オピニオン

No.2 女性の「やせ」とFUSがもたらす健康影響

順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学・スポートロジー / 代謝内分泌内科学 教授
田村 好史

「細いこと」と「健康」は同じではない

 「太っていないのだから健康リスクは少ない」と考えることもあるかもしれませんが、実際には様々な疫学データなどから、健康リスクはやせにも存在することが示されてきました。この点において、女性の低体重/低栄養症候群(FUS)では、女性の低体重・低栄養は、骨、月経、生殖、全身症状、さらには糖代謝まで、見た目からは分かりにくい複数の問題と結びつきうることが示されています[1,2](表1)。

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田村好史作図

 しかも、その影響はその場の不調にとどまりません。若い時期のやせや低栄養が、妊娠や中年期以降の代謝異常や骨の問題などにまでつながりうることが分かってきています(図1)。だからこそ保健指導の場では、「やせているかどうか」だけでなく、「その背景に低栄養があるか」「健康影響がすでに始まっていないか」を見る視点が必要になると考えられます。

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骨と月経は、栄養状態を映すサイン

 まず重要なのが骨への影響です。10〜20代は、生涯で最も骨量が増加する時期にあたります。この時期の低体重や低栄養は、将来の骨粗鬆症リスクにつながりうると考えられています[1,2]。若い世代では骨の問題が自覚症状として表れにくく、本人にも周囲にも見過ごされがちですが、「若い今の栄養状態や運動が、将来の骨の土台をつくる」という視点はきわめて重要です。

 月経もまた、健康状態を知るうえで大切な手がかりです。やせや慢性的なエネルギー不足は視床下部―下垂体―卵巣軸に影響し、無月経や希発月経を招くことがあります[1,2]。月経異常は婦人科だけの問題ではなく、「今の食べ方やエネルギーバランスに無理がある」という、全身からのサインと捉えることが出来ます。
 ヒトとして、エネルギー不足は生命の危機に直結するため、基礎代謝や女性ホルモン分泌の低下により、個の生存を守る方向に制御されるのだと考えられます。この状態が続けば、妊孕性への影響や、妊娠した場合の低出生体重児の出産など、次世代への影響も懸念されます[1,2]。

「何となくの不調」もFUSのサイン?

 低栄養の影響は、骨や月経のように説明しやすいものばかりではありません。エネルギーや、鉄、葉酸、亜鉛、ビタミンDなどの不足は、貧血、倦怠感、冷え、睡眠障害、集中力の低下、便秘、肌や髪の質の低下といった、日常の「何となくの不調」として現れる可能性があります[1,2]。こうした症状は「体質」「忙しさ」「ストレス」で片づけられやすいのですが、実際には低栄養が背景にある場合もあると考えられます。
 したがって、保健指導では、体重やBMIだけで評価するのではなく、こうした不調がいくつ重なっているかを見ることが大切なのかもしれません。

糖代謝異常と「やせ」

 もう一つ強調したいのが、糖代謝への影響です。
 糖尿病や耐糖能異常は肥満の問題と考えられがちですが、日本の疫学調査ではBMIと糖尿病発症リスクはU字型の関係を示し、低体重側でもリスクが高まりうることが報告されています[3]。妊娠糖尿病についても、20歳時の低BMIが、妊娠初期のBMIとは独立して発症リスクの上昇と関連していました[4]。

 さらに、低体重の若年女性を対象とした私たちの研究では、低体重の女性では、エネルギー摂取が少なく、身体活動量が少ないという「エネルギー低回転型」の特徴を有していました[5](表2)。さらに、耐糖能異常の頻度が標準体重の女性より有意に高く、低体重群13.3%、標準体重群1.8%と、米国の肥満者よりも数値的には高いことが明らかとなり[5]、耐糖能異常を有する低体重女性で、インスリン初期分泌の低下だけでなく、体力の低下や脂肪組織のインスリン抵抗性の上昇もみられていました[5]。
 また、思春期のやせが成人後の糖尿病発症と関連することも報告されており[6]、若い時期の低栄養は将来的な糖代謝障害につながる可能性があります。

 このように若い時期の低体重では糖代謝の増悪に注意を払う必要があり、その背景には低栄養とともに、身体活動低下や体力不足を背景としたインスリン分泌不全やインスリン抵抗性が関与している可能性があります。

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ライフコースで見る

 体重だけで健康を判断しないこと。月経、食事量、体重変動、疲れやすさ、冷え、活動量、筋力低下の有無まで合わせて見ること。そして、やせを「今、症状があるかどうか」だけでなく、「この先、何が起こりうるか」というライフコースの視点で評価すること。これがFUSを理解するうえで大切なポイントです。

 次回は、こうしたリスクを実際の保健指導でどう拾い、どう伝え、どう支援につなげるかを考えます。


参考文献
[1] 日本肥満学会 女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ. 女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント. 肥満研究. 2025;31(2):55-61.
[2] Tamura Y, Ogawa W, Ishii K, Ishigaki Y, Nagai N, Hirota Y, Morino K, Inokuchi M, Suzuki T, Tanaka S, Terauchi M, Nose-Ogura S. Female Underweight/Undernutrition Syndrome (FUS): An Emerging Health Concept in Premenopausal Women - Secondary Publication (English Translation of the Japanese Statement). J Obstet Gynaecol Res. 2026;52(2):e70201. doi:10.1111/jog.70201.
[3] Tatsumi Y, Ohno Y, Morimoto A, et al. U-shaped relationship between body mass index and incidence of diabetes. Diabetol Int. 2012;3(2):92-98. doi:10.1007/s13340-012-0067-x.
[4] Yachi Y, Tanaka Y, Nishibata I, et al. Low BMI at age 20 years predicts gestational diabetes independent of BMI in early pregnancy in Japan: Tanaka Women's Clinic Study. Diabet Med. 2013;30(1):70-73. doi:10.1111/j.1464-5491.2012.03712.x.
[5] Sato M, Tamura Y, Nakagata T, et al. Prevalence and Features of Impaired Glucose Tolerance in Young Underweight Japanese Women. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106(5):e2053-e2062. doi:10.1210/clinem/dgab052.
[6]Katanoda K, Noda M, Goto A, Mizunuma H, Lee JS, Hayashi K. Being underweight in adolescence is independently associated with adult-onset diabetes among women: The Japan Nurses' Health Study. J Diabetes Investig. 2019;10(3):827-836. doi:10.1111/jdi.12947.