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「座りすぎ」に伴う経済的負担は年間約2,825億円 健診・保健指導での座位行動対策にも示唆

 日本人の長時間の座位行動、いわゆる「座りすぎ」に伴う経済的負担が、医療費や生産活動の損失を通じて年間約2,825億円に上ると推計された。東京都健康長寿医療センター研究所と早稲田大学の研究グループが、日本の成人における長時間の座位行動と慢性疾患に伴う経済的負担を分析し、5月12日に研究成果を公表した。
 負担が大きかった疾患は、糖尿病、循環器疾患、認知症などだった。産業保健の現場でも、「身体活動不足」への対策に加え、座位時間を減らすための職場環境づくりが重要な視点となりそうだ。

座りすぎに伴う経済的負担、直接医療費が8割超

 研究を行ったのは、東京都健康長寿医療センター研究所の光武誠吾研究員と早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループ。本研究は、国際学術誌『Journal of Public Health』に2026年4月24日付でオンライン掲載・発表された。

 本研究では、公的な全国統計データをもとに、人口寄与割合(PAF)を用いた費用推計を実施し、1日8時間以上の座位行動に関連する慢性疾患の経済的負担(直接医療費と間接費)を算出した。その結果、2021年度の経済的負担は、約2,825億円(95%信頼区間:2,589億~3,060億円)と推計された。内訳は、医療費などの直接医療費が約2,384億円、労働損失などの間接費が約441億円だった。

 欧米では同様の研究が複数報告されている一方、アジアでは、座りすぎによる国全体の経済的負担を推計した研究は限られていた。研究グループによると、座りすぎに伴う慢性疾患の経済的負担を推計したアジア初の研究であり、外来医療費と入院医療費を分けた分析も行ったという。

「The economic costs of excessive sedentary behaviour in Japan」(Journal of Public Health, 2026年4月24日)より作成

 長時間の座位行動は、筋活動の低下による糖・脂質代謝異常、血流停滞などを通じて、複数の慢性疾患リスクに関与すると考えられている。今回の研究は、その健康影響が医療経済面でも無視できない負担となっている可能性を示した。

WHOや国のガイドでも座位時間の短縮を推奨

 WHO(世界保健機関)は2020年版ガイドラインで、「身体活動を増やすこと」に加え、「座位時間を減らすこと」を推奨している。日本の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、長時間の座位行動を避ける必要性が明記された。

 近年は、一定の身体活動を行っていても、長時間の座位行動が健康リスクと関連する可能性が示されており、「運動すること」と「座りすぎないこと」は別個の健康課題として捉えられるようになっている。

外来では糖尿病、入院では認知症の負担が大きく

 疾患別にみると、総費用では座りすぎに関連する循環器疾患の負担が大きく、外来医療費では糖尿病、入院医療費では認知症の負担が最も大きいことが明らかになった。

 糖尿病は、定期的な受診や投薬、検査が長期にわたり継続するため、外来医療費が積み上がりやすい。一方、認知症では入院医療費における負担が大きく示された。ただし、今回の推計には介護サービス費などは含まれておらず、認知症に伴う社会的負担全体を示したものではない点には留意が必要だ。
 今回の結果は、こうした疾患負担の軽減に向け、職場での座位時間対策が重要となる可能性を示している。

 国立がん研究センターの多目的コホート研究では、仕事中の座位時間と死亡との関連が検討され、第1次産業従事者では、座位時間が長い群で死亡リスクが高くなる可能性が示された。一方、第2次・第3次産業従事者では同様の関連はみられなかった。
 厚生労働省の「e-ヘルスネット」でも、長時間の座位行動は総死亡率や循環器疾患死亡リスクの上昇と関連すると紹介されている。

 こうした知見を踏まえると、今回示された2,825億円という推計値は、職場での座位時間対策を考えるうえでも重要な示唆をもつ。今後は、働き方や職場環境の見直しも重要となる。従来の運動指導や生活習慣改善支援に加え、「座り続けにくい職場環境」をどう作るかが、産業保健における新たな課題となりそうだ。

健康寿命の延伸に向けて注目される「座りすぎ」対策

 今回の研究で示された経済的負担には、処方薬費や介護サービス費、保険診療外費用などは含まれていない。また、間接費についても、家族介護や欠勤などの社会的負担を十分に反映できていない。このため、実際の経済的負担は、今回の推計よりさらに大きい可能性がある。

 本研究に携わった光武研究員は、「個人が座りすぎない生活を心がけることが重要」と強調した。そのうえで、長時間の座位行動を中断しやすい職場環境や、健診や保健指導に座位行動対策を組み込むことが必要だとし、「社会全体で座りすぎを減らせる仕組みづくり」の重要性を訴えた。
 また、岡教授も「健康寿命の延伸に関わって、座りすぎ対策に関係した取り組みや制度・政策を立案していく際に有益な情報になる」と政策立案への活用を促した。

 保健指導の現場でも、運動習慣の定着を支援するだけでなく、日常生活や職場のなかで座位時間を減らす視点を取り入れることが重要になりそうだ。

参 考

<プレスリリース>日本の成人における座りすぎに伴う慢性疾患による経済的負担は年間約2,825億円と推計|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所(2026年5月12日)
The economic costs of excessive sedentary behaviour in Japan|Journal of Public Health(2026年4月24日)
健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023|厚生労働省(2024年1月)
身体活動および座位行動に関するガイドライン|WHO
多目的コホート研究|国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト
座位行動と死亡率の関係|厚生労働省 健康日本21アクション支援システム

[保健指導リソースガイド編集部]