【高齢者の転倒を防止】高齢者のフラツキや不安定な歩行の原因を解明 筋肉の減少・低下やビタミンB不足など
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高齢者に特有な、緩徐に進行する持続性のフラツキや不安定な歩行の主な原因を明らかにしたと、順天堂大学が発表した。
フラツキと不安定歩行のある高齢者の93%以上で、これらの3主因が独立または複合的に関連しているという。
日本ではじめての、高齢者の難治性の平衡障害、フラツキ、不安定な歩行を専門に診断、治療する「めまいリハビリ入院」プログラムを開設。
高齢者のフラツキや不安定な歩行の原因を解明
順天堂大学は、高齢者に特有な緩徐に進行する持続性のフラツキや不安定な歩行の主な原因が、▼前庭機能低下、▼筋機能障害、▼睡眠障害であることを明らかにした。
フラツキと不安定歩行のある高齢者のうち、93%以上の症例でこれらの3主因が独立あるいは複合的に関連しており、その重症度スコアの合計が高い患者ほど症状が重症であることが示された。
高齢期の筋肉量の減少や筋機能の低下は歩行障害や転倒の主なリスクとなる。ビタミンB1とB12の低下も身体機能と関連しているなどとしている。
研究は、順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター耳鼻咽喉科の池田勝久特任教授、リハビリテーション科の高倉朋和科長、臨床検査科の杉原匡美科長、眼科の小野浩一科長の研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Geriatrics」にオンライン掲載された。
同センターでは、2021年12月から日本ではじめて、高齢者の難治性の平衡障害、フラツキ、不安定な歩行を専門に診断・治療する、2泊3日の「めまいリハビリ入院」プログラムを開設し、多数の症例を解析して今回の研究成果となった。
プログラムの検査には、体組成計測、平衡機能検査、睡眠検査、視力検査、認知検査、血液脈波検査、心電図、呼吸機能が含まれ、治療は、前庭リハビリテーション、栄養指導などから構成されている。
「根本的原因に応じて適切な治療法や対策を選択することで、高齢者の偶発的な転倒を防ぐことが期待されます」と、研究者は述べている。
順天堂東京江東高齢者医療センター
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高齢者に多いフラツキと不安定な歩行は転倒事故と関連
高齢者に多くみられる症状として、フラツキと不安定な歩行がある。フラツキや不安定な歩行は、高齢者の転倒事故とも関連している。
日本では、在宅高齢者の転倒事故の年間発生率は10~25%、施設入居者では10~15%に上る。高齢者の転倒による外傷の発生率は54~70%で、死亡にいたる症例数は交通事故の4倍と報告されている。
原因として、加齢性前庭障害による平衡器官の衰えや、加齢性視力低下による視覚情報の低下が、高齢者のめまいや浮動性歩行に寄与することが知られている。
体のバランスを司る内耳の前庭の機能が、加齢により両側が低下した結果、姿勢の不安定性、歩行障害、繰り返す転倒などで特徴される慢性的な障害が引き起こされる。
高齢期の筋肉量の減少や筋機能の低下は、歩行障害や転倒の主なリスクになる。閉塞性睡眠時無呼吸に関連する睡眠の質の悪化も、転倒リスクの増加と関連している。
また、睡眠時無呼吸による脳認知機能の低下と、加齢にともなう脳の変化によるバランスの認知能力の低下があいまって、フラツキと不安定な歩行が悪化する。さらにビタミンB1とB12の低下も身体機能と関連している。
93%超で3つの因子がめまいと不安定な歩行の原因に
今回の調査には、フラツキと不安定歩行のある患者164人が登録された。男性 48人、女性 116人で、女性/男性比は2.41/1だった。患者の年齢は59~91歳(平均年齢 80.5±6.1歳)で、ほとんどは75~89歳の範囲に入っており、80~84歳の患者がもっとも多く認められた。
有病率の高い3つの因子は、▼前庭機能低下、▼サルコペニア/フレイル、▼閉塞性睡眠時無呼吸で、それぞれ50%以上だった。
その他には、▼ビタミンB1/B12欠乏(23%)、▼認知障害(4.9%)、▼視覚障害(5.0%)があった。
前庭機能低下、サルコペニア/フレイル、閉塞性睡眠時無呼吸の有病率の分布をみたところ、3つの因子すべてで陽性所見を示した患者は19%、2つの因子で陽性を示した患者は41%、前庭機能低下と閉塞性睡眠時無呼吸が16%、サルコペニア/フレイルと閉塞性睡眠時無呼吸が13%、前庭機能低下とサルコペニア/フレイルが12%だった。
また、33%は1つの因子で陽性を示し、サルコペニア/フレイルが14%、閉塞性睡眠時無呼吸が11%、前庭機能低下が8%陽性だった。
3つの因子で明らかな障害を示さなかったのはわずか7%だった。患者の93%超で、これらの3つの因子がめまいと不安定な歩行の原因となることが示された。
食事でサルコペニア/フレイルを予防 トレーニングやリハビリで改善
「以上のように、前庭機能低下、筋機能障害、睡眠障害という3つの原因因子が、患者の93%以上で独立してあるいは複合的に関連していました。これら3つの原因因子の重症スコアが高い患者は、フラツキスコアも高くなり、重症の所見を呈しました」と、研究者は述べている。
「患者の23%はビタミンB1および/あるいはB12欠乏を合併していました。認知障害と視覚障害は、それぞれ4.9%と5.0%で認められました。根本的な原因に応じて適切な治療法を選択することで、高齢者の偶発的な転倒を防ぐことが期待できます」としている。
高齢者のフラツキと不安定な歩行には、さまざまな原因が単独あるいは複合的に関与していることが判明したことから、今後の展開としては、患者1人ひとりの原因や病態に適した治療法(個別化治療)が必要となるとしている。
前庭機能低下に対しては前庭リハビリテーションと呼称される運動療法が有用で、前庭リハビリテーションには以下の2つの運動が含まれるとしている。
▼眼球運動のトレーニングを1日少なくとも計20~40分間を5~7週間行う、また▼静的・動的バランストレーニングを1日少なくとも計20分間を4~9週間行うことを推奨している。
サルコペニア/フレイルでは、運動と食事は重要な治療法で、十分なタンパク質(1日体重1kgあたり1.2~1.5g)を含む食事の摂取(栄養指導)とともに、筋肉トレーニングが筋力の回復に有用としている。家族の支援や近郊のデイケア施設などの利用が必要となる。
重症の閉塞性睡眠時無呼吸には、持続陽圧呼吸療法(CPAP)が有用で、CPAP療法によってフラツキや不安定な歩行の軽減が認められるとしている。
欠乏したビタミンB1やB12の補充療法も、フラツキや不安定な歩行の改善に有用。認知症や視力障害が合併する場合には、詳しい検査や治療を専門施設で受けることも重要になる。
「今回の研究では明らかな原因として知られている炎症性内耳疾患、脳血管障害、神経変性疾患、認知症、失明などの症例は含めておりませんが、近年注目されている疾患として持続性知覚性姿勢誘発めまいも原因不明のフラツキや不安定な歩行を引き起こすことが知られるようになりました。今後は持続性知覚性姿勢誘発めまいも鑑別診断として検討する必要があります」と、研究者は述べている。
順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター
「めまいリハビリ入院」プログラム
Dizziness and unstable gait in the older adults are associated with vestibular hypofunction, muscle dysfunction and sleep disturbance: impact on prevention of accidental falls (BMC Geriatrics 2024年12月27日)
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