No.1 健康運動看護師とは -看護職だからできる健康運動の実践指導-

しかし、運動やスポーツが両刃の剣と言われるように、国民の健康状態はさまざまであり、運動が良好な効果をもたらす場合と、健康傷害(障害)を引き起こしてしまう場合があります。
何らかの疾患を有している場合には、運動に関する専門的な知識と技術を持つ運動指導者に加えて、健康状態(医療)に関する専門的な知識と技術を持つ医療従事者のサポートが必要となります。
治療の一環として運動を実践する際は、医師によるメディカルチェックを受けることが望ましいとされていますが、医師が対応できる範囲は限られています。
フィットネスクラブのような運動専門施設を利用する集団の4割強は健康上のリスクを有しているとの報告もあり、国民が安全かつ効果的に運動を実践していくには、専門職が日々の健康状態を把握しながら健康傷害を予防し、万が一の怪我や事故において適切な処置を施す必要があります。その役割を担えるのが看護職と言えます。
看護職は、健康状態をアセスメントすることができるだけでなく、さまざまな病態を理解していることから、様態の変化に気づき、緊急時に対応することもできます。また、安静・運動不足の連続がもたらす種々の悪影響(骨・筋肉・循環系へのデメリット)を生じさせないことが重要です。
しかし、免許取得のための基礎教育では、運動や運動指導に関する内容はほとんど含まれていません。もし看護職が運動に関する知識や技術を強化すれば、運動指導に関わる多職種(理学療法士や作業療法士、心臓リハビリテーション指導士、健康運動指導士、スポーツトレーナー、スポーツ指導者など)と医療をより密接につなぐことができます。
そこで、そのような役割を担う看護職を育成するため、2010年設立の日本健康運動看護学会において、健康運動看護師(通称:健康スポーツナース)の養成に着手しました。
人間は生きている限り身体活動(運動)を続けています。その場合、健康を維持する運動は痛みや怪我などの傷害そのものによって安直に妨げられるべきではなく、むしろ、無理のない範囲で積極的に運動する方法を提言することが看護職の今日的役割と考えています。
(1)人は運動以外では発達し得ない生体機能がある
(2)人は運動でしか負わない生体リスクがある
を基本概念としています。
この2点を前提としたとき、看護の専門性は、運動を健康レベルの向上に活かす手段としてその方法論、安全に適用する方法論を確立していくことにあると考えます。
運動は治療、健康回復、自己実現等を目的として子どもから高齢者に至るまで幅広く実践されており、全ての人々が、運動を安全かつ健康に実践できる方向づけを行うとともに、傷害を予防し、万が一の怪我や事故において適切な処置を施すことができるよう、実習を含めて20時間の養成講座を開講しています。
そして、試験に合格した者を健康運動看護師として認定しており、2015年8月現在、96名が健康運動看護師として認定されています。

2015年8月2日(日)健康運動看護師養成講座の講義風景
講師:筑波大学大学院人間総合科学研究科 教授 田中 喜代次
日本健康運動看護学会
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