トピックス・レポート

Vol.5 「疲れやすさ」に関わる体力指標:全身持久力

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)
松尾知明

過労対策における「体力」

 過労対策としてまず重要となるのは、経営陣や管理職の意識改革と、それを基盤とした職場環境の改善です。

 ハラスメントや過度な長時間労働を防ぐためには、職場の環境づくりや雰囲気づくりを優先的に進めることが求められます。一方で、過労を引き金とする脳・心臓疾患や精神疾患の発症には、こうした環境要因(外的要因)の影響を受ける労働者自身の特性(内的要因)も関係します。
 同程度のストレスが掛かった場合でも、その反応は個々人で異なりますし、同一個人であっても、時期によって内的要因の状況は変化します。

 過労対策において、「体力」は重要な個人特性の一つとなります。

全身持久力

 一概に体力といっても筋力や敏捷性、柔軟性など評価すべき項目は多様です。しかし、それらの中でも最も代表的であり、労働者の健康に強く関わる体力は「全身持久力」だと言えます。

 全身持久力は、身体の多くの器官が相互的に作用するものであるため、"全身"が付けられますが、心臓や肺による酸素摂取運搬能の関与が強いため、「心肺持久力」とも呼ばれます。全身持久力は「活発な身体活動を維持するための能力」であり、「疲れやすさ」の指標でもあります。労働者の健康を考えるうえで極めて重要な体力です。

全身持久力と医学論文

 米国心臓協会(AHA)は2016年に発出した声明で、「重要な健康指標である全身持久力を定期検査の項目に入れるべきではないか」と問題提起しました[1]。2025年には、著名な研究誌が全身持久力の特集[2]を組み、疾病予防に全身持久力を活用する必要性を改めて唱えました。

 学術界がこういった主張を繰り返すのは、全身持久力と病気との強固な関係が多くの研究論文で示されているためです。特に有名なのが、さまざまなリスクファクター(高血圧、喫煙、糖尿病など)の中で死亡リスクへの影響が最も強かったのは全身持久力であったことを示した論文[3]で、医学分野のトップジャーナルに掲載され、話題となりました。

最大酸素摂取量

 全身持久力を評価する際のゴールドスタンダード(基準となる測定値)は「最大酸素摂取量」の測定です。「V()O2max(ブイドットオーツーマックス)」という呼び名でも知られています。この数値が高いほど「活発な身体活動を維持するための能力」が高く、「疲れにくい」ということになります。

 V()O2maxの評価では、ランニングマシンや呼吸代謝測定装置などの専用機器を用いた運動負荷試験が行われます。運動強度を徐々に高めていき、心拍数、呼吸交換比、呼気酸素濃度、自覚的疲労感など複数の指標をモニターします。対象者は疲労困憊に至るまで運動を継続する必要があります。
 この測定法は対象者に高強度運動を求めるため事故のリスクがありますし、指標の見方には検者の技術が必要となりますので、測定が行える場所は一部の病院や研究機関などに限られます。

簡便評価法

 学校では、20mシャトルランなど、V()O2max測定の代替法を用いて児童・生徒の全身持久力を評価しています。私たち労働安全衛生総合研究所では、労働者の全身持久力を簡便に評価する方法を開発する研究を行い、その成果をウェブサイト で公開しています。

 全身持久力簡易評価サイト では、数問の質問に回答するだけで自身の全身持久力の目安値を知れる質問票や、体力テストをナビゲートする動画を提供しておりますので、ぜひご利用ください。

 併せてこちらの関連情報もぜひご覧ください。

RECORDsウェブサイト体力関連情報
高年齢労働者の安全衛生対策について(厚労省)

参考文献
[1] Ross R et al. Importance of Assessing Cardiorespiratory Fitness in Clinical Practice: A Case for Fitness as a Clinical Vital Sign: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2016;134:e653-e699.
[2] Kaminsky LA et al. 2023 update: The importance of cardiorespiratory fitness in the United States. Progress in Cardiovascular Diseases. 2024;83:3-9.
[3] Myers J et al. Exercise capacity and mortality among men referred for exercise testing. The New England Journal of Medicine. 2002; 346:793-801.


 私たちRECORDs(過労死等防止調査研究センター)は、ポータルサイト「健康な働き方に向けて」で、研究成果の紹介、国内外の最新研究動向、産業保健の現場で活用できるツール、制度に関する情報など、幅広いコンテンツを発信しています。毎年3月にはシンポジウムを開催していますので、ぜひ、ご参加ください。

令和8年度 労働安全衛生総合研究所 一般公開
「働く人の健康に関する研究施設公開(登戸地区) ー大人のまなび時間ー」

【日 時】
令和8年7月9日(木)
・午前:第一部(オンライン講演会/定員200名程) 10:00~12:00
・午後:第二部(オンサイト施設公開/定員80名程) 13:00~16:30

【参加申し込み】
6月上旬開始予定

【詳しくはこちら】
令和8年度一般公開のお知らせ(登戸地区) | 労働安全衛生総合研究所


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関連リンク

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[保健指導リソースガイド編集部]