男性で「毎日2合以上」の飲酒に腎機能低下リスク 大阪府17万人の特定健診データで判明
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの研究グループは、大阪府の特定健診データ約17万人分を用いた追跡調査で、「毎日日本酒2合相当(アルコール40g)以上を飲む男性」では、腎機能(eGFR)が30%以上低下するリスクが高いことを明らかにした。
これまで不明確だった「2合以上3合未満」の飲酒量と腎機能の関係を初めて定量的に示した研究であり、飲酒量に応じたリスク評価や生活習慣改善の指導など、保健指導の質向上につながる成果といえる。
「2合〜3合未満」の影響を初めて定量化
厚生労働省は、毎日日本酒1合相当の飲酒を適量としており、それ以上の飲酒では健康リスクにつながる可能性があることを提唱している。
国民健康・栄養調査では「週に3日以上、飲酒日1日あたり清酒換算で1合以上飲酒する人」を「飲酒習慣がある者」の定義としている。 習慣飲酒自体が健康に悪影響を与えるわけではないが、アルコールには耐性があるため、結果として飲酒量が増大し、アルコール関連問題を引き起こすことがある。
過去の疫学研究における飲酒量定義にはばらつきがあり、多量飲酒と腎機能の関連について一貫性がなかった。腎臓との関連を調べた日本人304,929名(男性125,698名、女性179,231名)を対象とした過去最大規模の疫学研究では、毎日2合未満の飲酒では腎機能低下が見られなかった。
一方で、毎日3合以上の飲酒をする男性で腎機能低下のリスクが高いことが報告されており、毎日2合以上3合未満の飲酒については、腎機能低下との関連は不明な点が多かった。
飲酒の影響は性差による違いもあり、一般的に女性は男性に比べて分解できるアルコールの量が少ないため、アルコールの影響を受けやすいことが知られている。これらのことから、飲酒量の詳細なカテゴリーを設定し、性差による腎機能の影響を検討する必要があった。
大阪府17万人の特定健診データから、2合以上の飲酒で腎機能低下リスク上昇
研究は、大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの中村祐子特任助教(常勤)、山本陵平教授らの研究グループによるもの。研究成果は、2025年7月13日(日本時間)に国際医学誌「Journal of Nephrology」(オンライン)に掲載された。
2012~2017年度に大阪府で特定健診を受診した40-74歳の男女169,272名(男性80,765名、女性88,507名)のデータを用い、飲酒量と腎機能(eGFR)低下との関連を男女別にそれぞれ検討。飲酒量は、①ほとんど飲まない、②ときどき飲む、③毎日1合未満、④毎日1~2合未満、⑤毎日2~3合未満、⑥毎日3合以上の6カテゴリに分類した。
中央値2.8年間の追跡期間で、男性1,231名(1.5%)が腎機能30%以上低下していた。特に「2~3合未満」「3合以上」のカテゴリでは、飲まない人と比べて、腎機能低下のリスクがそれぞれ1.23倍と1.61倍に跳ね上がっていた。一方、女性では飲酒者が少なかったことから、十分な検討ができなかった。
男性の飲酒者の腎機能低下との関連結果
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①ほとんど飲まない:1.00倍(基準)
②ときどき飲む:1.05倍[95%信頼区間0.87-1.27]
③毎日1合未満:0.99倍[同0.80-1.21]
④毎日1~2合未満:1.05倍[同0.88-1.26])
⑤毎日2~3合未満:1.23倍[同1.01-1.51]
⑥毎日3合以上:1.61倍[同1.22-2.11]
男性に加え、女性の飲酒リスク評価も今後の課題に
日本では、戦後の経済発展に伴い、90年代後半まで飲酒量が増加し、それに伴う飲酒問題が生じてきた。高齢化もあり、近年では男性の飲酒量は減少しているが、その一方で女性の飲酒量の増大が問題となっている。
厚生労働省の令和元年調査では、習慣飲酒者(週3回以上の飲酒)は、男性では平成元年(1989年)の51.5%に比べ、令和元年(2019年)では33.9%にまで大きく減少し、全ての年代で減少していた。
一方で、女性では6.3%から8.8%に増加、30代から70代までの幅広い年齢層で習慣飲酒率が増加しているのがグラフから読み取れる。
年代別習慣飲酒率(女性、平成元年-令和元年)
出典:厚生労働省・健康づくりサポートネット「わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移」図3
また、女性には、男性とは異なる次のような飲酒リスクが知られている。
- 女性は体格が小さく水分量が少ないため、アルコール濃度が高くなりやすい。アルコール分解能力は男性の約3/4程度。
- 女性は男性の半分〜2/3の飲酒量で肝障害(脂肪肝・肝硬変など)を起こしやすい。
- アルコールは女性ホルモンを介して乳がんリスクを高める可能性がある。
- 大量飲酒は骨密度を低下させ、骨粗鬆症や骨折の原因に。
2024年に公表された「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」でも、お酒の影響を受けやすい要因のひとつとして「性別の違い」が取り上げられており、「一般的に男性と比べて体内の水分量が少なく、分解できるアルコール量も少ないため、アルコールの影響を受けやすい」と警鐘を鳴らしている。
* * *
本研究では、女性では飲酒者が少なかったため十分な検討ができなかったが、男性において毎日2合以上の飲酒で腎機能低下リスクが高い可能性が示された。
「今回の知見は、飲酒による腎機能への影響が、従来考えられていた量よりも低用量で現れる可能性を意味しています。今後は飲酒による腎機能低下も合わせた保健指導が求められます」と研究者は指摘している。
参考資料
毎日日本酒2合相当の飲酒から、 男性の腎機能低下リスクが高まる|大阪大学
Alcohol consumption and incidence of decline in glomerular filtration rate and of proteinuria: the Osaka Kenko Innovation (TOKI) study|Journal of Nephrology
わが国の飲酒パターンとアルコール関連問題の推移|厚生労働省・健康づくりサポートネット
女性の飲酒と健康|厚生労働省・健康づくりサポートネット
健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて|厚生労働省
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