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RSウイルス、抗体薬の普及に高い壁 ~定期接種化へ、制度整備が急務~

 RSウイルスは2歳までにほぼすべての乳幼児が感染するとされ、重症化すると入院や集中治療を余儀なくされる場合もある。2026年4月、母子免疫ワクチンが定期接種に組み込まれた。しかし、同じRSウイルスへの予防薬で、重症化を防ぐ効果のある抗体薬「ベイフォータス」の定期接種化は実現していない。川崎医科大学小児科学の中野貴司特任教授に現状と課題を聞いた。

 ◇2歳までに全員感染、重症化も

 RSウイルスは風邪の原因となるウイルスの一つで、せきやくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染と、ウイルスが付着した手や物を介した接触感染によって広がる。生後1歳までに50%以上、2歳までにはほぼすべての乳幼児が感染するとされており、日本では毎年12万~14万人の2歳未満の子どもがRSウイルス感染症と診断され、約3万人が入院している。

中野貴司氏

中野貴司氏

 多くの場合は鼻水や発熱などの軽いかぜ症状で回復するが、乳幼児が感染すると気管支炎や肺炎などを起こし、重症化することがある。乳幼児がかかる肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%はRSウイルスが原因とされており、最重症例では酸素投与や人工呼吸などの集中治療が必要となる。脳炎や脳症を合併して後遺症が残るケースや、突然死との関連も指摘されている。特に早産で生まれた赤ちゃんのほか、先天性心疾患や慢性肺疾患、免疫不全などの基礎疾患を持つ乳幼児は重症化しやすく、入院治療が必要になるケースも少なくない。

 流行時期は年や地域によって異なり、近年は季節を問わず発生が報告されている。抗インフルエンザウイルス薬のような病原体特異的な治療薬はなく、発症した場合は症状を和らげる対症療法が基本となる。

 ◇1回接種で長期間効果持続

 RSウイルス感染症を予防する薬として2024年に発売されたのが抗体薬「ベイフォータス」だ。体の外部で作られた抗体(病原体を攻撃するタンパク質)を直接注射することで、RSウイルスの感染や重症化を防ぐ。

 従来の抗体薬「シナジス」は流行期に毎月の接種が必要だったが、ベイフォータスは1回の注射で効果が長期間続く。RSウイルスを無力化する力の目安である中和活性もシナジスより高く、投与後の効果の立ち上がりも早いとされる。中野特任教授は「臨床的な有効性が高いことを期待させるものだ」と話す。健康な赤ちゃんを対象とした臨床試験では、単回投与から5カ月間でRSウイルスによる入院・受診リスクが74.5%減少した。

 一方、同じく26年4月から定期接種が始まった母子免疫ワクチンは妊娠中の母親に接種し、胎盤経由で胎児に抗体を移行させる仕組みで、投与対象と受益者が異なる。抗体の移行量や持続期間には個人差もあり、早産児では移行が十分でない場合もある。

 ◇高額な自己負担がネック

 ベイフォータスは現在、定期接種の対象には含まれておらず、早産や一部の基礎疾患を持つ子どもは保険適用の対象となるが、健康な乳幼児への接種は保険外の自費診療となる。任意接種の場合、少なくとも数十万円かかり、これだけの自己負担をして任意で接種する人はほとんどいないのが現状だ。

健康な正期産児は保険給付の対象外のため、現状では接種する子どもはほとんどいない。

健康な正期産児は保険給付の対象外のため、現状では接種する子どもはほとんどいない。

 問題は費用だけではない。日本でRSウイルス感染症により入院する子どもの約9割は基礎疾患のない正期産児とされており、大多数は保険適用の対象とならない。接種費用の助成を行っている自治体もあるが、中野特任教授は「公費助成を行っている自治体も多くなく、出生数に対するカバー率は非常に低い。経済的な状況や居住地によって、病気から子どもを守る手段に差がある現状は、望ましいものではない」と指摘する。

 先進7カ国(G7)では、母子免疫ワクチンと抗体薬の両方の選択肢が整備されている国がほとんどで、子どもの状況に応じて使い分けられている。日本では現在、ベイフォータスの定期接種化に向けてワクチン基本方針部会で検討が進められており、専門家からは肯定的な見解も示されている。しかし、定期接種化には予防接種法の改正が必須とされており、実現には時間がかかる見通しだ。(江川剛正)



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[保健指導リソースガイド編集部]