健康運動看護師とは -看護職だからできる健康運動の実践指導-
鶴田 来美(宮崎大学医学部看護学科 地域・精神看護学講座教授)
No.5 健康運動看護師として、退院後の生活を支援する看護ケア
医療法人慶明会 けいめい記念病院 病棟看護師長
吉田 千代美
私が勤務する病院の地域包括ケア病棟は、転倒受傷による骨折術後のリハビリを目的とした入院や、内科的疾患の急性期治療から慢性期疾患と幅広く、約9割が後期高齢者です。認知症や運動器疾患を有する者も多いため転倒リスクが高いのが現状です。
リハビリを目的とした入院であっても、一日のリハビリの単位(時間)は制限があるため、リハビリ以外の時間は臥床している傾向がみられます。また、認知症を有する高齢者の場合、入院という生活環境の変化は、せん妄やBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の要因となります。
そこで、健康運動看護師養成講座で学習したことを入院中の看護ケアに活かすことができないだろうか、今後、健康運動看護師として、ADLの低下を予防するためにはどのようなケアを行うべきか、またリハビリの介入が困難な方にはどのようなサポートができるかについて、理学療法士、作業療法士や健康運動指導士の助言を得ながら病棟スタッフと検討を重ねてきました。そして、入院中の看護ケアの一環として、週3回、午後の時間帯に1時間のアクティビティケアを取り入れることにしました。
対象は、骨折術後の回復期リハビリテーションを受けている患者、ポート留置の者、カテーテル留置の者、認知症を有する者、麻痺を伴う者、車椅子離床が可能な者などで、看護師の目が行き届くよう6~7名の小集団で実施することにしました。
アクティビティの内容は、OVERボールやセラバンドを用い、椅子に座って行うストレッチや筋力トレーニングです。筋力トレーニングといっても、高齢者が自分で寝たり起きたり、立ったり座ったりできることを意識した程度のものです。音楽を流しリズムを取りながら、あるいは声を出しながら、心と身体で楽しむことができる環境づくりを行いました。
OVERボールを用いた上肢の運動
結果、週3回のケアの効果として、人と交わることで会話が増え、表情が豊かになりました。生活のリズムが整い、認知症の方の昼夜逆転の改善、不穏の軽減を認めることができました。運動の意義はこのような効果に加え、患者の"笑顔"でも確認することができました。また、病棟内では患者だけでなく家族との会話の機会も増えてきました。
運動に関する専門的な知識を得たことで、医師、理学療法士、作業療法士、栄養士、薬剤師、など、他職種との連携の輪が広がりました。
今後ますます地域包括ケアシステムの推進と医療の機能分化・強化が図られていく中で、看護師の関わり方は退院後の患者とその家族の生活に大きく影響します。住み慣れた地域での療養や生活が継続でき、患者が安心して退院できるよう支援していきたいと思います。
ふれあい看護体験の高校生と一緒に運動