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全国150万人の歩数データからみる地域差と社会経済的格差 最大3,724歩/日の地域間格差

 東京大学の研究グループは、スマートフォンアプリ「トリマ」を利用する20~64歳の約150万人の歩数データを用い、利用者が100人以上いた全国951市区町村の平均歩数と、地域環境指標であるウォーカビリティ※1との関連を分析した。

 市区町村間の平均歩数には最大3,724歩/日の差があり、ウォーカビリティが高い市区町村ほど、対象となったアプリ利用者の平均歩数が多い傾向が明らかになった。さらに、教育歴・就業状況・世帯収入といった社会経済的属性別の歩数格差の大きさや現れ方は、地域のウォーカビリティによって異なることが示された。

 本研究は、自治体の健康政策・都市計画・交通政策など、多分野の協働により、地域環境と社会経済的背景の双方を考慮した施策を検討するための基礎資料として活用されることが期待される。

自己申告中心の身体活動量評価が抱える精度の課題

 からだを動かすことは健康の維持・増進に不可欠であり、世界保健機関(WHO)をはじめ、多くの専門機関が身体活動の確保を推奨している。

 これまで国や地域による身体活動量※2の差異は報告されてきたが、その多くは質問紙による自己申告データに基づいており、過去の行動を思い出して回答することによる誤差などが課題となっていた。

 また、研究グループによると、地域の健康施策を担う基礎自治体単位で、計測機器などを用いた客観的な指標に基づき、身体活動量の全国的な分布を示した研究はこれまでなかった。教育歴、就業状況、収入といった社会経済的要因による身体活動の格差が、地域の歩きやすさによってどのように異なるかについても、全国規模の知見は不足していた。

 今回、研究チームは、スマートフォンアプリ「トリマ」に蓄積された2023年の1年間分の匿名化データを用い、市区町村間および社会経済的要因による歩数格差を分析した。

大規模データ解析で明らかになった歩数格差と地域環境との関連

 本研究は、東京大学とジオテクノロジーズ株式会社の共同研究契約に基づいて実施され、東京大学大学院工学系研究科倫理委員会の承認を得て行われた。成果は国際医学誌「The Lancet Regional Health - Western Pacific」に掲載された。

 解析対象は、20~64歳のスマートフォン利用者1,542,536人、合計261,731,501人日分の歩数データである。市区町村レベルの分析では、利用者が100人以上いた951市区町村を対象とした。

 その結果、市区町村別の平均歩数は4,026~7,750歩/日に分布し、市区町村間の最大差は3,724歩/日に達した。最も平均歩数が多い市区町村と少ない市区町村の間には、2倍近くの開きがあった。

 また、平均歩数が多い市区町村ほどウォーカビリティが高く、市区町村内の歩数分布の格差を示すジニ係数※3が低い傾向も確認された。

 個人レベルの分析では、社会経済的要因による歩数格差の大きさや現れ方が、地域の歩きやすさによって異なることが明らかになった。教育歴および等価世帯収入※4別にみた歩数は地域の歩きやすさによって異なり、最も歩きやすい地域と最も歩きにくい地域との間で最大762歩/日の差がみられた。

 就業状況については、就業者と非就業者の歩数差が、最も歩きやすい地域で最大1,514歩/日に達した。

 これらの結果は、ウォーカビリティの高い地域ほど平均歩数が多い一方、地域環境と歩数との関連の現れ方は、個人の社会経済的背景によって異なる可能性を示している。ウォーカビリティが高い地域であっても、すべての人で一様に歩数が多くなるとは限らないことにも留意が必要である。

 ただし、本研究は、地域のウォーカビリティと歩数との関連を調べた記述疫学研究であり、環境整備によって歩数が増えるという因果関係を直接検証したものではない。また、対象はスマートフォンアプリの利用者に限られているため、市区町村の住民全体を代表する数値ではない点にも注意が必要である。

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市区町村の歩数平均値地図とウォーカビリティとの関連
市区町村の歩数平均値地図とウォーカビリティとの関連

出典:「全国150万人のデータからみた歩数の地域・社会経済的格差 ―最大で2倍近く(約3,700 歩/日)の地域間格差が明らかに―」(東京大学)

歩数格差への対応には地域環境と社会経済的背景の両面に着目

 厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、身体活動を促すためには個人の努力だけでなく、地域社会・職場・学校などの環境を整える必要があるとしている。同ガイドでは、身体活動支援環境を、生活活動と運動、それぞれの物理的環境と社会的環境の4つの視点から整理している。

 物理的環境では、都市計画・交通計画による歩行や自転車利用を促すまちづくり、身体活動を促す都市・建築空間のデザイン、座りすぎを防ぐ職場レイアウト、運動施設や遊歩道、公園、自然環境の整備などが挙げられる。

 社会的環境では、徒歩・自転車・公共交通による通勤や通学、買い物などの活動的な移動の推進、地域活動の活性化、高齢者の社会参加機会の拡充などが考えられる。職場では、組織の方針や勤務時間、職場主導の健康教室、立ち会議の導入、階段利用の促進、座りすぎを避けることの推奨などが例示されている。

 今回の結果は、歩数の地域差や社会経済的格差を考える際、教育歴・就業状況・世帯収入といった個人の社会経済的背景だけでなく、居住地域のウォーカビリティにも着目する必要性を示唆している。
 個別の保健指導では、対象者の就業状況や生活環境を踏まえ、日常生活の中で無理なく身体活動を増やせる機会や、実行を妨げている環境を確認する視点が重要となる。

 自治体レベルでは、健康・スポーツ部門だけでなく、交通、都市計画、公園・緑地などの部門が連携し、歩きやすい環境づくりを進めるとともに、地域住民の社会経済的背景を踏まえた施策を検討することが求められる。


※1 ウォーカビリティ指標:地域の「歩きやすさ」や「徒歩での生活しやすさ」を示す指標。本研究では、人口密度、生活関連施設の種類数、道路接続性から構成される「全国郵便番号界ウォーカビリティ指標」を使用した。

※2 身体活動:からだを動かすことの総称。運動だけでなく、通勤・通学、買い物、家事、仕事中の移動など、日常生活の中でからだを動かす活動も含む。歩数は、身体活動量を示す代表的な指標の一つとして広く用いられている。

※3 ジニ係数:分布の格差の大きさを示す指標。0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいことを意味する。

※4 等価世帯収入:世帯全体の収入を世帯人数で調整した指標。本研究では、年間世帯収入を世帯人数の平方根で割って算出した。

参 考

全国150万人のデータからみた歩数の地域・社会経済的格差―最大で2倍近く(約3,700歩/日)の地域間格差が明らかに―|東京大学(2026年6月20日)
Cross-level regional and socioeconomic inequalities in step counts: a descriptive epidemiological investigation of 1.5 million Japanese smartphone users|The Lancet Regional Health - Western Pacific(2026年6月19日)
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023|厚生労働省

[保健指導リソースガイド編集部]