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小中高生の自殺予防に――東大研究グループが自殺リスク予測アルゴリズムを解明 RAMPS活用の全国大規模実証研究

 東京大学大学院教育学研究科身体教育学コース健康教育学分野の北川裕子特任助教らの研究グループは、児童生徒の自殺リスクを予測するアルゴリズムの解明と、学校健診や保健室対応などの場でリスクを早期に察知して支援につなげる仕組みづくりに取り組んでいる。

 厚生労働省は毎年3月を「自殺対策強化月間」と位置づけ、自殺防止に向けた集中的な啓発活動を行っているが、2025年の小中高生の自殺者数は暫定値で532人となり、このまま確定すれば統計のある1980年以降で最多となる深刻な状況である。

 こうしたなか、北川氏らが進める自殺リスク評価ツールの活用は、児童生徒の自殺予防に資する取り組みとして注目される。

2025年の小中高生の自殺者数は538人で過去最高

 警察庁統計をもとに厚生労働省が公表した最新資料によると、2025年の小中高生の自殺者数は確定値で538人となり、2024年の確定値529人を上回った。内訳は小学生10人、中学生172人、高校生356人。過去最高の水準となっており、深刻な社会課題となっている。

 そのような中、自殺リスクの高い児童生徒を早期に見つけ、適切な支援につなげるための指標づくりを目指す研究が進められている。厚生労働省「令和6年度革新的自殺研究推進プログラム」の一環として実施された「児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明:自殺リスク評価ツール(RAMPS)を活用した全国小中高等学校での大規模実証研究」だ。代表研究者は北川裕子氏(東京大学 大学院教育学研究科身体教育学コース健康教育学分野 特任助教)。

 北川氏らの報告によると、この研究には大きく2つの目標がある。1つ目は、学校で集めたデータを機械学習などで解析し、自殺企図や自殺に関連するリスクを予測するアルゴリズムを構築すること。2つ目は現場の実態に応じて、児童生徒が回答しやすい、教員にとって使い勝手の良い仕組みの改良を続けることだ。

2024年度には6万人以上の生徒が利用

 研究は2022年度から2024年度までの3年間にわたり実施された。RAMPSをクラウド化して研究協力校に配布し、保健室を利用する生徒には端末上で回答してもらったうえで、養護教諭らが質問ガイドをもとに追加質問を行った。さらに、定期一斉検診や不登校生徒らを対象にした個別検診でも、生徒のタブレット端末などを用いて回答を集めた。

 回答内容は教員用システムに自動で集計・表示され、養護教諭らが緊急性や妥当性を評価できる仕組みになっている。緊急性の高い回答があった場合には、管理職ら関係教員に即時アラートが送信される機能も実装されている。加えて、保健情報や支援記録などを入力できる機能も備え、従来は手作業で行っていた来室票の記入やデータ化を端末上で完結させることで、養護教諭の事務的負担を軽減し、生徒への対応時間の確保も目指した。

 一方、クラウド経由で協力校から得られたデータは研究チームが集約・解析。自殺リスクを予測するためのアルゴリズムを構築する。このアルゴリズムはRAMPSに実装し、協力校にフィードバックして今後の支援体制を高度化させるという。

 2024年度、RAMPSは全国の中学・高校など約170校で実施され、6万人以上の生徒が利用。導入を検討する自治体も増えており、研究チームは運用体制の強化やシステム改良を進めたという。

 また、研究期間の3年間を通じて毎月1回以上の研修会を開催し、RAMPSの適切な運用や自殺予防に関する情報提供を継続した。特に長期休み明けは若者の自殺リスクが高まることを踏まえ、2024年度は6〜9月に評価や事後対応に関する講演会・研修会を重点的に実施した。さらに、現場の教員や子どもたちの声を直接聞くため、新潟県の実施校複数校でインタビュー調査も行った。

 研究チームは、RAMPSが学校現場で実際に役立つ「実用的なツール」として、当初の想定以上に成果を上げたと評価している。特に、全校生徒を対象にした集団検診では、ふだん自分から相談しない生徒や学校側が把握できていなかった生徒のリスクを見つけられる点に大きな意義があるとした。

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出典:児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明:自殺リスク評価ツール(RAMPS)を活用した全国小中高等学校での大規模実証研究によって

 一方で、自殺リスクを予測するアルゴリズムの開発については、大規模データの解析に時間がかかるため、十分な分析は今後の課題として残った。今後は解析手法や計算環境を改善しながら、より精度の高い予測モデルの構築を目指すとしている。

 2025年6月には自殺対策基本法が改正され、こどもの自殺対策の強化が大きな柱として打ち出された。改正法では、学校に対し、自殺の防止等の観点から心の健康の保持のための健康診断や保健指導等の措置を行うよう努めることも盛り込まれた。研究チームは、RAMPSを通じて自殺リスクを早期に察知し、必要な支援につなげることで、児童生徒の自殺予防に貢献したいとしている。

児童生徒の自殺リスク予測アルゴリズムの解明─令和7年度自殺対策推進レアール〈研究成果報告〉③(いのち支える自殺対策推進センター/2026年3月3日)

[yoshioka]