トピックス・レポート

Vol.3 職場の疲労カウンセリングとは?
現場ニーズに基づく「オーダーメイド疲労対策」の重要性

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)
久保智英

現場の実態を置き去りにした「疲労対策」の限界

 読者の皆様に質問です。
「職場ごとの特徴や、そこで働く人々の働き方の実態を踏まえない疲労対策はあり得るでしょうか?」

 わたしの考えはこうです。
「無くもないけど、現場ニーズに基づかない対策なのでその効果は薄い」

 たとえば、長時間労働が横行している職場や交代勤務の業種の方に「夜、睡眠をしっかりと取りましょう!」という対策が、どれほど役に立つでしょうか。
 読者の方々は産業保健スタッフが多いと思いますので、私の答えに共感してもらえるのではないかと思います。

研究の「一般性」よりも現場の「個別性」を重視する

 私も以前は論文に書いてあること、学会で偉い先生が述べていることが全てだと思っていました。しかし、職場で疲労研究を進めるうちに次のような疑問を抱くようになりました。
「調査期間中は疲労回復に望ましい働き方に変えてくれるけど、調査後には元に戻ってない?」と。

 研究者という職業柄、どうしても実際に働いている人よりも論文や専門書に書いてあることに目が向いてしまうこともありますが、私が目指しているのは研究で社会をより良いカタチにしていくことです。そのような意味で、従来の「誰にでも通用する」一般性を狙った疲労対策や、その研究では効果が薄いことに気づきました。

 「それでは実際にどうしたら良いか」と悩みぬいた挙句、当たり前のことですが、現場のニーズに基づいた疲労対策こそが肝要である、という結論に至ったのです。おそらく純粋科学の分野を専門とする方からは邪道だと思われるかもしれません。しかし、対策を重視する産業疲労研究では、学術的な一般化よりも、個別現場の実装を重視するアプローチが王道なのです。

オーダーメイド型対策「職場の疲労カウンセリング」の進め方

 今回ご紹介したいのが職場の特性に応じたオーダーメイドの疲労対策「職場の疲労カウンセリング」という手法です。硬い印象を与える名称ですが、行うことはとてもシンプルです。

 職場の安全衛生委員会などで、産業保健スタッフや人事労務の方が、①従業員の声を聴くリスニング、②対策を話し合うダイアローグ、③効果の見える化のチェックの3つを行うことです。
 ③はハードルが高いという方は、①あるいは②だけでも実践してみてください。

 以下、3つのプロセスの詳しい説明になります。

① Listening:従業員の声を聴く

 疲労やストレスの問題、職場改善についての従業員のニーズを把握し、その職場特有の疲労問題を抽出するプロセスです。具体的には、数名から数十名の従業員から職場改善のニーズを聞き取るために対面でのヒアリングや、匿名でのWEBアンケート(WEB意見箱)を活用する方法が挙げられます。

② Dialogue:対策を話し合う

 抽出された疲労要因への対策について、現場スタッフと職場の疲労カウンセリングを実施する者(たとえば、産業保健スタッフ、人事労務担当者等)が対話により協議し、課題と改善策を検討・決定します。対話を行うための場の例としては職場の安全衛生委員会等が想定されます。

③ Check:効果の見える化

 実施した対策の効果を検証し、職場へフィードバックしましょう。評価には、RECORDsポータルサイトで公開されている無料の測定ツールが活用できます。
 職場の産業保健スタッフや人事労務担当者が独自でデータの集計・解析を実施することが負担に感じる場合は、まずはプロセス①や②まで実践するだけでも十分でしょう。

【事例紹介】現場の声から生まれた疲労対策の成功例

 職場の疲労カウンセリングを安全衛生委員会で実施した具体例を2つほど、ご紹介します。

防災備品の適正配置による心理的・身体的安全の確保

 WEB意見箱に匿名で「消防訓練の際、派遣職員の方の防災ヘルメットがないことに気づきました」という意見がありました。それを安全衛生委員会の議題に上げ、予備のヘルメットがあったので、それを配布したり、誰でも使用できる場所にヘルメットを設置した事例。

「食」のインフラ整備による疲労蓄積の防止

 同じく、WEB意見箱に「職場の中に食堂もなく、山の上にあり、周りにコンビニもないので困っている」という意見がありました。このため導入費が無料で、かつ金銭のやり取りが必要ない電子マネーで購入できるオフィスコンビニを見つけ導入した事例。

 いずれの事例も、大きなコストはかかっていません。従業員のニーズをうまくとらえて職場改善に結びつけた事例だと思います。小さなこと1つでも従業員のニーズに基づいた対策を進めることで職場の雰囲気は変わるはずです。

 われわれRECORDsでは実践ガイドも作成していますので、そちらを参考にして実施できることから実践し、ぜひ、皆さんの職場でも一歩踏み出してみませんか?

「ガイド」はRECORDsポータルサイトでダウンロードできます


 私たちRECORDs(過労死等防止調査研究センター)は、ポータルサイト「健康な働き方に向けて」で、研究成果の紹介、国内外の最新研究動向、産業保健の現場で活用できるツール、制度に関する情報など、幅広いコンテンツを発信しています。毎年3月にはシンポジウムを開催していますので、ぜひ、ご参加ください。


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関連リンク

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[保健指導リソースガイド編集部]