オピニオン/保健指導あれこれ
保健師の活動と放射線について

No.10 対象別協働実践報告(4) 学校との協働実践

保健師の活動と放射線 研究班
三森 寧子
聖路加国際大学看護学部 助教
経歴:
聖路加看護大学看護学部卒業、聖路加看護大学大学院看護学研究科博士前期課程修了、千葉大学大学院教育学研究科修士課程修了。

学部卒業後、病棟看護師、養護教諭として勤務。2012年4月より現職。
主に学校保健、養護教諭養成に関することをテーマに研究活動に取り組んでいる。

 学校は、児童・生徒が一日の大半を過ごす日常生活の場です。また、地域にとっては、投票所や地域のお祭りなど住民が集まる場にも使われ、地震など災害時の地域住民の避難場所としての機能も期待されています。学校は地域における要ともいえるのではないでしょうか。

 A市の保健師は、地域住民すべての健康を支援する専門職者として、学校保健と地域保健の定期的な連絡会を開催し、子どもの健康に関わる課題の共有と支援に取り組んでいます。学校には唯一の健康の専門職である養護教諭がいます。私たちは、その保健師と養護教諭の連絡会に出席しました。

 学校保健と地域保健連絡会

 A市では、年に2回、「学校保健と地域保健連絡会」が行われています。今回の出席者は、地区の担当保健師2名、小学校養護教諭3名と中学校養護教諭1名、そして会場となっている地区の公民館館長1名でした。

 前半は、定例の内容として、養護教諭より各学校の児童生徒の健康診断の結果、保健師より地区の事業に関する取り組みの報告があり、それぞれが専門職の立場で子どもの健康について話し合われました。その後、放射線の基本的なこと、食べ物や水についてまとめた資料とリーフレットを配布し、放射線防護に関する対話の時間をもちました。

 養護教諭が語った学校の様子
 専門職の集まりでしたので、これまでの住民の方々に対するミニ講座(No7~9)とは形式を変え、養護教諭の先生たちにまず放射線に対する思いについて聞いてみました。

 保健師が「放射線について、どうですか?」と促すと、震災当時からこれまでの経過を一人ひとりの養護教諭が次々と生々しい体験を鮮明に語り始め、お互いに共感し、確認し合う様子が見られました。堰を切ったように、学校での子どもや保護者のこと、教職員の様子が話題に上がり、各学校の状況や抱えている課題を知ることができました。

 具体的な内容としては、以下のようなことが語られました。

毎日欠かさず、学校の敷地の空間線量を測定し、校内の掲示や教育委員会への報告を行っていること。
保護者を意識しながら何事も放射線の測定を行い、運動会や遠足などの学校行事を計画していること。
以前は子どもがおこなっていたプール清掃や草むしりなどを、今は教職員と保護者がやっていること。
生活科の畑仕事は再開したが、収穫したものは検査し、保護者の同意を得てから調理実習に使用していること。
給食に関する保護者の要望が大きく、食材の産地の情報公開を求められるなど、震災後の1年はアレルギー以外の理由で、牛乳を飲まない子どもが多かったこと。
保護者が抱えている不安が子どもの肥満やストレスなどの子どもの健康問題につながっていること。
 震災・原子力事故を境に教育活動に変化が強いられている状況が今も続いていることで、養護教諭は子どもの心身の健康や成長発達への影響を心配していました。

 一方で、子どもを支える養護教諭や教員自身が抱えている放射線についての不安や放射線教育の実施への戸惑いについて、次のように語っていました。

放射線教育については、理科の教員が教えたり、担任がおこなったりしているが、実際は何をどう教えたらよいか戸惑っていること。
震災後は講演会や放射線の専門家からの話など教員自身は研修を受けているが、実際の生活においてどのように考えたらよいかわからないこと。
県の教育委員会の計画として放射線教育の実施をするように決められているが、理解しているかどうか自信がないこと。
 これらの現状や課題を聞いていく中で、配布した資料を用いながら、放射線防護の専門家が疑問に答えたり、放射線防護についての考え方を伝えたりしました。

 地域住民の健康を守るために学校と協働していくこと
 保健師たちは、養護教諭の先生たちが語った震災に関連した学校や学校生活の様子について、知らないことばかりだったそうです。学校の教職員が子ども、保護者への対応に不安を抱いていたことに、「地域のことをわかっているつもりだった」「もっと早く放射線について話し合えていればよかった」と、そして被災者であり支援者である教員が、保健師と同じ立場であることへの気付きを語っていました。

 養護教諭の先生たちの感想からも、「放射線について他の人が考えていることや、専門家の意見や数値に基づいた分析を聞けて貴重な機会だった。」「放射線に関して、理科や学級担任にまかせてしまっていたので、養護教諭も出来ることを考えて、かかわっていきたい」などが聞かれ、各学校一人しかいない養護教諭だからこそ、集まって話し合うことが大切であることを再確認していました。

 保健師はさらに、被災地で生きていく子どものためにも、保護者や学校向けの放射線教育が必要であることを改めて強く認識していました。また、今回の連絡会で放射線防護の専門家と共に、根拠ある知識や考え方を聞きながら話し合えたこと、現状やお互いの想いを共有できたことに、協働の意義を見出し、私たちとの継続的な関わりも望んでいました。

 A市の保健師は、「地域を支える」という高い意識と企画力をもって連携していましたが、特に放射線に関しては、さらなる協働のニーズが示されたように思います。災害時だけではなく、平常時からこのような連携体制を整えておくことこそ、危機管理の一環ではないでしょうか。

 子どもの健やかな成長は、すべての人が共通して抱いている願いです。これからの地域住民のことを踏まえ、保健、医療、福祉、教育あらゆる立場の専門家が協働していく必要性があります。その協働の架け橋としても保健師の活躍が期待されているといえます。

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