「今後の労働安全衛生対策」建議、安衛法等一部改正案を「妥当」と答申
ーすべての事業場へのストレスチェック義務化などを盛り込む
労働政策審議会は、昨年4月から安全衛生分科会で11回にわたり議論を重ね、今年1月に「今後の労働安全衛生対策」に関する建議を行った。これを受け、厚生労働省は「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」について諮問を行い、同審議会はこれを「妥当」との答申を行った。
この建議には個人事業者への健康・安全対策や職場のメンタルヘルス対策、治療と仕事の両立支援対策の推進などが盛り込まれている。
時代とともに大きく変化してきた労働安全衛生対策
労働安全衛生法(安衛法)は昭和47(1972)年に制定された。当時は高度経済成長期の終わりごろで、労働災害が多発し、総合的な労働安全衛生に関する規制を整備する必要性が高まり、労働基準法の関連規制を独立・拡充させる形で成立したのが安衛法だ。
制定からほぼ半世紀が経過し、この間、労災死亡者が大幅に減少するなど、産業保健に大きく貢献してきた。この法律や安全意識の向上によって、一時は年5,000人を超えていた労災死亡者も、平成27(2015)年以降1,000人を切り、現在は年700人台(令和5年:755人)まで減少している。
しかし、近年になって制定時には想定していなかった問題が次々と発生してきた。その一つがメンタルヘルス不調者への対応。平成27年には常時使用する労働者が50人以上の企業にストレスチェック実施の義務化など対策を講じてきた。
だが、強い心理的負荷による精神疾患の労災の認定件数は、年々増加傾向を示しており、いまだに課題を抱えている。
また、高年齢労働者の増加に伴い、定期健診の有所見率は上昇し、がん、脳卒中、心臓病などの有病率も増加してきた。その予防対策とともに「就労と治療の両立支援」が大きな課題となってきた。
それに加えて女性労働者も増加し、就労する女性の半数以上が「女性特有の健康問題」で困った経験を有するという調査結果もあり、働く女性の健康問題も喫緊の課題である。
さらに、インターネットの発展と新型コロナウイルス感染症拡大によって急速に広がったテレワークや、働き方の多様化によるフリーランス(個人事業者)の増加など、新たなテーマも現れている。
労政審議会からの労働安全衛生対策建議は7項目
安衛法等の一部改正法案の要綱を「妥当」と答申
これら新しく生じてきた健康課題に対応するため、厚労省はそれぞれの課題ごとに有識者による検討会などを設け、その議論をとりまとめて労働政策審議会で内容を検討してきた。
今年度は昨年4月以来、審議会で11回にわたる議論を重ね、今年1月17日に「今後の労働安全衛生対策について」の建議が出された。
建議に盛り込まれた主な項目は以下の7つ。
建議内容を踏まえ、厚労省は1月27日、審議会に対し「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」について諮問を行った。同日、審議会はこの案を「妥当と認める」と答申。厚労省はそれらに関わる法律案を作成し、令和7年度の通常国会に提出する予定だ。
施行期日は、一部の規定を除き、「令和8年4月1日」としている。
ストレスチェック義務施行日は公布日から3年以内に政令で決定
地産保の登録産業医充実など、体制整備を図る意向も示される
このうち、職場のメンタルヘルス対策の推進の一環であるストレスチェックの実施義務対象の拡大の施行期日については、十分な準備期間の確保が必要であるとし、「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とした。
建議では「精神障害の労災支給決定件数が令和5年度には883件と過去最多になり、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業場の割合は、近年上昇傾向にあり、1割を超えて推移しているなど、働く人のメンタルヘルス対策への対応が必要となっている」と現状を分析。
一方で、ストレスチェック制度は「一定の成果を挙げている」との認識を示したうえで、「50人未満の事業場においては当分の間ストレスチェック実施が努力義務」とされてきたが、制度創設時から対応可能な環境も整備され、「事業場規模にかかわらずストレスチェックの実施を義務とすることが適当」と説明している。
その際、労働者のプライバシー保護の観点から、原則として、外部委託を推奨している。一般定期健康診断と同様、50人未満の事業場には負担軽減の観点から報告義務を課さない方向性を示した。
また、国に対しては実効性のある実施体制・方法についてのマニュアルの整備と、高ストレス者の面接指導に無料で対応している地域産業保健センターの体制整備など、50人未満の事業場に対する十分な支援策を講じるべきとした。
このストレスチェックを全事業所に拡大することに対し、福岡資麿厚生労働大臣は、2月4日の閣議後会見において「審議会での議論を踏まえ、1つには、施行までの十分な準備期間を確保するということ、あわせて、高ストレス者の面接指導に無料で対応している地域産業保健センターにおける登録産業医の充実等の体制整備を図っていくこと、あわせて、実施体制・実施方法についてのマニュアルの整備等、50人未満の事業場に即した十分な支援ができるように対応を検討」すると述べ、地産保の登録産業医の充実などの体制整備を図る意向を示した。
参考資料
労働政策審議会 (安全衛生分科会)|厚生労働省
労働政策審議会建議「今後の労働安全衛生対策について」を公表します|厚生労働省
「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案要綱」の諮問及び答申について|厚生労働省
早わかり グラフでみる長期労働統計「図1 労働災害による死傷者数、死亡者数」|労働政策研究・研修機構(JILPT)


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