植物由来成分の併用で炎症関連遺伝子の抑制が増強 メントールとカプサイシンの相乗効果を細胞実験で確認
東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科の有村源一郎教授らの研究グループは、マウス由来の免疫細胞を用いた試験において、ミント由来成分(メントール)とトウガラシ由来成分(カプサイシン)を組み合わせることで、炎症関連遺伝子の発現抑制効果が、単独使用時と比較して増強されることを示した。特にメントールとカプサイシンの併用では、特定条件下で最大約700倍の増強が確認された。
本研究は培養細胞を用いた基礎研究段階(in vitro)ではあるが、植物由来成分の相乗作用を解明することで、将来的に低用量で高い効果を発揮する機能性食品の開発や、慢性炎症を基盤とする生活習慣病予防戦略への貢献が期待される。
フィトケミカルの相乗作用に着目した研究背景
植物由来の天然化合物(フィトケミカル)が持つ抗炎症作用の活用が期待されている。シリビニンとジベンゾイルメタン、チコリ酸とルテオリン*1など、複数成分の組み合わせによる相乗効果も報告されているが、その増強幅は数倍程度にとどまり、どの組み合わせがより強い効果を生むのか、またその分子メカニズムは十分に解明されていなかった。
有村教授らは、香辛料やハーブが古くから経験的に組み合わされてきた背景に科学的合理性を見出し、異なる生理活性物質の相互作用を検証することで、より効率的な抗炎症アプローチの確立を目指している。
マウス由来免疫細胞における4種類の植物成分の検証
本研究成果は2026年1月23日、国際学術誌「Nutrients」にオンライン掲載された。研究グループは、メントール(ミント由来)、1,8-シネオール(ユーカリ精油由来)、β-オイデスモール(キク科の生薬の1種であるソウジュツ由来)、カプサイシン(トウガラシ由来)の4種類を用い、マウス由来免疫細胞(RAW264.7)に対する抗炎症作用を検証した。
各成分を単独で投与したところ、炎症性サイトカインTNF-α遺伝子*2の発現はいずれも抑制され、特にカプサイシンは他成分の100倍以上低い濃度で効果を示した。
さらにカプサイシンを基軸とした併用試験では、顕著な相乗効果が確認された。メントールとの併用ではTNF-α遺伝子の発現抑制効果が、相加効果を大きく上回る約699倍に増強された。また、別の炎症性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)においても、メントール併用で28.3倍、1,8-シネオール併用で5.9倍の相乗効果が得られた。
作用機序の解析により、メントール、1,8-シネオール、β-オイデスモールはTRPチャネル*3を介して細胞内カルシウム流入を促す経路で作用する一方、カプサイシンは本実験濃度においてTRPチャネルを介さず、PKM2やLDHAといった細胞内代謝・シグナル伝達分子を直接標的とする経路で作用することが示唆された。
異なる作用経路を持つ成分を組み合わせることで、互いの作用が補完され、強力な抗炎症効果が生じたものと考えられる。
*3 TRPチャネル:温度や刺激性化合物を感知する感覚センサー型イオンチャネル。2021年にデイヴィッド・ジュリアス博士が「温度と触覚の受容体の発見」としてノーベル生理学・医学賞受賞。
生活習慣病予防への応用に向けた可能性と課題
本研究成果は、慢性炎症を基盤とする生活習慣病の予防において、将来的に「成分の組み合わせ」を活用した新たな選択肢を示すものである。植物由来成分の相乗作用を応用できれば、個々の成分の摂取量を抑えつつ、高い機能性を発揮する食品やサプリメントの開発につながる可能性がある。これは過剰摂取による副作用(消化器刺激等)の回避やコスト低減の観点からも有用である。
ただし、本知見は培養細胞を用いたin vitro試験の結果であり、ヒトにおける経口摂取時のバイオアベイラビリティ(吸収率や血中濃度推移)については今後の検証を待つ必要がある。本研究で用いられた濃度条件は通常の食事摂取量とは必ずしも一致せず、同様の作用が体内で再現されるかは不明である。
保健指導の現場においては、現時点で特定の成分摂取を推奨する段階ではないが、食生活の多様性や香辛料・ハーブの活用が持つ潜在的なメリットを伝える際の一助となるだろう。
参 考
ミント由来成分とトウガラシ由来成分の併用で抗炎症効果が数百倍に増強~身近な食品成分の組み合わせを活用した生活習慣病予防に期待~|東京理科大学
(2026年 2月17日)
Functional Phytochemicals Cooperatively Suppress Inflammation in RAW264.7 Cells|Nutrients
(2026年 1月23日)
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