10~20代の不調が定着化、企業は「ウェルビーイング」へ舵を切るも評価指標に課題 日本生産性本部「メンタルヘルス」調査より
日本生産性本部は11月、上場企業171社を対象とした第12回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果を公表した。
本調査からは、10~20代の若年層におけるメンタルヘルス不調が高止まりし、もはや一過性ではない「構造的課題」となっている実態が浮かび上がった。一方、企業の取り組みは従来のストレス対策中心から、「ウェルビーイング」や「働きがい」を重視する方向へと広がりを見せている。
本記事では、導入から10年を迎えたストレスチェック制度の課題や、評価指標設定に悩む企業の実態を整理し、産業保健の現場に求められる視点を読み解く。
若年層の不調、「特異傾向」から「構造的な課題」へ
「心の病が最も多い年代」を問う項目では、「10~20代」とする回答が37.6%で最多となった。前回調査(2023年:43.9%)からは微減したものの、2014年調査(18.4%)と比較すれば約2倍の水準にあり、若年層のメンタルヘルス不調は一過性の現象ではなく、構造的な課題として定着している。
2010年頃までは、「責任と権限のアンバランス」が生じやすい30代に不調が多い傾向がみられた。しかし2012年以降、年代差は縮小し、近年は若年層が最多となる傾向が続いている。
調査では、コロナ禍前後に入社した世代において、対人関係スキルや業務経験を十分に積みにくかった可能性が指摘されており、こうした環境要因が孤立感や成長実感の乏しさにつながっていると考えられる。
同時に、50代を最多とする回答も10%と過去最高を記録した点は見逃せない。若年層だけを対象とした支援では、組織全体のリスクに対応しきれない可能性が高い。
出典:「調査結果概要:2025「メンタルヘルスの取り組み」企業アンケート」P.1(日本生産性本部、2025年11月10日)
メンタル不調の増加傾向は「高止まり」働き方の変化が新たなリスク要因に
過去3年間の心の病の傾向を見ると、「増加傾向」と回答した企業は39.2%で、前回(45.0%)からやや低下したものの、依然として高い水準にある。「横ばい」は52.0%に達し、減少傾向はわずか4.7%にとどまった。
2010年代の比較的安定していた時期とは異なり、2023年以降は不調増加が継続しており、職場や働き方の変化がコロナ禍に伴う一過性のものではなく、新たなトレンドとして定着していることを示唆する。
従来型の「対症療法的なメンタルヘルス対策」だけでは、現代の複雑化したストレス要因に対応しきれないことは明白であり、予防的アプローチの再構築が急務である。
出典:「調査結果概要:2025「メンタルヘルスの取り組み」企業アンケート」P.2(日本生産性本部、2025年11月10日)
「予防」から「活性化」へ ウェルビーイング経営へのパラダイムシフト
企業の対策内容は、依然として「研修」「相談窓口」「ストレスチェック」等の二次・三次予防が中心である。特にストレスチェック制度は2015年の義務化以降、産業保健を支える基盤として定着している。
しかし注目すべきは、今回の調査で6割超の企業が、従業員の「心身の健康」に加え、「働きがい」や「エンゲージメント」の向上を重視している点だ。これは、メンタルヘルスを単なる予防ではなく、組織の生産性や革新性を支える要素として捉える動きが広がっていることを意味する。
いわば、不調を"減らす"から、働く人の"活力や働きがいを高める"方向への転換である。
一方で、推進上の課題として「費用対効果が不明確」(45.0%)、「評価指標の設定が難しい」(43.8%)が上位を占めた。ウェルビーイング施策の効果測定や評価方法が、多くの企業にとって難題となっている実態が浮き彫りになった。「ウェルビーイングの定義等が曖昧」との回答も30.2%あり、健康指標・職場環境指標・エンゲージメント指標をどう整理するかが、今後の実装の鍵となる。
「理念の浸透」が不調を防ぐ 組織風土という防波堤
組織風土とメンタルヘルスの相関に関する分析では、示唆に富む結果が得られた。
「会社の理念や経営方針は従業員に浸透しているか」という問いに対し、「(あまり)そう思わない」と回答した企業では、「心の病」の増加傾向が50.0%に達した。一方、「(やや)そう思う」と回答した企業では34.2%にとどまり、約16ポイントの差が開いた。
理念や経営方針の浸透は、従業員がアイデンティティを形成しやすくなり、仕事の見通しを持ちやすくなる効果があり、メンタルヘルスに良い影響を与えることが示唆された。
ストレスチェック制度、導入10年の「課題」
2015年12月にストレスチェック制度が義務化されてから約10年が経過したが、依然として課題は山積している。
最大の課題は「集団分析結果の活用」で65.3%に達し、依然として過半数の企業が活用法を模索している。次いで「高ストレス者への面接以外のフォロー」(35.9%)、「医師面接勧奨者が面接を希望しないこと」(31.8%)が続く。
「集団分析結果を職場改善につなげること」の重要性は認識されながらも、現場の管理職へのフィードバックが形式的なものに留まり、具体的なアクションプランに落とし込めていない現状がある。制度が「年一回のイベント」として形骸化しないよう、産業保健職による介入支援の質が改めて問われている。
出典:「調査結果概要:2025「メンタルヘルスの取り組み」企業アンケート」P.5(日本生産性本部、2025年11月10日)
参 考
第12回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果|日本生産性本部(2025年11月10日)
調査結果概要:2025「メンタルヘルスの取り組み」企業アンケート|日本生産性本部(2025年11月10日)
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