状況の中で問題を見つけ出し、構造を分析し、解決策を考え抜く場を提供します。
 架空のケースについて考え抜いた問題の構造や具体的な解決策は、おのずと個人の問題だけではなく自組織の状況へと視点が転換されていきます。

ケースメソッドの肝となるケースの作成

 研修で取り扱うケースは、主催者と対話しながら作成しています。主催者の願いをケースに反映させることで、研修が単なる座学ではなく、組織の課題解決に直結するからです。

 主催者と話をしていくと、なぜ「クレーム対応研修」を取り上げたのか、その動機が見えてきます。さらに話を続けると、「組織内での共通認識を持つことが大切」「組織の中でもっと発言して欲しい」といった、参加者への要望も見えてきます。
 そのポイントをケースに盛り込みます。また、自分事として考え抜くためには、創作ケースといえども現場との整合性を図る必要があり、主催者とのケース作成が研修の肝となります。

 これまでに作成したケースは、「3歳児健康診査で発達障害が疑われる母子への支援場面」「児童虐待の疑いのある親子への支援場面」「アルコール依存の疑いがある家族への支援場面」「訪問看護師の支援場面」「介護支援専門員の支援場面」などで起こったクレーム事例です。

ケースメソッド教育のプロセスと大切な「学びの共同体」づくり

研修前

  • 個人予習:参加者は事前にケースを読み、各自で「なぜ問題が生じたのか」「どこに問題があるのか」「解決策」をまとめたうえで研修に参加してもらいます。

研修当日

  • グループ討論:小グループに分かれて、個人予習によって各自がどのようなことを考えてきたのか、自由に意見交換をします。自己紹介も兼ねます。
  • クラス討論:参加者全員が一堂に会して、講師のリーダーシップにより討論を行います。自分の意見はほんの一部だと認識し、他の人の意見を聞くことで視野が広がります。

* 講師の役割として「学びの共同体」づくりが重要です。「人とぶつかる勇気」「他者に対する礼儀や敬愛の心」「多くの立場を受け入れる度量」を、一人ひとりが心がけるクラスを作り上げていきます。


参考:高木晴夫「ケースメソッド教授法入門」(慶応義塾大学出版会)

 今では、嬉しいことにクレームを活用した研修も知名度があがり、静岡県内だけではなく、大阪府、群馬県、愛知県と足を延ばして研修を行ってきました。
 当初は保健師対象の研修でしたが、看護師、社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士といった、地域保健活動を担う専門職に広がっており、多職種連携が求められる現在の地域保健活動において、共通の言語を持つ機会となっています。

 参加者の声を、一部ご紹介します。

  • クレームがくると、イヤだなという思いがどうしても先立ってしまっていましたが、今日の研修を受けてもう少しできることがあるのかな、アセスメント等支援的な視点でとらえていくことができるといいなと思いました。
  • 業務内容上、クレームに対峙する場面が多いですが、クレーム対応をして終わりではなく、どこでどうすればこの問題が防げたか、どう対処すれば良かったかをふり返ることで、組織の力をあげることにつながることがわかりました。

 研修直後に受け取った「声」ではありますが、クレームを活用しようという意識と自分の組織での活用の意識も芽生えていることがわかります。

グループの活動へのお誘いと研修の問い合わせ

 最後に、クレーム研修を通じ、クレーム対応を適切に行うためのスキルとともに、専門職としての資質を向上させ、組織の成長につなげるお手伝いをしたいというのが私たち「保健師のスキルアップをめざす会」の願いです。これからも現場に役立つ研修、研究を進めながら、私たち自身も専門職としてスキルアップをめざしていきたいと考えています。

 趣旨にご賛同いただける方は、ぜひ一緒に活動をしてみませんか。クレーム対応研修のご相談はお気軽に下記までお問い合わせください。

連絡先:静岡県立大学看護学部 伊藤純子
E-Mail: junkoito@u-shizuoka-ken.ac.jp