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働く世代の健診で偶然見つかる心房細動、心不全リスクは18倍に
約1,000万人のビッグデータが示す、早期発見と保健指導の重要性

 京都大学と広島大学の研究チームは、働く世代(35~59歳)の健診で偶然発見される心房細動が、将来的な脳梗塞および心不全の発症リスクと強力に関連することを明らかにした。

 特に心不全リスクは対照群の約18倍に達することが判明。本研究成果は、自覚症状に乏しい段階であっても、健診データを活用した早期の受診勧奨や、高血圧・肥満などの生活習慣是正に向けた保健指導が、予後改善につながる可能性を示唆している。

健診での偶発的発見が示す「無症候性心房細動」の長期的リスク

 心房細動は脳梗塞の主要な原因の一つであり、心不全の発症・進行とも密接に関連するが、初期には自覚症状を伴わないことが多い。
 臨床現場では有症状の患者への対応が中心となりがちだが、健診で偶然発見される無症候性の心房細動が、就労世代において将来どの程度の健康リスクをもたらすかについては、大規模なエビデンスが不足していた。

 そこで本研究では、全国健康保険協会(協会けんぽ)の約1,000万人規模のビッグデータを解析し、その関連性を調査した。

脳梗塞入院リスク5倍、心不全入院リスク18倍との有意な関連を確認

 本研究は、京都大学大学院医学研究科の森 雄一郎氏、広島大学大学院医系科学研究科の福間真悟教授らの研究グループによって実施され、2025年9月25日付で米国国際学術誌『Circulation』に掲載された。

 解析対象は、全国健康保険協会に加入する働く世代(35~59歳)の健診・医療データ(2015~2020年)である。心疾患や血管疾患の既往がない約950万人のうち、健診心電図で新たに心房細動が確認された者は11,790人(解析対象全体の約0.12%、概ね2,400人に1人の割合)であった。
 解析の結果、健診心電図で新たに心房細動が確認された群(11,790人)は、対照群と比較して3年後の脳梗塞による入院リスクが5.38倍、心不全による入院リスクが18.35倍と有意に上昇していた。

 特筆すべきは、この傾向が性別や基礎疾患の有無にかかわらず一貫して認められた点である。これは、健診時点での「偶然の発見」が、将来の重篤な心血管イベントを予測する、極めて強力な指標であることを示している。

疾 患 リスク増加 3年間の累積発生割合
脳梗塞による入院 5.38倍 1.83%
心不全による入院 18.35倍 3.87%
死 亡 1.98倍 0.78%

出典:「【研究成果】働く世代の検診で心房細動発見 ー脳梗塞5倍・心不全18倍リスクー」(広島大学、2025年10月28日)

心不全パンデミックの抑制へ:ステージA・Bからの介入

 ハザード比18倍という結果は、健診で見つかる心房細動がすでに心不全の早期兆候(あるいは潜在的な心機能低下)を反映している可能性を示唆する。

 「心不全診療ガイドライン」におけるステージ分類では、器質的疾患はないがリスク因子を持つ「ステージA」、器質的疾患はあるが症状がない「ステージB」からの介入が推奨されている。健診での心房細動指摘は、まさにこのステージA・B段階での捕捉を意味する。

 自覚症状が出現するステージCへ進行させないために、健診結果を単なる「要精密検査」で終わらせず、適切な循環器専門医への受診勧奨と連携、その後の継続的な生活習慣介入を行うことが、保健指導専門職の重要な役割となる。

健診後の保健指導が、心臓の健康を守るための重要な役割に

 特定保健指導では、働く世代を中心に生活習慣病予防が推進されている。禁煙、節酒、血圧・血糖・脂質管理などの指導は、心房細動や心不全の予防にも直結する。中でも、心不全の増悪因子の一つとして、高血圧が関与している。
 高血圧や高血糖、脂質異常は自覚症状が乏しいため、健診で指摘されても放置されがちであるが、今回の研究は、健診で得られる情報が将来の脳・心血管疾患予防に資することを示している。

 研究グループは、「今後は、どのような人にどの頻度で心電図検査を行うのが効果的か、また心房細動発見後にどのような予防介入が有効かを明らかにしていきたい」と述べており、今後の産業保健分野への応用が期待される。

参 考

【研究成果】働く世代の検診で心房細動発見─脳梗塞5倍・心不全18倍リスク─|広島大学(2025年10月28日)
Screening-Detected Atrial Fibrillation and Cardiovascular Outcomes in Working-Age Adults|Circulation(2025年9月25日)
2025年改訂版心不全診療ガイドライン|日本心不全学会

[保健指導リソースガイド編集部]
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