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高年齢労働者対策を努力義務化へ 改正安衛法に基づく大臣指針を令和8年4月施行

 厚生労働省の「高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会」は令和7年12月26日、報告書を公表した。令和8年4月1日施行の改正労働安全衛生法により、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善等の措置を講ずることが事業者の努力義務となる。
 報告書では、大臣指針の策定に向け、転倒・墜落対策や体力状況の把握、リスクアセスメントの実施など、具体的な方向性が示された。

60歳以上が死傷災害の3割 高齢化とともに度数率が上昇

 報告書によると、雇用者全体に占める60歳以上の割合は19.1%に達し、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の割合は30.0%となっている。休業4日以上の死傷災害の度数率は、男性は55~59歳、女性は50~54歳で全年齢平均を上回り、加齢に応じて上昇する傾向がある。また、休業見込期間も年齢が上がるにつれて長期化している。

 事故の型別では、「墜落・転落」や「転倒による骨折等」では、特に60歳以上で加齢に応じて著しく上昇する傾向が見られた。労働力人口の高齢化による影響を除去した試算でも、高齢化の影響によって労働災害の度数率は上昇しており、特に65歳以上の女性で増加傾向が顕著となっている。

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出典:「第1回高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会」資料2-1 P.8(厚生労働省、2025年9月8日)

加齢による身体機能低下と転倒・墜落リスクの関連

 検討会では、高年齢労働者の労働災害に関する国内外の調査研究が報告された。中央労働災害防止協会の年齢別身体機能測定結果では、加齢とともに評価値が低い者の割合が増加し、60歳以上でその傾向がより明確となっている。
 労働災害事例でも、床に足をとられる、何もないところでつまずくなど、身体機能の低下が要因と考えられる災害が確認されている。

 国内の研究では、第三次産業に従事する60〜75歳の労働者を対象とした調査において、フレイル群は非フレイル群と比較して転倒発生率が高く、フレイル状態の改善により転倒を予防できる可能性が示唆された。
 また、50歳以上の勤労者を対象とした米国のコホート研究では、仕事の要求度と身体機能にミスマッチがある場合に災害リスクが約2倍から4倍程度高いことが明らかになっている。

ガイドライン認知度は2割にとどまる 対策は道半ば

 厚生労働省は令和2年3月に「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を策定し、事業者の取組を促してきた。しかし、令和5年の労働安全衛生調査によると、ガイドラインを知っている事業場は23.1%に留まっている。

 高年齢労働者への労働災害防止対策の取組状況では、「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理」が56.5%と5割を超えたものの、「身体機能の低下等による労働災害発生リスクに関するリスクアセスメントの実施」は29.4%、「身体機能の低下を補う設備・装置の導入」は25.2%と、全体として取り組みは十分とは言えない状況であった。
 取り組んでいない理由として、「自社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」との回答が48.1%と最も多く、身体機能低下による労働災害リスクへの理解が十分に進んでいない実態が浮き彫りとなった。

新指針が示す5つの柱

 報告書が示した指針案では、事業者が講ずべき措置として以下の5項目を掲げている。

1. 安全衛生管理体制の確立等

 経営トップによる方針表明と体制整備、安全衛生委員会等での調査審議に加え、高年齢者の身体機能低下等による労働災害発生リスクについて、リスクアセスメントを実施することを求めている。

2. 職場環境の改善

 身体機能の低下を補う設備・装置の導入や、高年齢者の特性を考慮した作業管理を行うことを明記している。具体的には、照度の確保、階段への手すり設置、段差解消、床の滑り防止対策、重量物取扱いへの補助機器導入などが例示されている。

3. 高年齢者の健康や体力の状況把握

 法定の健康診断の確実な実施に加え、主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましいとされた。体力チェックについては、事業者・高年齢者双方が体力状況を客観的に把握し、体力に見合った作業に従事させるとともに、高年齢者自身が体力維持・向上に主体的に取り組む重要性も指摘された。

4. 高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応

 必要に応じた就業上の措置、個々の状況に適合する業務とのマッチング、身体機能等の維持・向上のための取り組みの実施などを求めている。

5. 安全衛生教育

 法令に基づく教育の確実な実施に加え、高年齢者が自らの身体機能低下が労働災害リスクにつながることを自覚し、体力維持や生活習慣改善の必要性の理解を促すことが求められている。また、管理監督者等に対する教育についても、体系的なキャリア教育の中に位置付けることが考えられるとしている。

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出典:「高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会報告書の概要」P.3(厚生労働省、2025年12月26日)

大臣指針を施行前に公表へ 周知と中小企業支援を強化

 厚生労働省は報告書の内容を踏まえ、改正労働安全衛生法施行前に、大臣指針の公表に向けて検討を進めるとしている。また、指針の認知度向上のため、わかりやすいリーフレットやパンフレット等を作成し、労働災害防止団体、都道府県労働局、労働基準監督署等を通じた周知・広報を展開する予定だ。

 さらにエイジフレンドリー補助金や中小規模事業場安全衛生サポート事業などにより、中小企業への取り組みを継続的に支援していく方針である。

 今回の指針案では、身体機能低下の把握や体力チェックの活用を明示した点が、従来の設備対策中心のアプローチから一歩踏み込んだ内容といえる。産業保健職にとっては、健康診断後のフォローや保健指導と労働災害防止対策を連動させる視点が、今後より重要になると考えられる。

参 考

「高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会」の報告書を公表します|厚生労働省(2025年12月26日)
第11高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会|厚生労働省

[保健指導リソースガイド編集部]