全国がん登録データで初の5年生存率 国際標準「純生存率」を導入
厚生労働省は1月14日、全国がん登録制度の開始後初めてとなる「2016年全国がん登録生存率報告」を公表した。
全国の医療機関から届け出られた2016年のがん診断例を追跡し、5年後の生存状況を集計。前立腺がん92.1%、乳がん88.0%など部位別の詳細なデータが明らかになった。
今回の報告は、従来の「相対生存率」に代わり国際標準の「純生存率」を採用したことが大きな特徴だ。これにより、地域差や部位別、さらに国際的な比較が可能となり、日本のがん医療を国際的に評価する基盤が整いつつある。
主要がんの5年生存率 乳房88.0%、最高は前立腺で92.1%
2016年に新たにがんと診断された15歳以上の患者について、部位別の5年生存率が明らかになった。最も高かったのは前立腺の92.1%で、次いで乳房88.0%、子宮頸部71.8%と続いた。
消化器系では大腸(直腸・結腸)67.8%、胃64.0%と、約3分の2が5年後も生存している。一方、肺37.7%、肝および肝内胆管は33.4%にとどまり、膵臓は11.8%と依然として低い生存率となった。
小児(15歳未満)では、リンパ腫・リンパ網内系腫瘍が95.7%と高い生存率を示した。白血病・リンパ増殖性疾患・骨髄異形成疾患は82.2%、神経芽腫・その他類縁疾患78.5%、中枢神経系・その他頭蓋内・脊髄腫瘍で60.8%という結果だった。
小児がん医療の進歩が数字に表れている一方で、まだ改善の余地があることも示唆される。
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出典:「平成28年 全国がん登録 5年生存率報告」P.18(厚生労働省、2026年1月14日)
「純生存率」採用の意義
今回の報告で特筆すべきは、従来の「相対生存率」に代わり「純生存率(net survival)」という新しい指標を採用した点だ。
相対生存率は、がん患者の実測生存率を一般集団の期待生存率で割って算出する指標である。しかし、高齢化などにより他の病気による死亡の影響を十分に補正できない場合があることが指摘されていた。
純生存率は、他の病気などによる死亡の影響を統計学的に補正し、「がんによる死亡のみ」を評価する、より精緻な指標である。国立がん研究センターによれば、がん死亡と他の死因による死亡の独立性という仮定の問題を統計学的に補正する方法として考案され、国際的にもより適切な補正方法として用いられているという。
この指標の導入により、年齢構成や死亡リスクが異なる国や地域、経年的比較が、より正確に行えるようになる。日本のがん医療水準を国際的に評価し、効果的な施策を打ち出すための科学的根拠が強化されたといえる。
がん登録推進法がもたらした成果
今回の報告は2013年12月に成立した「がん登録等の推進に関する法律」(がん登録推進法)が実を結んだ形だ。同法は2016年1月に施行され、全国の病院と指定診療所にがん患者情報の届出を義務付けた。
これにより、国内のがん罹患、診療、転帰などに関する情報が国のデータベースに一元管理されることになった。各都道府県の登録室に届けられた情報は、国立がん研究センターの全国がん登録データベースで再度突合・整理され、市町村からの死亡情報とも照合される。こうして、全国規模でのより正確ながん罹患率や生存率の把握が可能になった。
従来は地域がん登録によって各都道府県が独自に情報を収集していたが、カバー率や精度にばらつきがあり、全国的な実態把握には限界があった。
全国がん登録では、日本で新たに診断される年間約100万件のがん症例が対象となり、データの蓄積が進めば、都道府県別の生存率や診療状況の分析もより精度の高い形で可能になると考えられている。地域ごとの医療提供体制や検診体制の違いを検証する資料としての活用も期待される。
全国がん登録データの今後の活用と留意点
今回は全国がん登録後初の2016年診断例の5年生存率を中心にレポートしたが、2月13日には2017年、2018年の5年生存率も順次公表された。今後も順次更新されていくことになる。これらの経年変化を追うことで、がん対策の効果や医療技術の進歩を客観的に評価できるようになっていく。
特に、胃がん、大腸がん、乳がんなどは検診による早期発見の影響を受けやすいがん種であり、生存率の推移は検診政策や受診率の変化を考える上でも重要な指標となる。地域における保健活動や受診勧奨の効果を検証する基礎データとしても活用が期待される。
ただし、厚労省も留意点として指摘しているように、症例数が少ない場合には統計的ばらつきが生じやすく、信頼区間が広くなる。少数例の生存率の解釈には慎重さが求められる。
また、生存率は早期発見の影響を受ける指標でもある。検診の普及や診断技術の向上によって早期のがんが多く見つかるようになると、生存率は上昇する傾向がある。一方で、生存率の改善が必ずしも死亡率の低下を意味するわけではないため、がん対策の評価には死亡率や罹患率などの指標と併せて総合的に解釈する必要がある。
がん罹患の増加が続く中、全国がん登録データは、がん対策の効果や医療格差の把握に不可欠な基盤となる。今後、データの蓄積とともに、より詳細な分析が可能になり、がん医療の質の向上、患者支援の充実、効果的な予防施策の立案など、多方面での活用が期待される。
参 考
全国がん登録5年生存率報告の結果 2016年 2017年 2018年|厚生労働省
最新がん統計|国立がん研究センター
がん登録|厚生労働省
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