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嚥下機能が低下した高齢者は睡眠の質も低下 のみこむ力を維持すれば睡眠の改善や全身の健康にもつながる 保健指導に期待

 食物などが、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態が誤嚥で、むせる、咳きこむといった症状が出てくる。肺炎の原因になるだけでなく、寝ているときにそうした症状が起こると睡眠の妨げにもなる。

 地域に暮らす高齢者での嚥下障害のリスクは、睡眠の質と関連していることが、広島大学などの調査で明らかになった。

 寝ているときにむせる、咳きこむといった症状が出ると、睡眠の妨げにもなる。高齢者の睡眠の質の低下は、認知機能の低下だけでなく、健康状態の悪化、身体能力の低下、フレイルなどとも関連する。

 「嚥下機能の維持に焦点をあてた、運動・口腔保健指導・栄養指導などの健康指導は、睡眠の質や健康の改善にも寄与する可能性があります」と、研究者は述べている。

誤嚥による咳などが高齢者の睡眠を妨げる原因に

 60歳以上の高齢者は、睡眠を維持することが困難になる傾向がある。睡眠維持の困難は、身体的要因と強く関連しており、誤嚥による咳なども原因のひとつとして報告されている。

 食物などが、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態が誤嚥で、むせる、咳きこむといった症状が出てくる。肺炎の原因になるだけでなく、寝ているときにそうした症状が起こると睡眠の妨げにもなる。

 年齢とともに嚥下機能が低下すると、睡眠中の嚥下制御はますます困難になり、睡眠の維持が困難になると考えられる。

 高齢者は、夜中に何度も目が覚めるなどで睡眠の質が低下し、心身の休養を十分にとれていない状態であっても、日中の眠気や倦怠感に気づきにくいことも報告されている。

嚥下機能が低下した高齢者は睡眠の質も低下 3000人超を調査

 そこで広島大学と名古屋大学の研究グループは、60歳以上の高齢者3,058人(男性 1,633人、女性 1,425人、平均年齢66.5歳)を対象に、嚥下障害リスクと睡眠の質の低下の関連について調査した。

 日本多施設共同コホート研究(J-MICC study)の一部である静岡研究と大幸研究の2012~2015年に実施された第2回調査から、自記式アンケートにより調査した。

 その結果、28.0%が嚥下障害リスクを有し、19.1%に睡眠の質の低下がみられた。嚥下障害と睡眠の関連を解析したところ、男性では嚥下障害のリスクがあると、睡眠の質の悪化[オッズ比 1.98、95%信頼区間 1.38~2.83]、睡眠不満足[同 1.69、同 1.29~2.20]、不規則な睡眠[同 1.88、1.20~2.94]と関連していることが明らかになった。

 女性でも、嚥下障害のリスクは、睡眠の質の悪化[同 1.39、同 1.00~1.92]、睡眠の持続時間が6時間未満[同1.47、同 1.02~2.14]と関連していた。その一方で、睡眠不満足、不規則な睡眠との関連はみられなかった。

嚥下障害のリスクのある高齢者は睡眠の質や時間などが悪化

出典:広島大学、2024年

嚥下機能に焦点をあてた保健指導が睡眠の質や健康の改善に寄与する可能性

 研究は、広島大学大学院医系科学研究科の濵陽子氏、内藤真理子教授、津賀一弘教授、名古屋大学大学院医学系研究科の若井建志教授らによるもの。研究成果は、「Heliyon」にオンライン掲載された。

 「地域に暮らす自立高齢者での嚥下障害のリスクは、睡眠の質と関連していました。高齢者の睡眠の質の低下は、認知機能の低下だけでなく、健康状態の悪化、身体能力の低下、フレイルなどとも関連することが報告されています」と、研究者は述べている。

 「高齢者は、昼寝で睡眠を補うことにより、睡眠の質の低下を意識していない場合もあると思われます。嚥下機能の低下による食事や水分摂取時のむせなどは、本人にとっても周囲の人々にとっても容易に観察できる症状であり、また運動などにより改善・維持できる可能性があります」。

 「嚥下機能の維持に焦点をあてた、運動・口腔保健指導・栄養指導などの健康指導は、睡眠の質や健康の改善にも寄与する可能性があります。しかし、睡眠維持の困難の要因となりえる胃食道逆流症や、ドライマウスについては評価していないため、さらなる研究が必要です」としている。

睡眠の質に対する嚥下機能の影響を調査

 研究グループは今回、嚥下障害リスクについて地域在住高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)を使用して、睡眠の質について日本語版ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI-J)を使用して評価した。睡眠に関しては、睡眠の質のほかに、睡眠時間、満足度、規則性に関する情報を取得した。

 睡眠の質の客観的評価には、1泊入院して頭や体にシールを貼り付けて睡眠中の脳派などを測定する睡眠ポリグラフ検査や、手首に小型センターを約2週間装着して睡眠のリズムを測定するアクチグラフなどの特殊な機械を使用した検査が必要となる。

 嚥下機能の低下は、30秒間に3回以上唾を飲みこむことができるかを測る反復唾液嚥下テストや、少量の水を飲んでむせなどがないかをみる改定水飲みテストなどの簡単なスクリーニング手法で評価することができるとしている。

 「睡眠の質に対する嚥下機能の影響を調査することは、嚥下機能の低下が睡眠に及ぼす潜在的な影響について、貴重な洞察が得られる可能性があります」と、研究者は述べている。

広島大学大学院医系科学研究科
Association between dysphagia risk and sleep quality in community-dwelling older adults: A cross-sectional study (Heliyon 2024年6月15日)
[Terahata]
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