No.1 日本人女性の「やせ」と新疾患概念FUS
―BMIだけでは見えない低栄養の広がり
「細いから安心」では必ずしも無い
日本の若い女性にとって低体重は決して珍しい状態ではありません。20代女性ではBMI18.5未満の人が20-25%前後を占め、その割合は長く高い水準で推移してきました[1-3](図1)。増加してきたのは1980年代で、様々な社会の変化と関連し、女性へのやせへの圧力が高まってきた時期と考えられます。また、この傾向は世界的にも極めて際立っており、OECD加盟国の中でも断トツで高いことが知られています(図2)。
ここで大切なのは、「やせ」を見た目の問題ではなく健康の問題として捉える視点です。若い時期に目立った異常がなくても、低体重や低栄養は、骨量の獲得、月経、妊娠、さらには将来の糖代謝にまで影響しうることが指摘されています[1,2]。「今、大きな不調がない」ことと「この先も健康でいられる」ことは、必ずしも同じではありません。
しかしながら、健診や保健指導の現場では、対応の中心はどうしても肥満・メタボリックシンドロームに置かれます。特定健診・特定保健指導そのものが内臓脂肪型肥満を軸に組み立てられているため、腹囲・血圧・血糖・脂質に関心が集まる一方で、「やせ」は「太っていないのだから大丈夫」と受け止められがちに感じます。
加えて、特定保健指導の対象は40〜74歳であり、やせが多い20〜30代の女性は、そもそも保健指導の枠組みに乗りにくいという事情もあります。
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「身体状況調査|健康日本21(第二次)分析評価事業」より田村好史作図
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「NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). NCD-RisC [Internet]. [cited 2026 Jan 4]. Available from: NCD-RisC website. (ncdrisc.org)」より田村好史作図
背景にある「やせたい」気持ち
若い女性のやせを考えるとき、体重の数字だけを見ても十分ではありません。その背景には、「細い方がよい」「太りたくない」という思いがしばしば存在します。若年低体重女性を多面的に調べた横断研究では、ダイエット経験のある群で、食事量や体重を増やすことへの抵抗、摂食態度の問題、メディアから受ける外見上の圧力や細い体型の内在化がより強いことが示されました[4]。
さらに、SNSの利用時間が長い若年女性ほど、理想とする体型がより細い方向に傾き、食行動にも影響が及ぶ可能性が示されています[5]。保健指導の場で「なぜ食べられないのか」「なぜ体重を増やしたくないのか」を理解しようとするとき、こうした社会的・心理的な背景を抜きに語ることはできません。やせを本人の意思の弱さや知識不足だけで説明しようとすると、支援はうまく届かなくなる可能性があります。
低体重の原因はダイエットだけでない
一方で、低体重の女性がすべて同じ背景をもつわけではありません。明らかな食事制限や摂食障害傾向を伴う場合もあれば、いわゆる体質性やせのように、生来的に体重が増えにくい人もいます[6]。ただし、体質性やせであっても骨量低下などの健康リスクを伴いうることが報告されており、「もともと細いから問題ない」と単純には言い切れません[7]。
さらに重要なのは、BMIが正常範囲にあっても安心とは限らない点です。摂取エネルギーが少ない、筋量が少ない、身体活動量が低い――こうした状態が重なると、見かけ上は標準体重でも、低栄養に近い状態が潜んでいることがあります。つまり、BMIだけでは拾いきれないリスクがあるのです。
FUSという新しい視点
こうした問題を包括的に捉えるために提唱されたのが、FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)です。
FUSは、18歳から閉経前の女性において、低体重や低栄養を背景に、それに起因する疾患・症状・徴候を伴っている状態を指します[1,2]。低体重だけでFUSとみなすのではなく、低体重または低栄養を背景として、それに起因する疾患・症状・徴候を伴うことが前提です。月経異常、低骨密度、貧血、倦怠感、冷え、不安・抑うつ、耐糖能異常など、これまで別々に扱われてきた問題を、「やせ」あるいは「低栄養」という共通の土台から捉え直そうとする概念です(図3)。
現時点でのFUSは、厳密な診断基準が固まった確立した診断名というより、見逃されやすかった健康障害を「見える化」し、早期発見や予防につなげるための枠組みと理解するのが適切です[1,2]。この視点をもつことで、「細いけれど、困っていないように見える人」にも一歩踏み込んだ見方ができるようになります。
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「肥満研究 31(2):55-65, 2025 」より田村好史作図
保健指導の現場で、何を手がかりにするか
先に述べたとおり、やせた若年女性は特定保健指導の枠組みからこぼれやすく、職域の定期健康診断でBMIが低くても、体系的にフォローする仕組みは十分に整っていません。だからこそ、やせやFUSを見逃さないかどうかは、制度任せではなく、保健指導者一人ひとりの「気づき」に大きく左右されます。
大切なのは、「細いから健康そう」「BMIが正常だから大丈夫」と考えないことです。体重やBMIだけでなく、食事量、欠食、ダイエット歴、月経の状況、疲れやすさ、冷え、活動量、筋力低下の有無まで合わせて見て、初めてリスクの輪郭が見えてくると考えられます。
女性のやせを見た目の問題で終わらせず、低栄養と将来の健康障害につながるサインとして捉え直す、それがFUSという概念の出発点です。次回は、この見えにくいリスクが骨、月経、妊娠、糖代謝にどのようにつながるのかを整理します。
参考文献
[1] 日本肥満学会 女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ. 女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント. 肥満研究. 2025;31(2):55-61.
[2] Tamura Y, Ogawa W, Ishii K, Ishigaki Y, Nagai N, Hirota Y, Morino K, Inokuchi M, Suzuki T, Tanaka S, Terauchi M, Nose-Ogura S. Female Underweight/Undernutrition Syndrome (FUS): An Emerging Health Concept in Premenopausal Women - Secondary Publication (English Translation of the Japanese Statement). J Obstet Gynaecol Res. 2026;52(2):e70201. doi:10.1111/jog.70201.
[3] Otsuka H, Tabata H, Someya Y, Tamura Y. Trends in the prevalence of underweight in women across generations in Japan. J Bone Miner Metab. 2021;39(4):719-720. doi:10.1007/s00774-020-01177-z.
[4] Murofushi Y, Yamaguchi S, Kadoya H, et al. Multidimensional background examination of young underweight Japanese women: focusing on their dieting experiences. Front Public Health. 2023;11:1130252. doi:10.3389/fpubh.2023.1130252.
[5] Yumen Y, Takayama Y, Hanzawa F, Sakane N, Nagai N. Association of Social Networking Sites Use with Actual and Ideal Body Shapes, and Eating Behaviors in Healthy Young Japanese Women. Nutrients. 2023;15(7):1589. doi:10.3390/nu15071589.
[6]Bailly M, Germain N, Galusca B, Courteix D, Thivel D, Verney J. Definition and diagnosis of constitutional thinness: a systematic review. Br J Nutr. 2020;124(6):531-547. doi:10.1017/s0007114520001440.
[7] Galusca B, Zouch M, Germain N, et al. Constitutional thinness: unusual human phenotype of low bone quality. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(1):110-117. doi:10.1210/jc.2007-1591.
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