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クレームを活用した保健師のスキルアップ研修


(2017/02/10)
No.1 「保健師のスキルアップをめざす会」でなぜ「クレーム」を取り上げたか?
 クレームとは、「住民及び利用者が直接唱える異議・申し立ての言動で、要求やその要求の正当性を主張すること」です。近年、住民の権利意識の向上からか、行政機関や保健分野においてもクレームが増えていると言われています。私たち「保健師のスキルアップをめざす会」は、保健師活動の現場で困っていることを取り上げ、現場に役に立つ研究を継続したいという意向で、クレームを取り上げました。


 研究会を発足した2008年当時、保健分野の現場が困っているにもかかわらず、クレームに関する研究はほとんどありませんでした。そこで、私たちは実態調査から始めました。2009年に、静岡県内で協力の得られた市町保健センターにおいて母子保健に従事する保健師を対象として、市町におけるクレームの実態と保健師の受け止めについて、郵送による質問紙調査を実施しました。

 その結果は、保健師ジャーナル2012年vol.68.No.52に掲載されています。

 研究を進める中で、クレームに対応した保健師は、クレームを業務の改善や自分の成長につながる住民や利用者の貴重な意見として前向きにとらえてはいるものの、精神的にダメージが大きいことが明らかになり、クレーム対応の研修や、職場としての体制の構築が必要であると実感しました。

 保健師がクレーム対応に関する研修を受けることで、精神的なダメージが軽減し、住民や利用者への対応能力の向上が期待できると考え、研修会の実施やテキストの作成等を行いながら保健師のクレーム対応に特化した研修プログラムの開発の研究を今日まで継続しています。メンバーは、入れ替わりもありましたが、現在は、静岡県立大学の深江久代、杉山眞澄、聖隷クリストファー大学の鈴木知代、伊藤純子、静岡県保健師の山本愛の5名です。

 クレームは一般的に、「いやなもの、避けたいもの」と否定的な捉え方をしがちですが、次のようなメリットもあると考えています。

 1.保健師の援助技術の向上に繋がる

 クレームは、対応する人の援助技術の未熟さから起こることがあります。どのような対応がクレームにつながったかを振り返ることにより、対応方法の弱点が見えてきます。また、どのように対応するとよかったかを考えることで、相手の気持ちに寄り添い、ニーズを把握し、どうしていくとよいかを相手の方と一緒になって考えることが必要であると理解する機会になると考えています。

 また、対人援助職としての技術を修得している保健師でも、クレームは突発的に起こるため、準備ができず、防衛的になる傾向があります。クレームを受け止める技を持つことで、問題に向き合い解決に結びつけることができると考えています。

 2.職場の業務改善、組織力の向上に繋がる

 クレームは個人の援助技術によるものだけでなく、事業の運営方法や制度・体制など組織が提供するサービスに関するものも多くあります。クレームとなった原因を検討して、より利用者のニーズに沿った対応をしていくことで、業務改善につなげていく機会となります。また、クレーム対応方法を組織で検討して標準化(マニュアル化、知識の共有)を図ることで、スタッフ全員のクレーム対応に対する知識や意識を高め、組織の質の向上に繋がると考えます。

 3.支援が必要な利用者の介入の契機となる

 保健福祉医療の現場で起こるクレームは、一般企業におけるものとは異なり、申し立て者の抱えるなんらかのSOSのサインであることも多いと考えます。クレームを申し立てた方の背景を十分に吟味し、支援が必要であると判断される場合は、「介入の契機」として捉え、できる限りの対応をすることで、クレームがプラス評価に転じると考えています。

 クレーム対応に必要な判断・技術・態度は、保健師活動に求められる能力と重なります。私たち研究会は、クレーム対応研修を通して、保健従事者の力量の向上と、成長へのお手伝いをしていきたいと考えています。また、今後はクレームに強い組織づくりについても研究を進めていきたいと考えています。

■執筆者/深江久代
静岡県立大学看護学部(公衆衛生看護学)教授

(経歴)
 千葉大学教育学部特別教化看護教員養成課程卒業後、静岡県立厚生保育専門学校保健学科を卒業し、静岡県駿東郡清水町の保健婦となる。その後静岡県の保健婦に転職し富士保健所、沼津保健所、厚生保育専門学校教育主事等を経て、静岡県立大学短期大学部看護学科助教授、教授となる。2016年10月より現職。

 「保健専門職のクレーム対応研修プログラムの共同開発」と「難病患者の支援のための地域ケアシステム形成と機能化の要件」の研究に取り組んでいる。