エネルギー吸収効率に影響する要因を体系化 食事内容・加齢・疾患の影響をレビュー
国立健康・栄養研究所と東北大学の研究グループは、過去50年分の国内外の文献を調査し、食事量や食事内容、加齢、疾患が「消化可能エネルギー摂取量(DEI)」および「代謝可能エネルギー摂取量(MEI)」に与える影響を整理した。
食物繊維やナッツ類は吸収効率を低下させる傾向がみられた一方、食事量の増減による影響は限定的であった。高齢者や消化管疾患患者では吸収効率が低下する傾向があり、肥満、低栄養、フレイル対策など、幅広い栄養評価や介入設計に重要な示唆を与える。
世界的に進む肥満と低栄養の二極化 適正体重維持は世界共通の重要課題
世界的には肥満人口が増加し続ける一方、南アジアやアフリカでは子どものやせが依然として深刻であり、日本を含む先進国では高齢者の意図しない体重減少やフレイルが大きな課題となっている。適正体重の維持は、年齢や健康状態を問わず重要な公衆衛生課題である。
一般に体重変動は、摂取エネルギーと消費エネルギーの差として理解されることが多いが、摂取したエネルギーのすべてが体内で利用されるわけではない。実際に吸収されるエネルギー量、実際に体内で利用可能なエネルギー量は、消化・吸収・排泄の過程を経て決まり、消化可能エネルギー摂取量(以下、DEI)※1や代謝可能エネルギー摂取量(以下、MEI)※2として評価される。
近代栄養学の基礎を築いたアトウォーターは100年以上前に、食品中の三大栄養素からMEIを算出するエネルギー換算係数※3を提唱した。この「アトウォーター係数」は現在も栄養学や食品表示の基盤として広く用いられており、日本でも食品表示法に基づくエネルギー算出に修正アトウォーター法が採用されている。また、日本食品標準成分表(八訂)でも、組成成分ごとの換算係数を乗じてエネルギーが算出されている。
しかし、同じエネルギー量の食事であっても、食品構成や加工状態、個人の消化吸収機能などによって、実際に利用されるエネルギー量は変動する可能性がある。
※1 消化可能エネルギー摂取量(DEI):食品から摂取した総エネルギーのうち、糞便として体外に排出される分を差し引いた、体内で消化・吸収されたエネルギーを指す
※2 代謝可能エネルギー摂取量(MEI):消化可能エネルギーから、さらに尿として失われるエネルギーを差し引いた、体が実際に利用できるエネルギーを指す
※3 エネルギー換算係数:食品に含まれるたんぱく質、脂質、炭水化物などの量から、エネルギーを算出するために用いられる数値で、食品表示のエネルギー計算の基礎となるもの
食物繊維・ナッツで吸収効率は低下傾向 加齢や疾患の影響も示唆
本研究は、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所臨床栄養研究センター栄養代謝研究室の吉村英一室長及び東北大学大学院医学系研究科運動学分野の西田優紀講師らの研究グループによるもの。2026年2月26日、国際学術誌 『Advances in Nutrition』にて公開された。
本研究では、1970年代以降に報告されたヒト研究のうち、ボンブ熱量計※4を用いてエネルギー吸収を評価した23件を抽出し、エネルギー吸収効率に影響する要因を整理した。
※4 ボンブ熱量計:食品や糞便、尿を燃焼させ、その際に発生する熱量を測定することで、エネルギーを高精度に評価できる装置
食事量の影響
食事量に関しては、過食時に糞便中へのエネルギー排泄量が増加するものの、DEIやMEIの割合は大きく変化しないことが示された。これは、生体が摂取量の増減に対して吸収効率を一定に保つ適応的調節を行っている可能性を示唆する。
一方、食事制限時においても吸収割合の明確な低下は認められず、摂取量そのものが吸収効率に与える影響は限定的であると考えられる。
食事内容の影響
一方、食品構成の影響は比較的大きく、高食物繊維食やナッツ類の摂取では、DEIおよびMEIの割合に低下傾向が認められた。ナッツ類では、食品表示上のエネルギー量よりも実際に利用されるエネルギーが少なくなる可能性が示唆されている。
この知見は、食品の種類や構成がエネルギーの吸収効率に大きく影響することを改めて示すものである。
食事パターン・運動の影響
時間制限食に関する研究結果が一致せず、DEI・MEIへの影響は明確ではなかった。レジスタンス運動についても、吸収効率に対する一貫した影響は確認されなかった。
加齢・疾患の影響
60代の高齢者や短腸症候群、腸管不全などの消化管疾患を有する人では、健康な成人と比較して、DEIやMEIの割合が低下する傾向がみられた。
特に、在宅静脈栄養を受けている腸管不全患者では、エネルギー吸収率が著しく低下していた。一方で、70歳以上の高齢者や消化管疾患以外の慢性疾患を対象とした研究は限られており、エビデンスの蓄積が求められる。
※クリックで拡大できます
出典:プレスリリース「同じ食事内容でも吸収されるエネルギーは異なる?」(医薬基盤・健康・栄養研究所、2026年3月2日)
フレイル対策では「吸収効率」を考慮した栄養評価が重要
本研究は、食品表示に基づくエネルギー量と、実際に体内で利用されるエネルギー量との間に乖離が生じ得ることを明確に示したものである。ただし、対象となった研究数は23件と限られており、対象者や試験条件の異質性も大きいことから、結果の解釈には一定の注意が必要である。
それでも、保健指導や栄養管理の現場においては、従来の「摂取量中心」の評価に加え、「吸収効率」という視点を取り入れる意義は大きい。例えば、同一エネルギー量の食事であっても、食物繊維量や食品の物理構造によって利用可能エネルギーは変動するため、食事内容の質的評価を併せて行うことが重要となる。
食物繊維やナッツ類は吸収効率を低下させる特性を有するため、肥満対策には有用である可能性があるが、高齢者や疾患患者といった低栄養リスクのある対象者では摂取内容の調整が求められる。
高齢者の低栄養はフレイルの主要因であり、転倒予防や介護予防の観点からも重要である。高齢になると、食欲低下や咀嚼・嚥下機能の変化に加え、消化吸収機能の低下が重なり、体重減少から低栄養に至るケースが少なくない。
今後は、70歳以上の高齢者や多様な慢性疾患群におけるエネルギー吸収効率のデータ蓄積に加え、食品の物性や腸内環境が吸収効率に及ぼす影響の解明が期待される。これらの知見を踏まえ、吸収効率を考慮したより個別性の高い栄養評価・保健指導モデルの構築が求められる。
参 考
同じ食事内容でも吸収されるエネルギーは異なる? ~食事や健康状態で変わる「消化可能エネルギー」の最新レビュー~|医薬基盤・健康・栄養研究所
(2026年3月2日)
Digestible and Metabolizable Energy Intake in Humans: A Systematic Review|Advances in Nutrition
(2026年2月26日)
本サイトに掲載されている記事・写真・図表の無断転載を禁じます。


