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スマホアプリを活用し社会人のメンタルヘルスを改善 スマホで学ぶ認知行動スキルがうつ状態を改善 睡眠改善を支援するアプリも

 京都大学は、うつ状態のある成⼈を対象に、スマートフォンを⽤いて認知⾏動療法のスキルを⾃学⾃習できるアプリ「レジトレ︕」を開発し、効果を確認したと発表した。

 開発したのは、社会人の認知行動スキルを高め、ストレスを乗り越え回復する力(レジリエンス)を向上することを目的とするアプリ。ポケットに入れたスマホで、ストレスに強くなる⾃⼰トレーニングが可能になる。

 海外では、重度の飲酒者を対象に、インターネットを利用し、認知行動療法により睡眠の改善を支援するプログラムの開発も勧められている。

スマホで学ぶ5つの認知行動スキルがうつ状態を改善

 京都大学は、うつ状態のある成⼈を対象に、スマートフォンを⽤いて認知⾏動療法のスキルを⾃学⾃習できるアプリ「レジトレ︕」を開発し、このほど実施した試験で改善効果を得られることを確認したと発表した。

 「レジトレ︕」は、社会人の認知行動スキルを高め、ストレスを乗り越え回復する力(レジリエンス)を向上することを目的とするアプリ。1日5分からでも、ストレスを乗り越える力が鍛えられるとしている。

 閾値下うつ状態は、うつ病と診断されるほどではないものの、抑うつ気分や意欲低下などが継続している状態で、10%以上の人が経験しており、労働⽣産性の低下などの原因になる。

 認知⾏動療法(CBT)は、思考や⾏動に働きかけることで、⼼理的困難の軽減を⽬指す介⼊⽅法。

 「レジトレ︕」は、CBTの5つの重要なスキル(⾏動活性化、認知再構成、問題解決、アサーション、睡眠⾏動療法)を組み込んだアプリで、その組み合わせを6週間かけて提供し、個々のスキルを高めることを促す。

スマホアプリで認知行動スキルを学びうつ不安症状を改善

 研究グループは、全国からオンラインで募集した3,936人の参加者を、「レジトレ!」による介⼊と評価を通じて、実⽣活環境下でのうつ不安症状に対する効果を検証した。

 その結果、すべてのスキルがうつ状態を改善し、とくに[⾏動活性化+認知再構成]、[⾏動活性化+問題解決]、[⾏動活性化+アサーション]、[睡眠⾏動療法]で⾼い効果が示された。これらの効果は、26週間後も持続していた。

 ⾏動活性化は、抑うつ気分のときに避けがちな活動をあえて⾏うことで、気分や⾏動を改善する技法。認知再構成は、⾃動的に浮かぶ否定的な考え⽅に気づき、より柔軟で現実的な考え⽅に置き換える技法。アサーションは、⾃分の気持ちや意⾒を相⼿を尊重しながら適切に表現する対⼈スキルで、⾃⼰主張が苦⼿な⼈にとっては対⼈関係のストレスを軽減する⼿段となる。

5つの認知行動スキルでうつ状態を改善するスマホアプリ

ポケットに入れたスマホでストレスに強くなる⾃⼰トレーニング

 CBTは効果的な⼼理療法として確⽴されているが、これまで複数スキルを組み合わせた方法の有効性についてはよく分かっていなかった。

 「⼼理⽀援を受けづらい社会環境にある⼈々にとって、スマホを活⽤した新たなセルフヘルプ⼿段を提⽰することは、公衆衛⽣の観点からも⼤きな意義があります」と、研究者は述べている。

 「今回の研究は、オンライン同意取得、アプリ配信、効果評価までのすべての⼯程を遠隔で完結する分散型臨床試験として実施した点でも先進的であり、今後のデジタル介⼊研究のモデルケースとなる可能性を⽰しました」としている。

 今後は、CBTスキルの獲得を⽀援するスマホさえポケットに入れておけば、ストレスに強くなる⾃⼰トレーニングが可能となるばかりでなく(研究者らは「ポケットの中のセラピスト」と呼んでいる)、個⼈特性に応じたスキルマッチング、AIによる介⼊内容の最適化などを通じ、⼼理療法の個別化とスケーラブルな展開の両⽴が期待されるとしている。

 研究は、京都大学成⻑戦略本部の古川壽亮特定教授、医学研究科の⽥近亜蘭准教授、豊本莉恵特定助教、LUO Yan助教(研究当時)、中⼭健夫教授、近藤尚⼰教授、福間真悟特定教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Nature Medicine」にオンライン掲載された。

睡眠改善をサポートするアプリを開発

ストレスが不眠やアルコールの飲みすぎの原因に

 ストレスは、不眠症と危険な飲酒に影響を及ぼす可能性があるという調査結果を、米オハイオ州立大学が発表した。

 不眠症とアルコールの飲みすぎには双方向の関係があり、睡眠の問題を抱えている人の多くは、アルコールを乱用している可能性があるとしている。

 不眠症と危険な飲酒は、生活に大きな混乱をもたらし、欠勤や仕事の生産性の低下にもつながりやすい。さらに不眠症が慢性化すると、心血管疾患やアルツハイマー病などのリスクを高める可能性がある。

 研究グループは、インターネットを利用し、認知行動療法により健康的な睡眠を推進する技術の開発を進めている。

 「不眠症は危険な飲酒につながりやすく、ストレスが大きく関わっていることが示されました」と、同大学精神医学・行動保健学部のジェシカ ウィーファー氏は言う。

 「不眠症の人がストレスを抱えている場合、そのストレスを改善することで、不眠症が原因になる過度の飲酒を減らせる可能性があります」としている。

不眠症のある人がストレスを感じていると危険な飲酒につながりやすい

 研究グループは、睡眠不足で重度の飲酒習慣のある405人の男女を対象に、調査を実施した。その結果、不眠症のある人がストレスを感じていると、危険な飲酒につながりやすいことなどが示された。

 「ストレスやうつ病、あるいはその両方が睡眠障害や過度の飲酒の一因となっている可能性があります。不眠症はストレスへの影響を通じて、危険な飲酒につながり、危険な飲酒はうつ病のリスクを高めて、さらに深刻なものにしている可能性があります」と、研究者は述べている。

 研究グループは、重度の飲酒者を対象にインターネットを利用し、認知行動療法により改善するプログラム「SHUTi(インターネットを使った健康的な睡眠の推進)」の開発を進めている。2023年に実施したパイロット研究では、重度の飲酒者の不眠症を軽減する効果があることが示されたとしている。

 プログラムには、不眠症と睡眠、睡眠と覚醒のサイクルを整える行動、睡眠に対する考え方を変える認知行動療法、睡眠日誌、睡眠を改善するためのエクササイズなどが含まれている。

京都大学 成長戦略本部 (IAC)
Therapist in your pocket (京都大学 2025年4月25日)
Cognitive behavioral therapy skills via a smartphone app for subthreshold depression among adults in the community: the RESiLIENT randomized controlled trial (Nature Medicine 2025年4月23日)
Stress, depression factor into link between insomnia, heavy drinking (オハイオ州立大学 2025年4月14日)
Indirect effects of perceived stress and depression on the relationship between insomnia symptoms and hazardous drinking (Alcohol 2025年3月)

[Terahata]
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