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孤独・孤立と生活習慣病―健康には社会的接点が不可欠!

jpald_M_logo150.png  一般社団法人日本生活習慣病予防協会では、新型コロナウイルス感染症の拡大(コロナ禍)に対して、「トピックス・オピニオンー新型コロナ関連」として、当会役員による情報発信を行っています。
 今回、当協会副理事長 和田 高士先生による「孤独・孤立と生活習慣病」をご紹介致します。
 「孤独・孤立」は、当協会が標榜する健康習慣である一無、二少、三多(無煙・禁煙、少食、少酒、多動、多休、多接)の「多接」(多くの人、事、物に接して創造的な生活をする)の対極にあり、「多接」を妨げる状態です。今、コロナ禍にあって、誰でもが「孤独・孤立」に陥りやすい状況にあります。
 当協会の本年度の「全国生活習慣病予防月間」(2022年2月開催)の強化テーマは「多接」です。本年8月にはスローガン川柳募集(最優秀賞5万円)を開始致します。
 「全国生活習慣病予防月間2022」では、公開市民講演会の開催、啓発ポスターとリーフレットを公開致します。
 当協会の活動が、皆様やご家族、あるいは職場で、また、全国の健康増進事業に携わられている方々の健康啓発にお役立ていただけることを願っております。  
孤独・孤立と生活習慣病

和田 高士
東京慈恵会医科大学大学院健康科学 教授
日本生活習慣病予防協会 副理事長


 現在、未婚、離婚、独居、引きこもりの増加、さらに新型コロナウイルスの影響によってテレワークという新たな働き方が導入され、人々や物とのつながりが疎遠となる状況が深刻化しています。コロナ禍での生活上の先行き不安や、コロナ解雇・雇い止めで仕事を失う事例も増えており、誰もが孤立しやすい状況に直面しています。

 急性心筋梗塞で入院した高齢男女を対象に、見舞いといったサポートのない人はサポートのある人に比較して、6ヵ月後の死亡率が2.9倍増加していたという報告1があります。しかしいまや、コロナ禍で面会禁止となっている病院も少なくありません。

 ここでのキーワードは「孤独・孤立」です。わが国においても、内閣官房に、孤独・孤立対策担当室が設置され、英国に続き、世界で2例目の孤独・孤立対策担当大臣が2021年2月に誕生しました。

孤独・孤立と一無、二少、三多

 生活習慣病といえば、不適切な食事や運動不足が主として起因して発症する病気という概念でした。しかしながら孤独・孤立という新たな問題も生活習慣病発症には無視できません。ブレスローの7つの健康習慣2など、多くの健康スローガンがありますが、いずれも喫煙、飲酒、肥満対策といったものばかりで、孤独・孤立対策を含めたものは唯一、この日本生活習慣病予防協会の「一無、二少、三多」という健康標語です。

 一無=無煙(タバコを吸わない)、二少=少食・少酒、三多=多動、多休、多接という6つの健康習慣です。「多接」とは多くの人、事柄、物に接して、創造的な生活を行うことで、孤独・孤立を遠ざけることも重要であることを唱えてきました。

 仕事や趣味でやりがいを見つけたり、家族との団らんや人との交流で、日々を楽しく過ごすことが心身に良い刺激を与え、生きる活力となります。

 「孤立・孤独」は、「多接」の妨げる状態です。人は社会的接点が不可欠です。

 一無、二少、三多とは?
 全国生活習慣病予防月間2016「多接」

孤独感と生活習慣病

 最近、孤独感は2型糖尿病発症の有意なリスク因子である報告が英国で発表されました3。この研究では、糖尿病でない4,112人を2006~2017年にわたり追跡したところ、264人が新たに2型糖尿病を発症しました。2型糖尿病発症の既知のリスク因子(年齢、性別、BMI、民族、喫煙・飲酒・身体活動習慣、経済状態、HbA1c、高血圧・心血管疾患の既往)に加え、うつ症状や独居、社会的孤立の影響を統計学的に調整してもなお、孤独感の強いことが2型糖尿病発症を41%増やしていたことがわかりました。

 ニュース記事:糖尿病リソースガイド(2020年12月23日)

 また、「付き合いのある知り合いが多い人」のほうが「少ない人」よりも、2型糖尿病の発症リスクが低いという報告があります4。オランダの地域住民2,861人を対象としたこの研究では、友人が一人少なく毎に、2型糖尿病(成人で発症する糖尿病)の発症は、女性で12%、男性で10%高くなるという結果でした。とりわけ一人暮らしの男性は、新規に2型糖尿病が発症する確率がそうでない人に比べ84%高いということが明らかになりました。

 ニュース記事:Excite ニュース(2018年1月30日)

 孤独感を抱えている人や社会的に孤立した人は、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、あるいは脳卒中のリスクが高いことも報告されています5

 この報告は、過去の研究論文のデータを統合して検討するメタ解析という手法で行われました。虚血性心疾患に関する11報と、脳卒中に関する8報の研究論文のメタ解析の結果、社会的に孤立している人は虚血性心疾患のリスクが29%高く、脳卒中のリスクは32%高いことが示されました。 

 孤独感は、健康や心臓に関連する生理的プロセスに直接的な影響を及ぼすと言われています。血圧を上昇させ、炎症を亢進させ、動脈硬化や心筋梗塞のリスクが上昇するためと考えられています。

孤独感への対策

 現代社会では、人と人の関係が希薄化していると言われます。さらにこのコロナ禍ではテレワークという新たな労働形態にシフトしています。そのため、周りにすぐに相談できる人がいない、契約先と容易に面会できない、顧客と接することができないなど、孤立、孤独感が急速に立ち込めてきました。

 米マイクロソフトが2021年1月に日本を含む世界31カ国の3万1千人超を対象に調査した報道資料では、就業日に孤独感を味わっている割合は、世界平均が27%であるのに対し、日本の労働者は35%と高いことが報告されています。また、就業日に疲労感を感じている人は、世界平均が39%で日本人労働者は48%、ストレスを感じているのは同順に42%、45%とのことでした。

 日本マイクロソフト(株)ニュース(2021年3月23日)

 孤独は主観的なものですが、孤立は英国の社会学者のピーター・タウンゼントによる「家族やコミュニティとほとんど接触がない」との定義がよく用いられ、客観的なものと言われています。孤立が孤独感を引き起こすため、孤独と孤立は切り離して考えることはできません。

 孤独感を募らせやすい社会構造変化に対応して、どうやって孤独感を軽減していくかは、心身の健康増進を考えるうえで大切なテーマとなります。そのためには、多くの人、事柄、物に接して、これらとのつながりを形成していくことが重要となります。ここでポイントとなるのは、実際にどれだけ孤立しているかではなく、どれだけ孤独感を抱いているかが健康度に影響している点です。

 大勢の人に囲まれている人であっても、当人が孤独感を抱いていれば、その人は孤独ということになります。逆に一人暮らししている人であっても、遠方の友人が心の支えになっているなら、その人は孤独ではないことになります。心を支えてくれるのは人とはかぎらず、ペットであっても、とにかく孤独感を感じないことが大切になります。

 解決策は、年齢・世代、性別、考え方などの個人差など多様のためにこれはというものはありません。しかし、冒頭で述べた、内閣官房の孤独・孤立対策担当室も、社会としてはいかに孤立を避け孤独感を低減させるかの対策を練っています。また孤立・孤独対策として、相談先を紹介しています。有効に活用したいものです。

 内閣官房 孤独・孤立で悩まれている方へ ~相談先一覧~
 孤立・孤独(生活習慣病とその予防)
 ステイホーム中の「多接」のススメ

参考文献

  1. Berkman LF: Emotional support and survival after myocardial infarction. A prospective, population-based study of the elderly. Ann Intern Med. 1992;117: 1003-9. doi: 10.7326/0003-4819-117-12-1003.
  2. Belloc NB,Breslow L: Relationship of physical health status and health practices. Prev Med. 1972;1:409-421
  3. Hackett RA, et al: Loneliness and type 2 diabetes incidence: findings from the English Longitudinal Study of Ageing. Diabetologia.2020 Nov;63(11):2329-2338. doi: 10.1007/s00125-020-05258-6
  4. Brinkhues S, et al: Socially isolated individuals are more prone to have newly diagnosed and prevalent type 2 diabetes mellitus - the Maastricht study.BMC Public Health. 2017 Dec 19;17(1):955. doi: 10.1186/s12889-017-4948-6.
  5. Valtorta NK, et al: Loneliness and social isolation as risk factors for coronary heart disease and stroke: systematic review and meta-analysis of longitudinal observational studies Review Heart. 2016 Jul 1;102(13):1009-16. doi: 10.1136/heartjnl-2015-308790
[保健指導リソースガイド編集部]
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