オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.9 対象別協働実践報告(3) 精神・社会的弱者

保健師の活動と放射線 研究班
小林 真朝
聖路加国際大学看護学部公衆衛生看護学 准教授

経歴:
聖路加看護大学看護学部卒業、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士前期課程修了、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士後期課程修了、看護学博士。
看護師、保健師、日本公衆衛生学会認定専門家。
学部卒業後、行政保健師として勤務。聖路加看護大学助手、助教を経て、現職。

 目に見えず、理解しづらい「放射線」への不安を抱えながら生活を送ることは、多くの人々に先の見えないストレスを与えているといえます。

 災害による生活環境の変化や、経済的影響、風評被害などにより、住民にとって安全と安心は一体とは言えず、低レベル放射線の影響下において、自治体や専門家は科学的に「安全である」ことについてこれまでも住民へ丁寧に説明を行ってきていますが、それと住民にとっての「安心感」とにはまだギャップがあるように思われます。そのギャップを縮めるために、私たちは、「保健師の活動と放射線」について、災害時下の福島で活動する保健師との協働実践を行ってきました。連載のNo.7・No.8では、母子および高齢者に対する協働実践について報告をしました。

 今回は、精神障害者を対象に、既存の精神保健事業に組み込んで実施した放射線に関する協働実践について報告します。

 精神デイケア「日常生活での放射線との付き合い方を知ろう」

 ミニ講座は2013年12月に、「放射線との付き合い方」というテーマで、月1回の精神デイケアの中で行いました。

 前半は「食べ物の安全性を知ろう」と題して自家消費用作物検査の見学を行い、後半の「日常生活での放射線との付き合い方を知ろう」では座談会形式で、デイケア参加者の質問や不安について話をしました。スタッフは放射線防護の専門家や事業担当保健師、参加した住民は4名で、放射線への関心や不安の度合いは個人差がありました。

 実際に挙がった質問は、「薬の副作用でのどが渇くので、水を沢山飲んでしまう。他人より沢山飲んでいても、水道水は大丈夫なのか?」といった疾病の特性に関連することや、「いったい何を食べたらよいかが分からなくて、毎日毎食、食事に困ってしまう」「放射線は体に悪いのか?」「この地域の人は差別されないか?」といった不安も表出されました。

 住民メンバーの心配や不安に対して、放射線防護専門家や事業担当保健師は1つ1つ丁寧に取り上げて、メンバーと対話をしながら、放射線だけでなく食事や睡眠、運動など、日々の生活全体が大切であるということについて、一緒に確認をしました。また、放射線に関することについて、周囲に流れる情報をうのみにするのではなく、自分で知って、考えて、自分で決める、ということが大事であるという話をしました。

 終了後、参加者からは「専門家に直接心配ごとを聞けて良かった」「放射線や生活のことについて聞けて良かった」「(放射線について)心配するほうが体に良くないと思った」などの感想が語られました。

 不安が表出されにくい人々への支援
 精神疾患を抱えて生活する人々の普段の生活場面では、放射線への具体的な不安があまり出てきていませんでしたが、事業担当保健師は、参加メンバーが潜在的な不安を抱えていることを予測して、このミニ講座を企画・実施しました。実際にミニ講座において放射線をテーマに話し合ってみて、住民の具体的な支援ニーズを把握することが出来ました。

 今回の事業参加者は、生活に何らかの不安を抱えながら暮らしている人々であり、平時からストレスに対する脆弱性を有すると予測され得る対象集団であるともいえます。放射線の問題だけでなく生活上の不安も大きいため、生活に根差した話題について話すことで、住民が生活全体を統合的にとらえられるような工夫が重要であり、今後も継続的にこういった表出されにくい不安に対処していく必要があると考えられました。

 また、精神デイケア参加者以外の、地域で生活する精神障害者や精神疾患を抱える人々への支援をはじめ、精神疾患以外の障害や様々な疾病をもつ人々が、それぞれ特有の不安を抱えているであろうこと、また、それらが表出されにくいことを考慮し、健康弱者に対する長期的スパンの災害時支援についても考えていく必要があるということも分かりました。

 不安の軽減がすぐ安心感につながるという保証はありませんが、過度の不安は、正確な情報の理解を妨げ、生活の支障となりえるのです。住民と行政としての立場との間でジレンマを抱えることも多いのが保健師ですが、継続的な信頼関係のなかで住民に一番近いところで寄り添い、日々の生活の中の様々な健康課題に接している保健師こそ、住民が安心感を得るためにもっとも力を発揮できるのではないでしょうか。

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