オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.4 保健師の実践へのヒント(2)川内村における放射線専門保健師の活動報告

保健師の活動と放射線 研究班
折田 真紀子
長崎大学
経歴:
2010年3月
長崎大学医学部保健学科卒業
2010年4月
日本赤十字社成田赤十字病院
2011年4月
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻(修士課程)
2013年4月
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科放射線医療科学専攻(博士課程)
2014年5月
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻助教
2013年4月より長崎大学川内村復興推進拠点に常駐
 2011年3月に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、福島第一原発事故)以来、現在でも、周辺住民における慢性低線量被ばくによる健康への影響に関する関心は大きいと言えます。

 2013年4月、福島県双葉郡川内村と国立大学法人長崎大学は包括的連携協定を締結し、村内に長崎大学・川内村復興推進拠点を開設しました。筆者は、2013年4月から現在に至るまで同拠点で放射線と健康に関する保健活動を担当しています。

 福島県双葉郡川内村は、おおよそ総人口約3,000人、福島県浜通り地方、阿武隈高原中腹に位置しています。村は福島第一原子力発電所から20km~30km圏内に位置し、福島第一原発事故の影響を受け、川内村役場ごと福島県郡山市へ全村避難しました。その後、村内の空間線量が比較的に低かったこともあり、2012年1月に他の自治体にさきがけ「帰村宣言」を行い、同年3月に役場機能を村に戻し、復興を進めています。

 2015年7月現在、川内村への住民の帰村率は約6割で、2012年の帰村当初から比べ、帰村者は徐々に増えている状況です。その一方で、住民が帰村しない原因としては、教育・医療インフラ、日常生活の利便性などが考えられ、また放射線被ばくによる健康影響への懸念も挙げられています。

 長崎大学と福島県川内村は2013年4月20日、川内村の復興と活性化に向けた包括連携を締結し、村内に当大学のサテライト施設「長崎大学・川内村復興推進拠点」を開設しました。同拠点では、村役場と密接に連携しながら、土壌や食品などの放射性物質測定を通じた住民の安全・安心の担保、測定したデータを基にした放射線に関する相談事業の実施を行っています。

 事故以来、これまで一般の住民には全くなじみのなかった「マイクロシーベルト」、「ベクレル」、「内部被ばく」といった言葉が飛び交い、まさに情報洪水とパニックが起こりました。その後の時間の経過に伴って、福島県下のいたるところに空間線量計が設置され、さらに最近では個人線量計の普及が進んでいます。これによって住民は一人一人がそれぞれの「線量」という情報を持っていますが、その一方で、その線量をどのように解釈すればよいか、という点については、対策が後手に回っている状況です。そこで、「数値の解釈」という点を重視して、保健活動を展開してきました。

 拠点の活動の基本として、自宅やその周辺の空間線量率を測定したり、土壌や野菜等を持ち帰り、放射性物質の測定を行ったりしています。住民ヘは測定した結果を提示しながら、「数値の意味」についての説明を個々に行うことで、住民が日々の生活の中で持つ疑問点、不安に思う点に対応できます。「実際に自分たちが住んでいる土壌や食べ物の放射性物質の数値がわかれば、安心につながる。」と住民の方は話されます。

 一方で、2014年5月、住民(避難者も含む)が放射線被ばくと健康影響についてどのような認識を持っているかアンケート調査を実施しました。1)

 その結果、有効回答285名の内、85名(30%)が「震災後から現在までの放射線被ばくで急性放射線障害が起こると思うか。」という質問に「起こる・たぶん起こる」と答え、154名(54%)が「震災後から現在までの放射線被ばくで現在の子どもに健康影響があると思うか。」という質問に「起こる・たぶん起こる」と答え、140名(49%)が「震災後から現在までの放射線被ばくで将来生まれてくる子や孫に健康影響が起こると思うか。」という質問に「起こる・たぶん起こる」と答えました。

 また「空間線量が1時間あたり0.23マイクロシーベルト(年間の積算が1ミリシーベルトに値する線量で、年間1ミリシーベルトは平常時における放射線防護の基準として国際機関で勧告されています。)の場所に1年間住んだ場合、放射線被ばくによる健康影響が起こると思うか。」という質問に対して、「起こる・たぶん起こる」と答えた住民は107名(38%)でした。

 本調査の結果から、多くの専門機関から評価された住民の放射線被ばくによるリスクと比べ、住民の放射線被ばくによる健康影響への認識には大きなギャップがあることが明らかとなりました。震災から4年が経ちましたが、住民の放射線被ばくによる健康影響に関する認識は二極化しており、専門家から継続的に放射線健康リスクについて伝えていく必要があると考えられます。そのような中で、地元の行政機関と被ばく医療に関する専門家とが緊密な連携をとることで、効率的に放射線のリスクコミュニケーションができ、福島原発事故からの復興を進めていくができると考えています。

<参考文献>
1) Orita M, et al. Bipolarization of Risk Perception about the Health Effects of Radiation in Residents after the Accident at Fukushima Nuclear Power Plant. Plos One 10(6): e0129227, 2015.

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