Vol.9 長時間労働の影響を日々の観察から検討した知見
長時間労働の問題
長時間労働が健康によくないことは、すでに多くの方がご存じだと思います。実際、多くの研究で長時間労働は脳・心臓疾患[1]や精神疾患[2]等の健康問題と関連することが報告されています。
また、世界保健機関と国際労働機関の共同推計[3]によると、2016年時点で、世界人口の約8.9%が週55時間以上の長時間労働にさらされているとされ、長時間労働は世界的な労働衛生上の課題となっています。
長時間労働の基準
長時間労働の基準として、多くの研究では週55時間以上がよく用いられており、上記の通り、さまざまな疾患との関連が報告されています。一方、日本の脳・心臓疾患の労災認定基準では、「発症前1か月におおむね100時間」または「発症前2~6か月にわたって、1か月あたり80時間を超える時間外労働」が重要な判断基準となっています。このように、長時間労働は、週単位や月単位で評価されることが少なくありません。
一方で、長く働いたその日にどのような変化が起こり、それが翌朝までどのように影響するのか、また何時間を超えると負担が大きくなるのかについては十分に分かっていませんでした。こうした点を明らかにすることは、過重労働を早い段階で防ぐためにも重要です。
1日単位の長時間労働の影響の検討
※以下では、統計学的に有意な結果のみ記載しています
そこで我々は、1日単位の労働時間に着目し、長時間労働がその日の健康状態や睡眠、さらには翌朝の心身の状態にどのような影響を及ぼすのかを検討しました[4]。
日本の情報通信業で働く日勤労働者98名を対象に、10日間の観察調査を実施しました。参加者には毎日の労働時間の記録に加え、就寝前と起床後に血圧や疲労感の測定、行動課題による覚醒度の評価、活動量計による睡眠測定を行ってもらいました。
その結果、労働時間が長い日は、就床前の収縮期血圧が高く、疲労感も強いことが分かりました。また、仕事から心理的に離れることも難しくなっていました。つまり、長時間働いた日は、身体的にも精神的にも負担を抱えたまま就寝している可能性が示されました。
さらに、労働時間が長い日は就寝時刻が遅くなり、一方で起床時刻はほとんど変わらず、結果として睡眠時間が短くなっていました。前日の労働時間が長かった翌朝は、収縮期血圧が高く、さらに前夜の睡眠時間が短かった場合は、覚醒度が低下し、眠気も強くなっていました。
また、どの程度の労働時間・睡眠時間から心身への負担が顕著になるかを分析したところ、1日の労働時間が12時間を超えると就床前の疲労感が強くなり、仕事から心理的に離れにくくなり、13時間を超えると睡眠時間が短くなりました。
睡眠時間については、6時間未満になると翌朝の覚醒度が低下し、5時間未満で眠気が強くなっていました。
この研究から言えること
上記の研究結果は、長時間労働の影響が将来的な病気のリスクとして現れるだけでなく、長く働いたその日のうちから心身に負担を与え、その影響が翌朝まで持ち越されることを示しています。
過重労働を防ぎ、十分な回復を促すためには、週や月単位の残業時間の管理だけでなく、「今日何時間働いたか」「昨夜何時間眠れたか」といった日々の労働時間と睡眠時間にも目を向けることが重要です。
当センターでは、長時間労働や、それに伴う休息時間(勤務間インターバル)の短縮による健康影響についても紹介しています。本稿とあわせてご覧いただくことで、過重労働と健康の関係についてより理解を深めていただけると思います。
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参考文献
[1] Kivimäki M, Jokela M, Nyberg ST, et al. Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603 838 individuals. Lancet 2015;386:1739-46.
[2] Virtanen M, Jokela M, Madsen IE, et al. Long working hours and depressive symptoms: systematic review and meta-analysis of published studies and unpublished individual participant data. Scand J Work Environ Health 2018;44(3):239-50.
[3] Pega F, Nafradi B, Momen NC, et al. Global, regional, and national burdens of ischemic heart disease and stroke attributable to exposure to long working hours for 194 countries, 2000-2016: a systematic analysis from the WHO/ILO Joint Estimates of the Work-related Burden of Disease and Injury. Environ Int 2021;154:106595.
[4] Ikeda H, Kubo T, Matsumoto S, et al. Association between daily long working hours and actigraphic sleep, vigilance, blood pressure and psychological responses: a 10-day observational study among Japanese daytime workers. Occup Environ Med 2025;82(10):476-84.
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関連リンク
保健指導リソースガイド・オピニオン「労働者の疲労リスク管理・効果的な休み方―過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の成果と職域での取り入れ方」(著・久保智英)
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